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元婚約者に全てを奪われたので、祈りの刺繍で人生立て直したら雇い主がまさかの王子様でした!?  作者: 魯恒凛


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38.好き嫌い(ネルSide)

 王宮に向かって動き出した馬車の中。向かいに座るヴィスが興味津々でサンドイッチの包みを開く。


「卵とベーコンのマスタード添えサンドイッチ。こちらはチキンと玉ねぎとトマトのサンドイッチですね。ネル様のは?」

「……」


 俺はガサガサと包みを開け、中身を確認した。リュシアは何の具材を抜いたんだ? 俺は包みを開いてすぐに気がついた。


「……あっ、玉ねぎが入ってない」

「へぇ、リュシアさん、すごいですね。今までネル様の嫌いな物、誰にもバレたことがなかったのに」

「俺、普通に食べてたつもりだったんだけど……あいつ、よくわかったな」


 そう、俺は生で食べる玉ねぎが苦手だ。あの辛みの刺激が強すぎて、焼いてくれればなんとかなるんだが。

 

 だけど、王族の一人として、好き嫌いは顔に出さないよう育てられてきた。どちらも弱みになるからとの理由だったけど、おかげで何を出されても嫌な顔ひとつせず食べることができる。外交や会食の席でかなり助かってはいるが……。


 俺は玉ねぎ抜きのサンドイッチにかぶりついた。向かいでヴィスもサンドイッチを頬張る。


「……リュシアさん、周りの人をよく観察してますよね。細かい作業をする人だから、やっぱり繊細なんでしょうか」

「ああ、確かにそうなのかも。気遣い半端ないよな……。ほら、おまえと俺のサンドイッチ、ベーコンの焼き加減が違う」

「あっ……ほんとだ。そうなんです。私はしっとり焼きが好きで。ネル様はカリカリ焼きですよね」


 ヴィスは自分の好みまで把握されていることが、うれしそうだ。誰だって、自分のためを想って何かをしてくれるという行為は心が温まる。

 

 俺はふと、ヴィスに尋ねてみた。


「なあ、ヴィス。リュシアのこと、どう思う?」

「どうとは……? なんとか商会を取り戻してあげたいですね。……そうじゃなくて?」

「んんっ。なんつーか……。リュシアのこと、放っておけないってヴィスも思うだろう?」

「……まあ、一生懸命な方ですし、手を貸してあげたくはなりますね」

「だよな」


 うん。やっぱりヴィスもそう思うか、と納得する。幼馴染のヴィスとは学園も留学もずっと一緒だ。信頼しているヴィスがそう言うのなら、俺のこの気持ちも何らおかしくない。

 

 そうこうしているうちに馬車は王宮の門をくぐり、整備された道をしばらく進むと俺の宮殿へと到着した。


 執事や使用人たちが出迎える。


「おかえりなさいませ。エルネリオ殿下。朝食はどうされますか」

「ん。食べてきたからいらない。着替えたらすぐにエルディオス兄さんの執務室へ行く。一応、後ほど伺うと先触れを出しておいてくれ。ああ、それから午後にはもう出るから、厨房に焼き菓子を頼めるか? 若い女性へのお土産だ」

「はっ。……は?」


 使用人たちからどよめきが起こる。あちこちから聞こえるひそひそ声にイラっとした。


「言いたいことがあるならはっきり言え」

「いえ、その……殿下から女性への贈り物をすると聞くのは初めてでして……」


 え? そ、そうだったかな。二十四年間、一度もなかったか……? いや、そんなはずはない。


「母上や義姉上に最低でも月一回は焼き菓子を贈っているじゃないか。失礼な」

 

「それは身内で……」「ご家族以外では初めてよね」と言う使用人たちの声を耳が拾ってしまう。……そういえばそうか? だけど。


「リュシアは身内みたいなもんだ。もうこれ以上詮索するな。んー……そうだな。彼女は果物やナッツが好きかな。まあ、でも甘いものならだいたい何でも好きだから、シェフに任せるよ」

「は、はい! ではご用意しておきます」

「ん。頼んだぞ」


 *


「エルネリオ殿下の周りに、ようやく女性の影が……」


 執事はそう言うと、ハンカチを取り出しそっと目元を拭った。

 使用人たちはぞろぞろと各自の持ち場へ向かいながらも、その顔にはこらえきれない笑みが零れる。

 甘やかされて育った末王子。幼い頃からヤンチャで手を焼かされた者が多い。だが、その心根は王族としてはやさし過ぎるほど、誰よりも心が温かいことを第四王子の宮殿で働く者は知っていた。


 家族の治療費で困った者がいれば、惜しみなく支援をしてくれ、商会で仕入れた薬やおもちゃを「家族へ持っていけ」と、さりげなくくださることも少なくない。

 エルネリオの宮殿で働く使用人たちは主のことを心から慕っていたし、女主人の登場をここ何年も心待ちにしているのだ。


「リュシア様か……どんな方だろう」

「いや、殿下のことだ。あの口調ではまだ無自覚な可能性が高い」

「確かに……」


 使用人たちは眉根を寄せ、ため息をついた。


「どなたかわからないから、私たちにできることはまだないわ。せめてこの宮殿に連れてきてくださらないことには」

「うん。だけど、これだけは言えるわね」


 使用人たちは顔を見合わせた。


「三王子妃様たちには絶対バレないようにしないと。きっと何か余計なことをされるはずよ」

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