夜の噂話と母
「考えたくないけどお母さんが…帆名嘉がアペンテストを
手助けしたのかもしれないわね」
私の一言で皆が凍りついたのが分かる
「とりあえず今日はお開きにしましょう
カイフィール様もお疲れのようですよ」
お菓子をお腹いっぱい食べたのか寝てしまったカイフィールに
毛布を掛けながらにこやかに笑っているのはサニッサムだった
「そうね、今日はお開きよ 次回は一週間後の同じ場所の同じ時間に」
そしてイフィリータスが幕を閉じた
ランドリリからヴェルフィリー宮殿に帰るまでの時間は
とても短く長く感じた今までで一番苦痛な時間だった
「おかえりなさい輝夜」
そう言って出迎えてくれたのは雷嘉だった
「雷嘉ねぇただいま」
私は倒れこむように雷嘉ねぇに抱き着いた
「あらあら、甘えん坊さんねどうしたの」
そう言って頭を撫でてくれる手は温かく優しかった
「イフィリータスで嫌なこと聞いちゃった」
雷嘉を抱きしめている輝夜の手は小さく小刻みに震えており
目には涙があふれていた
「月夜、お母さんに‘輝夜は帰ってるけど私の部屋に居る‘と伝えて」
「かしこまりました雷嘉お嬢様」
この子は月夜輝夜の侍女であるが元はアペンテストの手下だ
「さぁ輝夜泣いているばかりではわからないわよ」
そう言いながら雷嘉は輝夜を連れ自身の部屋に入れベットに座らせた
「…誰にも言わない?」
「もちろんよ、」
輝夜は涙をふき取り話し始めた
「今日のイフィリータスの議題はアペンテストのことでさ、
骨が本人の物でなくて調査をしてもらってたんだけど
それが大叔母さん、サンティラシーの骨でさ」
「サンティラシーってあの初代生命の神の?」
「雷嘉ねぇ知ってるんだ」
「えぇ」
「すり替えた犯人が居ると思うんだけど
話の流れ的にお母さんが犯人かと思って…」
「そういうことねお母さんを疑いたくないけど仕事柄
しょうがないものね」
雷嘉は輝夜の頭を撫でながらそう言った
「…うん」
「さぁもう寝なさい今日はここで寝てもいいからね」
「自分の部屋に行くから大丈夫ありがと」
「…わかったわ」
輝夜はベットから立ち上がり扉に近づいた
「雷嘉ねぇ、おやすみ」
そう言って扉を出ると何か目の前に立っていた
「…ッ、お、お母さん。」
帆名嘉は今までに見たことのないような険しい表情をしていた
「輝夜、もう夜遅いわよ早く寝なさい」
輝夜の肩を持ち部屋まで連れて行こうとする帆名嘉に対して
「お母さん大丈夫一人で行けるから」
と言い手を振り払おうとするが
「いいから」
と結局部屋まで送ってこられてしまったのだ
「さぁおやすみ輝夜」
布団を優しくかけ薄い毛布を掛けるとベット脇に座り
「あなたが眠るまでお母さんここに居るからね」
と頭を撫でた
「お、お母さんもう子供じゃないの」
「貴方はいつまでたっても私の娘なのそれに小さい頃離れていたから
今をその穴埋めにしてよね」
そんな帆名嘉の言葉は輝夜にとって犯人に目をつけられている
気分なのだった
「…わかった」
帆名嘉が子守唄を歌い始め
輝夜は寝たふりをすることにした
寝息の音 呼吸のリズム 動きの一つ一つを丁寧に再現した
帆名嘉は輝夜の頭を優しく丁寧に撫でながら
「…寝たのね 懐かしいでしょこのお歌あなたがお腹にいるときから
歌ってあげていたから」
と言い そのあと何かボソボソと聞こえ
「くだらないことに巻き込まいで輝夜…」
と怒っている様な声色に加え最後に
「あなたの考えてることはわかるのよ犯人が私と思ってるのね真実は
何時明るみになるかしら」
そんな言葉を言い放った
そしてハイヒールを高鳴らせながら帆名嘉は輝夜の寝室から出て行った
「やっぱりママが犯人?」
輝夜は目を開け布団から起き出て
「リラックス効果のある紅茶をお願い」
と月夜に言いつけテラスの椅子に座り本を読み始めた
「お待たせしました輝夜お嬢様ジャスミンティーです」
「ありがとう」
月夜はテーブルに紅茶のカップとアフタヌーンセットを並べた
「奥様も可愛そうよね実の娘と離れて暮らしていたなんて」
「挙句の果てに実子のあわれみに振り回されて子供が増えて」
「でも奥様は幸せそうよ沢山の子供に囲まれて今愛する旦那様の御子の
穂希お嬢様もお生まれになって」
「さぁ奥様は穂希お嬢様のみで良かったのかもしれないわよ
今愛する旦那様の子のみで 昔の愛する人との子供の輝夜お嬢様なんて
いらないのよ 言ってたもの奥様‘あの子なんて必要ない‘って」
「あーかわいそう 聞こえちゃうわよ」
「聞こえてる方がいいわよ」
そんなクスクス笑いあう声が三種類で聞こえた
「輝夜お嬢様、聞かなくて良いのです」
「中庭からねこんな夜に…見回りの者達かしら?…双眼鏡」
「はい、お嬢様」
右端に持ち手棒が付いた美しいキラキラした双眼鏡を手渡した
「ありがとう」
3階から中庭を見るように双眼鏡を覗いた
「ん?あの服装はメイド達ね」
輝夜は月夜に見てみろというように双眼鏡を渡した
月夜は双眼鏡受け取り覗きこんだ
「はい、メイドの下っ端ですね輝夜お嬢様の正体も知らないような
メイドです」
「名前は?」
「えっと…確か三つ子の アンナ・カンナ・リンナ達です
実家は今このお屋敷に取引を持ちかけているローバー家で
父親がアラン・ローバー伯爵です」
「…厄介ごとが沢山ね」
「何かあったのですか?」
「まぁ、アペンテストのことで幾つか仕事が増えたのよ」
残りの紅茶を飲みほし本を閉じた
「片付けは明日の朝でもよくってよ」
「大丈夫でございます、おやすみなさいませ輝夜お嬢様」
「えぇ、おやすみ月夜」
輝夜はテラスの椅子を立って扉に向かって歩いて行った
「…15歳のお誕生日おめでとう輝夜」
輝夜の持っている本から垂れているしおりが月光に反射し
キラキラと美しく光り輝いていた