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元婚約者に全てを奪われたので、祈りの刺繍で人生立て直したら雇い主がまさかの王子様でした!?  作者: 魯恒凛


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39.加護刺繍の調査(ネルSide)

 俺は着替えを済ませてからすぐに二の兄の元へ向かった。リュシアの商会と家を買った人物を辿るために、王家の影を少し借りたいからだ。

 先触れを出したこともあり、エルディオス兄さんは優雅にティーカップを口に運びながら、俺を待ち構えていた。


「仕事の手を止めてしまいましたか? すみません」

「いや、構わない。で、今回は何を調べているんだ?」

「うちの大事な従業員が違法に取られた商会を取り戻したくて。だけど、買主がちょっとあやしいから調べたいんだ」

「ほう……正規の方法では辿れなかったんだな?」


 俺はこくりと頷いた。この買主、なかなか手ごわい。

 表向きの買主にリュシアからの手紙を届けるべきなんだろうけど……。事実関係を把握しておかないと、やっていることが全て水の泡になる可能性だってある。リュシアのためにも背後関係を知ったうえで、早く取り戻してやりたい。


 数名の影を借りられることになり、少し世間話をしてから退出しようとしていた時だった。外の回廊から響く騒がしい声。


『ここを開けて! 聖女に対してそんな態度を取ったらどうなると? あなたの周りにきっと不幸が訪れるわよ!』


 顔を見なくてもわかる。セリナだ。相変わらず突撃してるんだな。まったく、朝からけたたましい。

 エルディオス兄さんの顔をちらりと見ると涼しい顔でティーカップを手にしているが、内心はげんなりしていることだろう。


「……そろそろ追い出したら? 兄さん」

「セリナ嬢をか?」

 

 俺の言葉にエルディオス兄さんは静かに眉を上げる。宰相補佐としては難しい選択か。


「セリナ嬢、縫いの加護がある聖女って持ち上げられてるけど、まったく刺繍をする気配がないんだろう?」

「……ああ。確かに、縫わぬ聖女ではただの飾り物だな」

「ええ。刺繍の加護は……縫う人が願って、誰かがその意味を信じて使えば、それだけで何かが動くんだと思います。実際、俺も一枚の刺繍布に背中を押された気がしますし」


 エルディオス兄さんが目を細めた。


「エルネリオ。それだと誰でも聖女になれると言っているように聞こえるぞ」

「……誰でも、誰かのために祈ることはできるんじゃないかな、と思っただけ」


 俺はそう言って肩をすくめた。……リュシアの存在は兄さんにも言うつもりはない。あいつの言うとおり、誰もが誰かのために祈れば、それが加護になるってことでいいと思う。

 それに、そもそもセリナは偽者であって、リュシアの功績を横取りした偽聖女だ。その事実は兄さんにも言えないが、あの女が聖女だと持ち上げられてちやほやされている現状は許せない。


 エルディオス兄さんは腕組みをし、しばらく指先でとんとんと何かを思案していた。そのうち、おもむろに書類の束から一枚の命令書を抜き取った。


「よし。追求の段取りを取る。監察を通して正式に真偽を問う」


 そう言うや否や、補佐官を呼び寄せる。


「セリナ嬢に一週間の猶予を与える。刺繍入りハンカチを一枚、自ら仕上げさせろ。もし、仕上がらなかった場合は虚偽の申告をしたとして、今までの贅沢の限りを清算させ罪に問うと伝えろ」


 ――セリナ、自業自得だ。ざまぁみろ。

 

 俺はそのやり取りを聞きながら、優雅に紅茶を口にした。

 補佐官を見送ると、エルディオス兄さんが、ふうっと浅く息を吐いた。


「ところでエルネリオ。以前、糸守人について、調べていただろう?」


 俺はカップを置き、小さく頷いた。


「ええ。刺繍のことを調べていた際に。対面したことはありませんが、それがどうかしましたか?」

「私の方でも調べたんだが……近々、召喚するつもりだ」

「……召喚を?」

「ああ。セリナ嬢の一件で縫いの加護について本格的に調査を始めたんだ。縫いの加護が本当にあるなら、国として放置するわけにはいかない。民の不安にも過度な期待にも繋がりかねないし、真偽を確認する必要がある」


 俺は視線を落とす。……本格的に調査を? リュシアのこと、バレないよな……。

 もし、糸守人の加護が本物でその人物に注目が集まれば、リュシアのことは隠し通せるんじゃないだろうか。


「……俺も、その人物と話をさせてもらっていいですか?」

「ああ。召喚した暁には、立ち会うといい」

「いいんですか?」

「最近、刺繍に詳しいようだしな。構わないよ」

「ありがとうございます、兄さん」


 その糸守人がどうなるのかはわからない。だけど、兄さんのことだから、無理に囲ったり監禁したりすることはないはずだ。

 それでも噂が広まりつつある今、その人の加護が本物なら、危険に晒されないよう護衛も付けた方がいいのかもしれない。


 そういえば……。三の義姉上からもらったハンカチ。見事な刺繍がしてあったな。


 一度、リュシアに見せてみようか。


 ――わぁ、すごい。繊細な刺繍ですね。とっても素敵だわ。


 俺はリュシアの喜ぶ顔を思い浮かべながら、兄さんの執務室を後にした。


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