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元婚約者に全てを奪われたので、祈りの刺繍で人生立て直したら雇い主がまさかの王子様でした!?  作者: 魯恒凛


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21.いいこと思いついた(ダリオSide)

「おい、なんでこんなに売上が下がってんだよ」


 店のことは従業員たちに任せて、売上だけ管理すればいい――。


 新しい家、がっぽがっぽ稼げる商会、騎士に復帰してからチヤホヤされる生活が戻り、美しいセリナと楽しく暮らしている俺は幸せの絶頂にいた。高級ラインに絞ったから、これからもっともっと稼げるはずだ。


「いや、俺の人生はまだまだこんなもんじゃない」

 

 セリナが欲しい宝石があるというから、売上を受け取りにヴェレド商会に立ち寄ったこの日。

 あんなにも賑わっていた一階のフロアが閑散としていることに気がついた。

 

 たまたまか?と思いながら二階の事務室へ行くと、事務所には経理の担当のやつがひとり。帳簿をめくっていたそいつに尋ねると、困惑した顔をした。


「その……ぐっと単価が上がった分、買えないお客様も多くなり……」

「薄利多売よりいいだろう。貴族たちが買いに来るんだから、売上がそんなに落ちるわけねえじゃねえか!」


 そう声を荒げると、四十代後半のその男はびくっと肩を揺らした。

 リュシアがいた頃の帳簿も見たことがあるが、あの頃の半分以下だ。おかしいだろ?


「長く勤めていた従業員の何人かが辞めたのもあるかと……ご贔屓様がそれぞれいましたから」

「なんだと?」


 少なくとも十五名はいたはずの従業員が、今やその半数しかいないらしい。

 なんだよ、今さらリュシアに義理立てしてるのか?


「チッ……それじゃあ、新しいやつを雇えばいいじゃねえか。ったく、そんくらい指示しなくてもできんだろう?」


 リュシアの親の代からいるその男は口ごもりつつ、眉尻を下げた。


「古くからの顧客の中にはどうしてもリュシアお嬢様に相談したい、リュシア様がいないのなら、もう買わないという方も多く……」

「……」


 ガキの頃から店に出入りしていたリュシアは年配層にも受けがいい。確かに、あいつがいないならと言い出しそうなババァは多そうだな。だけど、そんなの言い訳だ。


「それなら新しい顧客を捕まえればいいじゃねえか。女なら誰もが刺繍をするこの国で、ガキだってデカくなって自分で材料を買いにくんだろう?」

「……」

「ちゃんとやってくれよ? じゃ、ちょっくら金庫から売上持ってくからよろしく!」


 勝手知ったる金庫の暗唱番号を入力し、開けたそこには唸るほどの金。

 笑いが止まらない。


 袋に詰めていく俺に、その男がおどおどと口にする。


「ダ、ダリオ様、いけません。仕入れにはかなりの金額がかかるんです。商品がなくては商売ができません。先月も持っていかれましたし、今月のその売上は賃金の――」

「あぁん? こんだけあるんだから大丈夫だろ? そこんとこやりくりするのが経理じゃねえか。何のためにおまえを雇ってると?」

「ダリオ様っ……ダリオ様の方針転換で、商品の原価も以前の数倍に上がっているんです。そのお金がなければ仕入れの支払いが――」

「ごちゃごちゃうるせぇなっ!」

「……っ」


 そういえば、セリナが言ってたな。王妃たちがこぞって欲しがっている隣国の布があるとか。なんでも取り扱っている商会がひとつしかないらしく、独占しているらしい。そこから仕入れて加工すれば、『王室ご愛用の貴重な布』として売れるはずだ。端切れでもバカみたいな金額になるんじゃねえか?


「おい。隣国の布とやらを仕入れるんだ。星が煌めくような布らしいからすぐわかるだろう。調べてなるべくたくさん入れろ。いいな?」

「ダ、ダリオ様、お待ちください――」


 待つかっつーの。

 


 それから一か月後のことだった。

 そろそろまた今月の売上を徴収しようと向かった我がヴェレド商会。


 店の扉を開けると、そこはガランとしていた。


「……は? 客はどこだ?」


 客どころか従業員もいない。怒り心頭で二階の事務所に向かうと、あの経理の男が佇んでいた。書類の山を前に呆然としやがって! たるんでやがる。


「おいっ! 客はどうした? 従業員もいねぇじゃねえか!」


 俺の言葉に経理の男はすっとこちらを見た。


「……賃金が未払いですから仕方ありません。ダリオ様、ただでさえ従業員たちは困惑しながら働いていたのに、二か月も収入がなければ平民は生活が立ち行かなくなります」

「あぁん? なんで払ってねぇんだよ」

「……払うお金がないからです。仕入れもできません」

「なんだと? たいして持ち出してねえのに、そんなわけあるか」


 はぁっとため息をついた男。


「ダリオ様が先々月持ち出したお金は一か月分の仕入れに相当します。そして先月持ち出された分には従業員の給料分も含まれておりました。なんとか仕入れを試みましたが、高級路線にしたせいで購入できる素材がなく……」


 男は封筒をすっと差し出すと立ち上がった。


「私も辞めさせていただきます」


 部屋を出ていく男を捕まえて殴ってやろうかと思ったが、……。やる気がないやつを引き留めても仕方がない。


「チッ……商売って意外とめんどくせぇな」


 俺は騎士の仕事があるし、セリナも人脈のために王宮侍女を辞めるわけにはいかねぇ。……そう思った時、ふと、いいことを思いついた。


「……そうだ。リュシアをまた雇ってやればいい。どうせあいつ、生活に困ってどっかで働いてるはずだ」


 リュシアが戻ってくれば従業員も客も戻ってくる。なんだ、単純なことだった。最初から追い出さず、働かせておけば良かったな。


「まあ……じめじめ陰気臭せぇが顔は悪くねえし。あいつ、俺に惚れてるから愛人にしてもいいな。そんで、また思い通りに働かせてやればいいか」


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