新しい神様の誕生
私の右手は拳になってアペンテストの左頬をしっかり殴っていた
「イって!」アペンテストは両手で左頬を覆っていた
「そこまでよ」上から先生の声が聞こえたが姿は見えなかった
コツコツと聞きなれた先生のハイヒールの音が聞こえ
上のギャラリーに先生が姿を現した
真っ黒な長いドレスに身を包んだ先生は
いつもの明るい先生と違い完璧仕事モードで手には銃を持った先生だった
先生の姿に驚いている隙にアペンテストの手下100名程に囲まれていた
「ママ?」『バンッ』私が近寄ろうとしたとたんママに足元を撃たれた
「ハハハハァァ」さっきまで左頬を覆っていたアペンテストが高笑いをしている
「残念だったな華夜」私はとっさにギャラリーを見回した
千華、千江、紗彩、孤眞茅、梨阿、舞桜、小夜香、玲愛、璃須、月夜、亜薙
私の、輝夜のクラスメートだった
みんなもママと同じように銃を持っている勿論、銃口は私に向いていた
「華夜、終わりだな 帆名嘉も言ってやれ」
「…おかえり 私の可愛い華夜 いいえ輝夜 もう記憶戻ってるでしょ」
そう言いながら上から降りてきてアペンテストの隣でママは止まった
「そうだよ…気づいてたんだ ママ」
私はただジッとママを見つめていた
「広い世界を見たい?自由になりたい?叶えたい夢がある?
ふざけるな!そんなので世界はくつがえらない!
初めから勝利も自由も御前らにはないんだからな!」
アペンテストはやはり『アペンテスト』という生き物などだと実感した
「広い世界を見たい!自由になりたい!叶えたい夢がある!
自由になって何が悪いの!
子供はみんな大人になったら貴方の下で働かなきゃなの?
そんな世界はクソぐらいだ!」
「フッ」
私の言葉に反応するようにママの声が聞こえた
「素晴らしいわ それでこそ私の娘!輝夜よ!」
そんなママの声とともに私に向けられていた100個程の銃口が
すべてアペンテストに向けられママは私を守るような位置に来た
「…ッ残念だな!帆名嘉!」
アペンテストは何かのスイッチらしきものを取り出した
それは帆名嘉の首に埋め込まれているチップの爆破装置だった
「サジ様!」「危険です!」「サジ様!」
千華も弧眞茅も月夜もみんながママのことを『サジ様』と呼び
危険だ危ないと叫んでいる
『バンッ』ママが撃った銃弾は見事にアペンテストが持っている
スイッチを貫いた
「お生憎様、私の首のチップは無効果済みよ」
先生は誇らしげに言ってる
「ん…?」
私には何かが強く引っかかっていた
「……あの、お取込み中失礼します」
「あら?どうしたの?」
「…話しているが。まぁ良い なんだ?」
先生、もとい お母さんはついさっきまでアテンペストの手下
サジだった お母さんは華夜が輝夜の記憶を取り戻しているのを
知っていた 報告していない訳がない
「私の父親は誰ですか?」
「…………」
お母さんは歯切れが悪そうに下を向いている
「…僕だよ 実の父親はね」
やっぱりそうか アテンペストがあの時嘘をついていたんだ
あぁ、こんなのが実の父親だと思うと腸が煮えくり返りそうだ
「輝夜!帆名嘉!」
「輝夜ちゃん 帆名嘉」
お父さん、とおばあちゃんだ
「おばあちゃん、お父さん!」
おばあちゃんが私のところまで来た 抱きしめてくれるのかと思った
でも、違った
おばあちゃんはアテンペストを殴った 床に倒れこむアペンテストを見て
私は心底ざまあみろと思った
「おい!何をする 俺はアペンテストだぞ」
「うるっさいわね」
「ん?」 おばあちゃんとは違う美しい声が聞こえた
「……ぇッ」おばあちゃんの顔がみるみる剥がれていく
「…ハぁ?姉ちゃん?!」
姉ちゃん?アペンテストの? にしては…美人すぎでしょ
「おばあちゃんは?」
「…私だよ? 不老不死の薬を飲んでるからおばあちゃんみたいに
なれなかった だから変装よ」
「澄、貴方を誘拐および拉致、監禁の容疑で逮捕するわ」
「…へぇッ?」
イヤイヤ、事が淡々と進みすぎて理解できてないんだけど
「フッ 俺を逮捕できるのか? できたとしてもこの国の
王の座はどうするんだ?」
おばあちゃんが見せたのは国際警察の警察手帳だった
「なぁ、帆名嘉 輝夜が俺の娘じゃないってどういうことだ?」
あ、お父さんのこと忘れてた
「…空牙 本当のことなのよ」
「そうか…」
「うん…ごめん」
クウガ? お父さんの名前そんなだっけ
そんな話をしているうちにみんながある名前を
ヒソヒソ話していた
〈エマニュエ様〉
何処かで聞いたことがあった名前だと思った
歴史の教科書 p1032 第8章 此の世をつかさどる民神と支配者について
3段落目に確か書いてあった
確か…民神であるエマニュエ様は不老不死であり
アペンテストよりも実権が大きい 此の世の神とされる
6民神の中で一番お偉いお方 って
「ね、ねぇ聞きたいことがある」
皆がいいよというかのように見つめてくるので続けることにした
「おばあちゃん、エマニュエ様って呼ばれてるけど?」
「私はこの場を持ってエマニュエを下りるわ」
おばあちゃんはアペンテストに手錠を掛けてからそう答えた
「えぇ~~」
その場にいる人全員が叫んだ
途端におばあちゃんの体が光り出した
「お母さん?!」
「おばあちゃん?!」
「エマニュエ様?!」
「姉ちゃん?!」
おばあちゃんは真っ赤な光に包まれながら宙に浮いた
「我が名は天照大御神 6民神 エマニュエよ
そなたは職を引退すると言ったな後継者を決めろ」
「ア、アマテラスー?!」
びっくりしてる間におばあちゃんは後継者を決めたそうだ
「…私の孫であり アペンテストとH・Kの娘
月野輝夜よ」
「・・えぇっ! わ、私?」
なんと輝夜が今のエマニュエの後継者になったのだった
宙から降り真っ赤な光が消えたときには
おばあちゃんの先ほどのような美しい顔が
平均並みの顔になっていた
今度は輝夜が黄色の光に包まれ宙に浮いた
「我が名は天照大御神 そなたは新の6民神の
一人になる 地位は今のエマニュエのところだ
神名色と色を決めろ」
そんなこと言われてもな
「…6民神 エルフリーデ 紫色で」
先ほどまで体を包むように光っていた黄色の光が紫色に変わった
「・・承知した エルフリーデ」
そんなアマテラスの声が聞こえると私は地上に立っていた
紫色の美しいドレスに紫色のメイク
そして紫色が似合う顔に変わっていた
~二年後~
「…以上が今年の方針だ」
輝夜がエルフリーデと名乗り始めて二年がたった
アペンテストは処刑した
アペンテストが居なくなった世界は幸福の星となった
エルフリーデは国民に慕われるよき王女
エマニュエの最後の仕事として
今後エルフリーデを中心とした国造りをすること
と表明した
エルフリーデが王女になってすぐ
貧困 飢餓 が無くなりすべての民が幸せに暮らせている
6民神は皆 不老不死
このお話はまた後ほどで