顔合わせ縁談 1
「…おはようございます輝夜お嬢様」
ベットの薄いカーテンを開け月夜が起こしに来た
「珍しいのね起こしに来るなんて」
寝癖でボサボサになった紫色の髪をかきむしりながら起きあくびをした
「…輝夜お嬢様、お忘れですか?今日は隣のお屋敷の当主
ネルヴィア・ハンダリー伯爵の次男様との顔合わせ縁談でございます」
「なにふぉれ、かおあわふぇうぇんだん?」輝夜はりんごを口いっぱいに
含みながら話した 唇にあたる真っ赤な艶のある皮はひんやりしていた
ヒット口サイズの皮付きりんごだが甘味の感じられる良いものだ
「輝夜お嬢様、りんごを口いっぱいに含みながら話さないでください
はしたないですよ」
輝夜はりんごをゴクリと飲み込んだ
「月夜、何なの?顔合わせ縁談ってのは」
「あれ、旦那様や奥様からお聞きになってませんか?」
「パパやママから?」
「聞いていないようなので話しますねドレッサーの前の椅子に
お座りくださいとりあえず髪を整えメイクを済ませましょう」
輝夜はワンピース状のパジャマを整え椅子に座った
「次男様の御名前はジュダル・ハンダリー様です
…ハンダリー家はご存知ですか?輝夜お嬢様」
そう話し始め月夜は輝夜の髪の櫛を通しはじめた
「知ってるわよ 異国の夫妻と二人の男児と一人の女児の五人家族よね
奥様の方は地球で言うフランスというお国の高貴な血筋の歌姫であり踊り子
だったとか ハンダリー家の末の妹のチカベルトは
姫になったとき一連の教養を教えてくれたの」
「そうでございましたか ハンダリー伯爵は月野家に次男様を婿入り
させたいようです 憶測ではございますがハンダリー伯爵は次男様を
婿入りさせることで権力を持ちたいのと ローバー伯爵とも
接点を持ちたいのかと」
「次男様っていうと元々例のメイド、アンナの許嫁とチカから聞いていたけれど
それなのに何故私と顔合わせ縁談っていうものをするのかしら」
「チカ?」
「あぁ、私の家庭教師みたいなことをしていたと言ったでしょ
その時呼んでいたチカベルトのあだ名みたいなもの」
「なるほど…それにハンダリー家の先代当主とこのお屋敷の先代当主様は
犬猿の仲…つまりあまりお仲がよろしくなかったのですがね
あ、輝夜様 髪が終わりましたのでメイクをしましょう」
輝夜の髪は艶に満ちており朝日に照らされ煌びやかだった
まるで星の満ち光だった
「仲が良くなかったお屋敷に許嫁を辞めさせてまで嫁がせたいなんて
何かあるわよね それに…ん」
輝夜の口にファンデーションが乗った
「それになんですかお嬢様」
「それにね、アンナが…少しだけ可哀そうだと思ったの」
「輝夜お嬢様はやはり優しいですね」
そのあと話は続くことなく輝夜のメイクが終了した
「輝夜お嬢様、終わりました」
鏡にうつる輝夜は 艶やかな髪 透き通るような肌
スッとある鼻筋 すべてを虜にするような真紅の唇
そして引き込まれるような黄金の瞳 まさしくこれが絶世の美女だろう
「ドレスに着替えて髪を結いあげ装飾を施しましょう」
「そうね」
輝夜は見たことのないような豪華なドレスに身を包み
髪を結いあげ後ろには華奢な簪を刺し前には姫の紋がついた
ティアラを差し込んだ
「まるで豪華絢爛の女の子ね アンナには悪いと思うわ」
輝夜は少し下を向いた
「輝夜お嬢様、一つお教えしましょう プリンセスは下を向かないのです
なぜなら、ティアラが落ちるからですよさぁ前を向いてください」
「えぇ」
(コンコン)と扉をノックする音が聞こえ
「輝夜、私よ、卯月 入ってもいいかしら?」
「えぇ、どうぞ」
卯月は桃色のワンピースに真っ赤な大きなリボンをつけハーフアップをしていた
「輝夜、ハンダリー伯爵とその御一行様がそろそろ到着なさるそうよ」
「わかった」
輝夜は自身の部屋を後にし二階に下り帆名嘉に会いに行った
(コンコン)とノックし「どうぞ」の声が聞こえ輝夜は部屋に入った
「輝夜、どうしたの」
帆名嘉は窓際の椅子に腰掛け刺繍をしていた
「私の血縁者って何人いるの?教えてくれないかな」
輝夜は大叔母の存在を確認すべくこの質問を苦笑いで投げかけた
「…随分と急ね」やりかけの刺繍をサイドテーブルに置きこちらに体をむけた
「血縁だと…私、私の母の由美子、アペンテスト、それと私の父親位じゃない
じゃないかしらね」
帆名嘉の父親 私の祖父にあたる人物は母に会うことがなくこの世を去った
のに名前が挙がった しかし母の叔母 私の大叔母の名前が出なかった
「ありがとうママ、ハンダリー様が到着するみたいだからまたあとでね」
「えぇ」
帆名嘉は微笑んだ その笑みは優しくとも不気味にも見えた
「輝夜様、ハンダリー様がお見えなので急いでください」
部屋を出るといつものメイド服よりおしゃれな服に身を包んだ
月夜がいた 優しい黄金の髪に紫の瞳が良く映える服装だった
「えっ、もう見えてるの?!」私は目を見張り月夜にせめよった
「はい、既に他の者が応接室に案内しているかと」
「お、応接室…」応接室といえば右側にある個々の部屋の棟に対し
左側にあたる棟の角部屋の最上階なのである
「い、いそぐわよ、!」
「はい、お嬢様」
ドレスの裾を持ち上げ走って応接室の前まで辿りついた
「失礼いたします」そういい輝夜と月夜は応接室に入った
正面に机があり輝夜の向かいの席に青年が居た
「ご機嫌麗しゅう輝夜様」
そう述べるのが今回の縁談相手となるジュダル・ハンダリーだ
緑の瞳に癖のかかった赤髪 雀斑のかかった顔がまた彼を幼く見せるのであった
「えぇ、ごきげんようそれと遅れて申し訳ありませんわ」
「いえ、お忙しかと存じますがお呼び出しを行ったのはこちらですので」
形式上のあいさつなだけあり両者顔が微笑んでいない
ジュダルの後ろについている侍女は遅れてやってきたことに
腹を立てているのか眉間にしわをよせこちらをにらんでいた
「輝夜様は先日15歳の誕生日を迎えられたようなので贈り物を」
そうだったと思ったアペンテストのことで頭がいっぱいだったが
15歳になったのだった 昨日は7月7日 七夕の日だからなぁ
「まぁ贈り物?」目を輝かせ前のめりになる
「そうですハンダリー家が領主を務める地域でしかとれぬ紅茶
ベティー茶の茶葉でございます」
ベティー茶!甘酸っぱく程よい苦みがあって香りのよい高級紅茶だ
「一度飲んでみたかったのよ、ベティー茶ありがたく頂戴しますわ」
微笑み紅茶の葉が詰まった小さな紙袋を受けとった
「それとジャスミン茶がお好きとお伺いしましたのでそれも」
と渡された
「ジャスミンティー…」輝夜の頬はわずかに桃色に染まっていた
「あ、厚かましかったでしょうか?」
「い、いえ、!とても…とても嬉しかったもので思わず」
そう、ジャスミンティーこの物語の発端でもあるもの
母親とめぐり真実を知り神になり兄姉が増えたこの私の物語の