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帝国と革命

この物語は、荒廃した世界を舞台にした幻想的な冒険譚である。

恐竜と少女未知の領域へと足を踏み入れる。

物語の中心には、宮殿に封じられた謎、そして権力の影が絡み合う。

果たして、彼は何を求め、何を手にするのか?

人々の運命が交錯する中で、恐竜が辿る道を見届けてほしい。

 恐竜は双手で少女を抱きしめながら、

 雲を突き抜けて落ちていった。

 雲が次々と身体を撫でるように通り過ぎ、

 風の唸りが耳元を掠める。


 やがて背中の鱗が空気との摩擦で燃え上がり、

 赤い彗星のように炎を引いていた。

 それはまるで流星のようだった。


 そして——


 大きな水しぶきを上げて海に飛び込んだ。


 恐竜は少女を抱いたまま、

 海の深みへと沈んでいった。

 魚群が驚いて散り、次第に周囲は静寂に包まれる。


 突然、視界の先に巨大な壁が現れた。

 まるで海を二つに割るような、圧倒的な存在感。


 恐竜はゆっくりと壁に近づき、

 ついに額をぶつけてしまった。

 その衝撃で意識が戻り、目を見開いた。


 少女を左手に抱えたまま、右手を壁につき、

 上を目指して泳ぎ登り始める。

 やがて、恐竜は息を大きく吸い込みながら海面に浮上した。


 その時、空には一羽の巨大な黒い鳥が静止しており、

 海面には巨大な黒魚が姿を現していた。


 黒鳥が問いかける。

「さっき空から落ちたのは、お前か?」


 恐竜は苦しそうに頷く。


 黒鳥はさらに問いかけた。

「あの黒魚を見たか?」


 恐竜は再びゆっくり頷いた。

「そっちへ来い、背に乗れ。」


 恐竜は壁を蹴って泳ごうとした。

 しかし、その瞬間——


 巨大な波が彼らを襲った。

 波が引いた後、恐竜は壁の向こう側に流されていた。

 意識が朦朧とする中、黒鳥の声が響いた。

「運が悪かったな……生きろよ。また...」


 壁のこちら側は滑らかではなく、

 無数の尖った棘が規則的に並んでいた。

 その不気味な景色を見ながら、

 恐竜はゆっくりと意識を失っていった。


 意識がぼんやりする中、薄く目を開けると、

 一人の漁師が渔網を引きながら驚いた顔で叫んでいた。

「おい!怪物だ!あなた、早く出てきて見ろ!」


 再び目を閉じると、そのまま恐竜の意識は闇へと落ちていった。


 再び目を覚ました時、そこには見慣れない所があった。恐竜が横たわっているのは柔らかな場所の上だった。周囲は豪華で上品な装飾が施され、四隅には繊細なレースで飾られた上から垂れていた。窓から差し込む朝の陽光が、恐竜の手足を暖かく照らし出していた。頭側には植物の模様が繊細に彫り込まれた木製の美しい装飾が、穏やかな朝の雰囲気に優雅な趣を添えていた。

挿絵(By みてみん)

 恐竜は慵懒に頭を上げ、窓の外に輝く太陽を眺めると、小さくため息をつきながら心の中で呟いた。

(ようやく、あそこから抜け出せたのか……)


 深く息を吸い込むと、甘く爽やかな木の香りが鼻をくすぐった。

「いい匂いだ……」


 思わず口に出し、満足げに伸びをする。その時——


 扉がゆっくりと開く音が響いた。


 そこには、一人の女性が立っていた。柔らかな輪郭を持つ端正な顔立ち。彼女の装いは、身体にぴったりと沿うように仕立てられたシンプルな白布の服。その腰元には黒い束帯が通され、シルエットを美しく引き締めていた。


 恐竜は慌てて身を起こし、女性に問いかけた。

「白い毛衣を着た骸骨を見なかったか?」


 女性は微笑を浮かべながら答えた。

「それはあなたの奴隷ではありませんか? 白というのは

 無色を意味します。

 僕のような無産無地の者はこのような服しか着られません。」


「では、腰の黒い束帯は?」

 恐竜が重ねて尋ねると、


 女性は急に顔を輝かせた。

「ああ、それは皇帝陛下の恩賜です。

 こんな私のような者でも、屋根の下で休むことを許された証なのです。」


「……それで、私の奴隷はどこに?」

 恐竜がさらに問い詰めると、


 女性は淡々と答えた。

「ご命令さえいただければ、すぐに埋葬の手配をいたします。」


 恐竜は思わず絶句した。

「……なんだと?」

 

 女性は小声で答えた。

「聞きましたよ。あなたは海で空腹のあまり、自らの奴隷を食したのだと。それゆえ、いまもなお、それはあなたの所有物なのです。ですから、きちんとした場所に保管してございます。」


 恐竜がさらに問い詰める

「……どこに?」


 女性は小声で言った。

「厨房の倉庫です。」


 恐竜は少しだけ安堵の息を吐いた。


 しかし、すぐに表情を引き締め、慎重に尋ねた。

「……彼女は、もうすぐ死ぬ...かも...」

 女性は微笑を浮かべたまま、静かに答えた。

「わかるね……けれど、そう長くは持たないでしょう。」


 女性は一歩、恐竜に近づいた。

「この国では、死を望む者は珍しくありません。」


 恐竜は眉をひそめた。

「……それは、どういう意味だ?」


 女性は視線を外し、廊下の奥を見つめながら言った。

「苦しみからの解放を願う声は、多くの場合、声に出されません。

 けれども、私たちはそれを感じ取る術を知っています。」


 そして、静かに続けた。

「必要であれば――“そのような存在”をご用意できます。」


 恐竜はわずかに目を見開いた。

「……何のために?」


 女性はまるで日常の話のように微笑んだ。

「たとえば、あなたが“誰かを”蘇らせたいと願ったとき、

 新しい肉体が必要になるでしょう?」


 恐竜は言葉を失い、しばらく黙ったまま頷いた...


 女性は微笑んで言った。

「よく理解いたしました。では、今、皇帝があなたをお会いになります。」


 恐竜は一瞬戸惑い、起きて

 女性の後をついて部屋を出た。長い廊下を歩き、角を曲がると、

 淡い緑色の衣を纏った別の女性が先導する。


 こうして、恐竜は次々と先導役が変わる中を進んでいく。

 衣の色は淡青、薄紅、深青、そして赤へと移り変わり、

 歩みを進めるごとに、景色も変化した。


 廊下を抜け、庭園を通り、池のほとりを渡り、

 ついに、全身を黒い甲冑で覆った武士が現れた。

 顔は仮面に隠され、無言で前を指し示す。


 そこには、漆黒の広大な階段が続いていた。


 恐竜は階段を見上げたが、その上が何処へ続くのか、

 一目では分からなかった。


 武士は手を広げ、上を示す。


 恐竜はゆっくりと、一歩ずつ階段を登り始めた。


 やがて、階段の上に恐竜の姿が現れた。

 同時に、目の前に広がる光景に息を呑む。


 そこには、壮麗で透き通る黄金の宮殿がそびえ立っていた。

 その威容の前で、恐竜の存在はまるで塵のように小さく感じられる。


宮殿全体は、まるでガラスを彫刻した上に金を貼り付けたかのような精巧さを持っていた。さらに近づくと、その構造がより鮮明に分かってきた。長方体の形をしている宮殿は一つずつ二枚の大な氷翡翠に挟まれ、その中央に分厚い金の延べ棒が組み込まれている。


外から見ると、氷翡翠の透明度によって宮殿にある内部の構造が朧げに映り、まるで蜃気楼のような幻想的な光景を作り出していた。


 恐竜の視線を引きつけたのは宮殿の入口にある巨大な壁画だった。


壁画には、ワニのような頭部、蛇のような胴体、そして鷲のような四肢を持つ奇怪な生物が描かれていた。その頭部は壁の左側に鎮座し、下半身は大地に絡みつきながら、上半身は天空へと昇る姿勢で固定されている。


 恐竜がその異形の赤い生物に見入っていると——


 壁画が中央から割れ始めた。

 それはただの絵ではなく、門だったのだ。


 門がゆっくりと内側へと開いていく。

 角度の変化とともに、、壁画の生物の姿勢も変化し、

 背を丸めるようにゆっくりと身体を低くしていく。

挿絵(By みてみん)

 開ききる寸前——


 その頭部が恐竜の目線と同じ高さに降りてきた。門が完全に開くと、


 ——次の瞬間。


 生物の大顎が裂けるように開かれ、

 まるで恐竜を丸呑みにしようとするかのような迫力で迫ってきた。


 恐竜は息を飲み、足を一歩引いた。


 しかし、移動とともに、生物の姿勢は再び変化し、頭部がゆっくりと持ち上がって回復していった。

 仰がれてがれていたそれは、あたかも恐竜を一瞥し、嘲るような仕草だった。


 恐竜は初めて、屈辱に似た感覚を覚えた。

 重々しい足取りで、一歩、また一歩と宮殿の中へと足を踏み入れた。


 広大な宮殿の中には、たった一人の人物が奥に鎮座していた。


 中央には巨大な池が広がっており、

 両側から迂回することができない。

 しかし、その満たされた池には水でも金属ではなく、

 まるで液体化した金属のように不気味に波打っている。


 恐竜は思わず足を止めた。胸の奥に漠然とした不安が広がる。


 その瞬間、奥の人物が咳払いをした。


 姿は朧げでよく見えないが、その声は驚くほど鮮明で、広い宮殿に響き渡った。


「海外人、もし、ある骸骨に肉体を与え、蘇らせたいのならば、城外から十二枚の金塊を持ち帰り、宮殿に窓を作れ。」


 それだけを告げると、池の液体が突然揺れ、

 出口だけへと向かって溢れ出した。


 白銀の液体が床を這うように流れ、恐竜の足元へ迫ってくる。

 得体の知れない脅威を感じ、恐竜は息を呑むと、

 反射的に身を翻して宮殿の外へと駆け出した。


 恐竜は荒い息を整えながら振り返った。

 巨大な門はもうすでに静かにその姿を閉じた。


 恐竜は周囲を見渡し、

 城壁の外へと続く一本の直線の道があるのを見つけた。


 道の両側には何もなく、生き物の気配すらない。

 ただただまっすぐに伸び、地平線の果てまで続いているように見えた。


 恐竜は歩き出しながら考えた。

(十二枚の金の延べ棒……どうやって手に入れる?)


 交換するにも、手持ちの物が何もない。

 恐竜は空を仰ぎ、頭上の太陽を見上げる。

(働く時間もなさそうだ……なら、力尽くで奪うしかないか?)


 考えを巡らせているうちに、

 足元が変わったことに気づいた。


 目の前には広大な護城河が広がっていた。

 恐竜は立ち止まり、その水面をじっと見つめる。


 ——それは水ではなかった。


 先ほどの宮殿にあった液体金属の池と同じ、

 白銀に光る流動する何かだった。


 進むことも戻ることもできず、

 戸惑っていると、対岸で何かが動いた。


 黒い甲冑を纏った武士が、斜め向こうから手を振っている。


 恐竜は慎重に岸に沿って、対岸の武士の正面へ移動した。

 すると、武士は両腕を水平に伸ばし、

 両腕の中央に立つように示した。


 恐竜はその指示に従い、その間に立つ。


 次に、武士はその場で足踏みを始め、前方を指し示す。

(向こう岸へ歩け……?)


 恐竜は、目の前に広がる金属の河を見た。

 何の足場もない。

 不安げに武士を見ると、


 武士は親指を立てて「問題ない」と示した。


 恐竜は少し気を落ち着け、大股で歩き出そうとした。


 その瞬間——


 武士は右手を差し出し、

 手のひらを外に向けて止まるように指示した。

 次に、恐竜が踏み出そうとした足を後ろへ引く動作を見せ、

 少しずつ進むように促した。


 恐竜は理解し、足元が震えるのを感じながら、

 慎重に小さな一歩を踏み出した。


 武士は再び親指を立てて合図を送った。

 少し安心した恐竜が息を整えると、


 武士は左へと移動し、再び両手を広げて合図を送る。


 恐竜は指示に従いながら、少しずつ前へと進んでいく。


 広大な護城河の上、眩暈を誘う川の中を、

 恐竜は一歩一歩進んでいく。

挿絵(By みてみん)

 やがて、ようやく武士の立つ岸へと辿り着いた。


 恐竜はほっと息をつき、武士に向かって感謝の意を示した。


 しかし、武士は無言のまま、何の迷いもなく、

 再び来た道を引き返し始めた。


 まるで空中を歩くかのように、堂々と元の場所へと戻っていく。


 恐竜は驚愕しつつ、その姿を見送った。


 ようやく落ち着きを取り戻し、進もうとしたその時——

 護城河の底から、不気味な機械音が響き渡った。


 恐竜は振り返り、その音の正体を確かめようとした。

 しかし、すぐに理解した。


 ——もう、戻ることはできないのだ。


 恐竜は周囲を見渡した。目に映ったのは、荒廃した都市だった。


 木造の酒楼や店が道の両側に軒を連ねている。

 かつての賑わいが想像できるが、今では人影もまばらで、

 衣服がぼろぼろの者たちが病んだ様子で行き交うだけだった。

挿絵(By みてみん)

 さらに進むと、広々とした十字路に出た。

 その先には、規則的に並ぶ住居が広がっている。

 一部の家の外には、黒い甲冑が陽光の下で干されていた。


 さらに歩を進めると、大きな公園が姿を現した。

 整然と植えられた木々が、まるで人工の森のように広がっている。


 公園を抜けると、木陰の下で二輪車を引く人影が目に入った。

 この辺りの家屋は前よりも背が高くなり、

 道の脇には一定間隔で木が植えられている。

 しかし、相変わらず人影は少なく、目立つのは車夫の姿ばかりだった。


 ふいに、風が吹いた。


 漂ってきたのは、こんがりと焼けた肉の香ばしい匂い。

 恐竜の胃がきしむように鳴り、空腹を覚えた。

 視線の先には、人の気配が増えている場所があった。

 本能的に、恐竜は足を速めた。


 すれ違った車夫たちが、うらやましそうにこちらを見つめていた。


 恐竜は走り続け、

 やがて目の前に現れたのは一軒の焼き鳥屋だった。

挿絵(By みてみん)

 店の外には大きな鉄製の串焼き台が設置され、

 何羽もの鳥が香ばしく焼き上げられていた。

 香ばしい匂いが立ち込める中、

 店主らしき男が満面の笑みで恐竜を見つめていた。


 恐竜は鉄串から次々と焼き鳥を引き剥がし、

 その場で豪快に頬張った。肉汁が溢れ、

 香ばしい皮が口の中で弾ける。

 店主はますます喜び、さらに大きな瓶を手渡してきた。


 瓶の中にはゴールド色の液体が満たされ、表面には細かい泡が立っていた。

 恐竜は勢いよくそれを飲み干した。

「ぷはぁっ!」


 喉を潤した恐竜は、

 さらに数羽の焼き鳥を抱え込み、満足げに店を後にした。


 しかし——


「おい!」


 さっきまで満面の笑みを浮かべていた店主の表情が、

 急に険しくなった。


 恐竜の背後から怒鳴り声が響く。


 恐竜は振り返ることなく歩き続けたが、

 店主はさらに声を荒げ、店から飛び出してきた。


 周囲にいた数人の男たちと何やら話している。

 すると、恐竜の進行方向に突然、

 金属の棒を構えた数人の男が立ちはだかった。


 その目つきは険しく、まるで威嚇するように恐竜を囲み込む。


「……何のつもりだ?」

 恐竜は軽く眉をひそめた。

「急ぎの用があるんだ。どいてくれ。」


 そう言いながら左右に動いてみたが、

 男たちは道を塞いだままだ。


 苛立ちを覚えた恐竜は、一人を睨みつけて低く言った。

「……見たところ、あまりいい人間には見えないな。まさか強盗か?」


 次の瞬間——


 恐竜の足が閃いた。


 ドンッ!


 男の一人が宙を舞い、街路樹の枝に引っかかった。


 残った男たちは驚いた様子でお互いを見合わせ、

 何かをひそひそと話し合っている。


 恐竜は肩をすくめ、何事もなかったように歩き出した。


 その時——


 カラカラ……


 二輪車が恐竜の前に止まった。

 黒い制服を着た男が車から降りる。


 その服装は鎧ではないが、

 何かしらの規律を象徴するような威圧感があった。


 先ほどの男たちは金属の棒を慌てて地面に投げ捨て、

 駆け寄ると、指差しながら何かを訴え始めた。


 黒服の男は話を聞き終えると、

 地面に小さな金貨を投げ、恐竜に向かって手招きをした。


「ついて来い。」


 恐竜は歩きながら、最後の焼き鳥を口に運んだ。

「うまかったな。」


 振り返ると、先ほどの男たちは互いに棍を叩きつけ合い、

 何かを言い合っていた。


 二輪車の黒服の男が、

 はっきりとした言葉で薄く笑いながら言った。

「お前みたいな力のあるやつには、

 やってもらいたい仕事がたくさんある。

 上手にやれば、食い物は好きなだけやる。」


 恐竜は歩を緩め、考え込むように呟いた。

「……それでは?」


 黒服の男はポケットからもう一枚、

 小さな金貨を取り出し、指の間で弄ぶ。

「成功すれば、これを何枚かやる。」


 恐竜はしばらく黙っていたが、

 やがて決意したように頷いた。

「……よし、俺は宮殿に窓を作らなきゃならないんだ。」


 黒服の男は一瞬沈黙し、それから手巾を差し出した。

「まずは口元を拭け。それから、ある人物に会わせてやる。」


 そうして、恐竜は二輪車車に乗せられ、

 途中で馬車へと乗り換えた。

挿絵(By みてみん)

 街の景色が変わっていく。

 道は広がり、建物は石造りの整然とした四角い構造へと変わっていく。

 しかし、それぞれの建物の屋上には

 何者かが立ち、道行く人々を監視し、何かを記録していた。


 やがて、馬車はさらに豪華な地区へと入っていった。


 華やかな建物、赤と金に彩られた装飾、並木道に咲き誇る花々——


 そして、何より違ったのは、ここでは屋上に監視人がいなかった。

 馬車が停まり、黒服の男はゆっくりと降りる。


 恐竜は目の前の光景を眺めながら、首を傾げた。

「ずいぶんと静かで、落ち着いた場所だな。」


 黒服の男は何も言わず、木製の大扉の前に立った。

 赤い絨毯が敷かれたその建物は、明らかに異なる威厳を放っていた。


 しばらくして——


 黒服の男が戻ってきた。

 手には数枚の書類と、布袋を持っていた。


 そして、袋の中から黒い首輪を取り出し、それを恐竜の首にかけた。

 さらに、黒い無袖のジャケットを取り出し、

 恐竜に差し出した。

「これを着ろ。今日からお前のコードネームは『K』だ。」

挿絵(By みてみん)

 黒服の男は書類を広げ、契約の内容を示した。

「ここに署名すれば、お前は政府の契約者となる。報酬は十二枚の金の延べ棒。」


 恐竜は書類をじっと見つめた。

「……思ったよりも、ずっと簡単に片付きそうだな。」


 黒服の男は満足そうに頷くと、大きな馬車を手配した。

「さて、前線へ向かうぞ。」


 恐竜は契約書を握りしめながら、

 乗り込んだ馬車の揺れを感じた。

「……だが、任務の内容が書かれていないぞ?」


 黒服の男は窓の外を眺めながら、静かに答えた。

「やるべきことは、お前がすぐに理解するさ。」


 そして、馬車は前線へと向かい、ゆっくりと走り出した——。


 恐竜は馬車の窓から頭を突き出し、呼びかけた。

「ありがとう!お前、名前は?」


 黒服の男は振り返らずに契約書を振った。


 気になった恐竜は

 支給された上着のポケットを探り、契約書を取り出した。


 そこには——


 引薦人:石田三成...


 馬車の揺れが心地よく、次第に恐竜の瞼が重くなっていく。

 やがて、深い眠りに落ちた。


 その頃——


 町外れの一角、白菜が山積みになった倉庫のそばで、

 一人の男がしゃがみ込み、

 小さなナイフでジャガイモの皮を剥いていた。


 根気よく皮を剥ぎ終えたジャガイモを籠に入れ、

 ナイフを置くと、男は倉庫に入り、大きな桶で水を汲んだ。


 水を抱え、出口へ向かおうとしたその瞬間——

「……ゴホッ、ゴホッ!」


 突如として激しく咳き込み、体のバランスを崩す。


 ——ザバァッ!


 抱えていた水が盛大に飛び散り、

 白菜の山と倉庫の隅に敷かれた竹席を濡らした。


「……っ!?」


 男は目を見開いた。


 ——竹席が、動いた。

「……厨房に、生き物がいるのか?」


 男は信じられないような目つきで竹席を凝視し、

 恐る恐る手を伸ばす。


 その瞬間——


「寒いっっっ!!!」


 竹席の下から、白い毛衣を着た骸骨が飛び出した。


 男はその場に尻餅をつき、目を丸くしたまま呆然とした。


 しかし——


「……俺はやはり、ただの人類じゃなかった……!」


 突然、男は立ち上がり、胸を張る。

「俺の唾の水で、死人が蘇るとは……!!」


 高笑いを響かせる男を、少女は呆れた顔で見上げた。

「……あんた、ショックで頭おかしくなった?」


 男は我に返り、手掌で存在しない髭を撫でながら、考え込んだ。


 そして、外のジャガイモの山を眺め、少女をじっと見つめる。


「俺の名は張角だ。今日からお前の上司だ。」


 そして——

「さっそく仕事だ。そこのジャガイモの皮を全部剥け!」

 そう言い放つと、腕を後ろに組み、

 堂々とした足取りで倉庫の外へ歩き出す。


 少女は入り口で立ち尽くしていた。

「……は?」


 張角は振り返り、声を張り上げた。

「俺の服が見えねぇのか?!」


 張角は誇らしげに、自分の着ている、

 油煙や汚れで染まった黄ばんだ服を指差した。

「この色が何を意味するかわかるか!?

 そう、俺こそがこの台所の支配者なのだ!」


 少女は入り口で怪訝そうに見つめた。

「……は????」






第七章では、物語の転換点となる場面を描いた。

恐竜が黄金の宮殿へと足を踏み入れ、未知なる存在と対峙し、契約を交わす。

また、新たな登場人物、石田三成、張角の登場により、物語は新たな局面へと進むことになる。

恐竜の旅はこれからどのように展開していくのか?

読んでいただき、ありがとうございます。

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