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元婚約者に全てを奪われたので、祈りの刺繍で人生立て直したら雇い主がまさかの王子様でした!?  作者: 魯恒凛


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30.これはヤバい(ダリオSide)

 三日間、聴取されたうえ覚書にサインをし、やっと解放されることになったが、その日のうちに王宮にある騎士寮から出されることに。

 俺は監視人の立会いの下、荷物を箱一つにまとめさせられていた。

 有無を言わせず、言い訳を口に仕掛ければ、彼らは腰の剣に手を添え……ここで逆らえば服務違反として処罰を与えるのも辞さないという強気の態度だ。くそっ!


「おい、早くしろ。貴様が同じ騎士を名乗っていたことに吐き気がする」

「一秒でも早く出ていけ。過去、王宮騎士だったことも二度と名乗るな。恥さらしめ」


 虫けらを見るような視線に耐えられず、怒りが沸々と湧いてくる。俺が何をしたってんだ! リュシアに制服を盗まれて寄付され、今日だってちょっと話をしようと勤め先に行っただけじゃねぇか!

 誤解が解けてまた騎士に復帰した暁には絶対報復してやる。

 

「……てめえら、覚えてろよ」


 支給品から騎士証まですべてを取り上げられ、俺は通用門から追い立てるように放り出された。

 ここは侍女や使用人、騎士たちが通勤のために通る王宮で働く者たちの出入り口。多くの人間が俺の姿を見て、ひそひそと噂話をする。


「まあ、見て、あの人。きっと何かやらかしたのよ」

「騎士たちに足蹴りされてたわね。いい辞め方ではないのは確実だわ」


 その言葉に、頭にかっと血が昇る。

 

「じろじろ見るんじゃねぇ!」


 あまりに恥ずかしさに叫ぶと、女性の使用人たちはきゃあっと身を竦め、足早にその場を後にした。

 


 家に戻ると室内は荒れ放題だった。脱ぎ散らかした衣類、あちこちに転がる酒瓶、シンクに溜まった洗い物……。リュシアがいた頃と同じ家だとは思えない。


 セリナと暮らし始めてから、徐々に部屋は汚れていった。家事が苦手なセリナは掃除も料理もまったくしない。お互い、王宮に泊まることも多くあったものの、片付けをしないから部屋が散らかっていく。良かったのは商会の売上で高価な宝石やドレスを買いまくっていた最初の二か月だけだ。

 あっという間にヴェレド商会が傾く頃には、セリナの態度もあからさまに変わっていた。口論も多くなり、殺伐とした空気が二人の間に流れた。


 とはいえ、王宮侍女であるセリナが顧客を呼び込んでくれれば、高級路線に変更した商会だって起死回生のチャンスはある。だから、予定通り半年後の結婚式は上げるつもりだった。それなのに……。


 ――ダリオ。あんたとはもうおしまい。体の相性は悪くないけど、一生を添い遂げるなんて無理だわ。酒癖は悪いし、金はないし。それに……あんたの口臭に耐えられない。


 そこまで言われて、俺だってセリナを求める理由はない。


「チッ、尻軽女め。ちょっとくらいスタイルがいいからっていい気になんなよ? どうせ王宮でいろんな男とっかえひっかえしてんだろ。おまえみたいな誰にでも股を開くような女、こっちから願い下げだっ!」


 最後は大喧嘩で別れてから二週間。そろそろヨリを戻したいなんて言うんじゃねえかと思い王宮内を探してみるものの、セリナの姿はどこにもない。まあ、いい。避けてんのかクビになったのかしらねえが、二週間の間にほとほと愛想が尽きた。あんな女、もうどうでもいい。

 俺にはやっぱりリュシアしかいない。ちょっとセリナに惑わされただけだ。


「ヴェレド商会からアルフェネ商会に名義変更してやれば、あいつも納得するだろう。しおらしく頭を下げれば情にもろいリュシアは許してくれるはず」


 ここはあいつの同情を引くべきだと思い、昔仕立てた紺色のスーツを身にまとう。リュシアも懐かしく感じるだろう。


「……あれ、腹が入んねぇ。ちょっと太ったか? うっ……な、なんとか、入ったか」


 腹を引っ込ませながらきついスーツをまとい、クラヴァン・トレード商会へ向かう。が、先日の騒ぎもあり、さすがに追い返されることは俺にだってわかる。

 少し離れた場所でリュシアを待ち伏せするしかない。


 どうせ暗くなるまで仕事をしているだろうと、夕方から張り込むことに。


「あいつ、今どこに住んでるんだ? ……家さえわかれば……」


 建物の陰から商会の入口へ目を走らせるも、なかなか出てこない。ったく、手間のかかる女だ。そのうち辺りもすっかり暗くなり、夜の帳が街路に降りていた。


「チッ、リュシアの奴め、いずれ俺に縋る日が――」


 その時だった。頭が布で覆われ、世界が一気に闇へ落ちる。


「な、なんだっ! いってぇ!」


 腕をねじられたうえに背中を押され、足元がぐらついた。なんだ? 何人かいるのか? 数名に囲まれ荷馬車か何かに載せられた。

 俺の勘が、まずい、今すぐここから逃げ出せと警鐘を鳴らす。恥も外聞もなくジタバタと暴れ、なんとか隙が生まれないかと抗う。


「だ、誰かっ――っ」

「騒ぐな」

「ひぃっ」


 喉元にひんやりとしたものが充てられた。周囲からも鞘から剣を抜くようなシュッという音がする。


「さ、騒ぎません、騒ぎません……」


 視界が塞がれ見えないが、まかりなりにも俺は騎士だ。首筋に充てられたのが刃物で、シュッという音が抜剣の音であることくらいわかる。

 俺は小声で必死に弁明し、なすすべもなくその場で体を小さくした。


 

 ――どのくらいの時間が経ったのか。ますます足場が悪くなり、揺れる馬車の中で体をあちこち打ち付けると、ようやく停止したようだった。引きずり降ろされるの言葉通り、乱暴に地面に降ろされ連れて行かれた先。


 頭から袋を被せられた状態で視界は全く役に立たないが、袋の奥から聞こえるのは数人の靴音、それから……部屋中に充満する鼻をつく鉄臭いにおい。ヤバい。これはヤバすぎる。

 

 見なくてもわかる静かな敵意に囲まれ、俺の喉が無意識にごくりと鳴る。

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