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元婚約者に全てを奪われたので、祈りの刺繍で人生立て直したら雇い主がまさかの王子様でした!?  作者: 魯恒凛


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25.加護の刺繍が縫える侍女(ネルSide)

「……というわけで、販売についてのご許可をいただければと」


 俺はこの日、リュシアが完成させた三つのヘアアクセサリーの試作品を手に、王宮を訪れていた。端切れが手に入るや否や、徹夜で仕上げたリュシア。それなら俺も少しでも早く許可取りをするしかないってことで、先触れと同時に到着する勢いでこの場にやってきたのだ。


 一の義姉には髪留め、二の義姉にカチューシャ、三の義姉にはリボン付きヘアゴムを。どれも夜空のように煌めく隣国の希少な布に、リュシアが考えた文様付き。俺がそれぞれの義姉に説明と共に渡すと否や、三人はそれぞれ侍女たちを呼び寄せる。


「ちょうどいい位置につけてちょうだい」

「今すぐこれで結い直して」

「アイシャドウの色を合わせてくださる?」

「……」


 義姉たちは侍女たちの手により試作品をセットすると、鏡を何枚も持たせまじまじと観察し始めた。


「義姉上たち、いかがでしょうか」


 俺が尋ねると、二人の義姉が同時に身を乗り出した。


「エルネリオ。わたくしの髪留めが一番気高くて格式があるでしょう?」と微笑んだのは一の義姉――王太子妃だ。

「まあ、お義姉様ったら。美しさと人気の象徴はこのカチューシャよ。周りを見てくださいな。侍女たちが、どれだけわたくしに注目してると思ってるの?」


 ……うん、まあ、一の義姉と二の義姉が張り合うのはおおよそ予想通りだ。


「うふふ。わたくしのリボン付きヘアゴムもとても素敵ですわ。三つともそれぞれ素晴らしいですわね。ありがとう、エルネリオ」

「っ! じゃあ、三の義姉上、販売してもいいですか?」


 ええ、とほほ笑む三の義姉に続き、一と二の義姉も「わたくしも構わなくてよ」と許可が出る。

 許可が下りるとは思っていたが、もしかして「ここをもっとこうしてちょうだい」なんて言われるかも……というのは杞憂に終わったようだ。


 じゃあさっそく商会に戻って報告を、と腰を浮かしかけたその時、三の義姉に引き留められた。


「そうそう。糸守人へ依頼した刺繍入りのハンカチ。受け取ってこさせたわ」

「! 三の義姉、依頼を受けてもらえたんですね?」


 にっこりと微笑んだ三の義姉が手を振ると、彼女の侍女が恭しくハンカチを運んできた。

 一と二の義姉は一瞬悔しそうに顔を顰めたが、興味津々のようで身を乗り出す。


「まぁ……。鳥の羽ばたきと風をイメージしたモチーフのようね。美しいわ」


 うっとりとする一の義姉と感心したようにうなずく二の義姉。手元のハンカチの刺繍は本当に見事だ。

 文字のような文様は全く意味がわからないが、なにかが込められているのだろう。三の義姉いわく、“歩み出す者の背を風がそっと後押ししてくれますように”という糸守人の意図なんだとか。


「ありがとうございます。とても助かりました」


 受け取った俺に、二の義姉が「そういえば」と切り出した。


「エルネリオ。変わった刺繍のことを調べているらしいじゃない。こんな噂があるんだけど、もう聞いたかしら」


 続けられたのは、加護のある刺繍が縫えるという侍女の話だった。


「ある侍女が持っていたハンカチの刺繍があまりにも美しくて、見本にしたいって侍女の間で貸し出しされていたらしいの。それが、借りた侍女たち全員の恋が叶ったとかで、“加護のハンカチ”と呼ばれているらしいわ」

「あら、そんな噂が?」


 そう言うと、一の義姉は侍女たちへ尋ねた。


「本当なの?」

「はい、王太子妃さま。そのような噂がございます。ですが……いえ」


 気まずそうな侍女に続きを促す。


「構わない、続けてくれ」

「……恐れ入ります。侍女の間ではその……恐れ多くも加護を呼ぶ聖女と噂になっており……」

「聖女ですって?」

「は、はい。名家のご令息たちが、セリナ様を我が家へ迎えたいと殺到している状態でして……最初は戸惑っていらした彼女も、今では“これは私に宿る力”と公言を憚らず」


 ――セリナ? どこかで聞いたような気が……。


 王太子妃である一の義姉は「真偽の確認が必要ね。王宮で加護刺繍を扱うなら、出自と技術の裏付けをして認定する必要があるわ」と慎重だ。

 二の義姉は「本物の加護を縫えるのなら、舞踏会の装飾をお願いするつもりよ」と早くも前向きだが、三の義姉は終始にこにことしただけだった。


 つまり……本当に、刺繍によって祈りが力になることが可能ということなんだろうか。


「エルネリオ。この件はすでに夫が調査を始めているわ。知りたいことがあったら夫に聞くといいわよ」

「……エルディオス兄さんが?」

「ええ。もし本当に加護を持つ聖女なら保護をしないと悪用されかねないでしょう?」

「……」


 俺はそれを聞いた時、リュシアのことを報告しなくてよかったと小さく頷いた。

 あの時もし報告をしていたら……彼女はエルディオス兄さんに呼び出され、保護という名の囲い込みをされていたかもしれない。


 刺繍の文様が真っ黒に染まったハンカチを思い出しながら、俺は「へぇ、それじゃあ今度聞いてみる」ととぼけたのだ。

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