旧き神と新しき『神』の対峙
マルクス主義を読んだことがある?日本への中国留学生としての僕は、12歳の頃からじわじわとそれを学び始めた。
そして、日本で初めてキリスト教に触れた。まさか、この二つが同じものであるとは思いもしなかった。
そんな発想を踏まえ、広範囲にわたる中国人の生活と融合させることで、一つの素晴らしいストーリーが生まれた。
昔々、人類は神の領域から追放された。
神によって神性を奪われ、エデンの園から追い出されたアダムとエバ。その血筋の中から、一人の人類が神性を悟り、再び神の領域へと足を踏み入れた。
新しき『神』は旧き神に訴えた。
「最初の人に与えられるべき神能を返してくれ。」
...
旧き神はその願いを聞き入れ、新しき『神』の求める世界を創り上げた。
「人類はもはや神に頼らず、自らエデンの園を超える新世界を築くことができる」――そう信じて。
そして、骨になった少女は、失った肉を取り戻すため、少女と恐竜は、
新世界の冒険を始めた...
そこは確かにユートピアなのか? 完璧なエデンの園なのか? 本当に、理想郷足り得るのか?
「神は死んだ(Gott ist tot.)」
――フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ(Friedrich Wilhelm Nietzsche)
フィデル・カストロ(キューバ)、毛沢東(中国)、ウラジーミル・レーニン(ロシア)、ヨシップ・ブロズ・チトー(ユーゴスラビア)、ローラン・デジレ・カビラ(コンゴ)、エルネスト・チェ・ゲバラ(アルゼンチン)――。
彼らは皆、社会主義の戦士であり、消えゆく信仰の空白を埋めるために立ち上がった者たちである。
18世紀、宗教の影響力は次第に薄れ始めた。
神は世界に人格を与え、人間は皆平等であり、神に愛されていると信じさせた。
死は終わりではなく、幸福な結末への門出であると説かれた。
しかし――
20世紀の科学の急速な発展は、かつて宗教が説明していた数々の謎に対し、
“納得しがたいが、より論理的な”答えを提供した。
21世紀の現代、人々はもはやそれらの信仰を維持することが困難になった。
すべてがあまりにも急激に変わった。
長きにわたり、社会は父のような神に依存してきた。
だが今、その神はもはや姿を消し、
人間の幼少期の信仰は、霧のように消え去った。
では、迷える我々はどこへ向かえばよいのか。
19世紀、社会主義が台頭した。
彼らは、消えた神の代わりに強大な国家を据えようとした。
国家は、人間を導く存在であり、
あらゆる矛盾は社会主義体制の下で解決され、
そして遠くない未来、「理想の天国」が実現されると信じられた。
だが――
果たしてそれは、真のユートピアとなり得るのか?
――次の章が、序幕を解き放つ。
ここは、何もない虚空だった。
過去のエデンの園だったのか。
人類も、動物も、果樹園も、流れ落ちる川もーー
楽園の豊かさのすべてを追放したのだろうか?
風は吹かず、音も響かない。
視界に映るのは、果てしない「無」だけ。
恰も、時間さえも停止したかのように、
視界のすべては白に染まって、静寂に包まれていた。
まるで、この場所には誰も、
何も、存在していないかのようにーー。
ーー急にその静寂を切り裂いたのは、一つの笑い声だった。
「……ハハハ……ハハハハハハハッ!」
嘲笑うかのように
新しき『神』は、微笑んでいた。
左手には、一つのものを握りしめている。
――ケルビムの頭。
かつて神の楽園を守護した者。
黄金の血が黒衣を濡らしながら滴り落ちる。
だが、――崩れ始めた。
最初に、皮膚が裂けた。 ひび割れ、乾燥し、
剥がれ落ちる。
次に、骨が現れる。 ボロボロと崩れていく。
やがて砕けた。
新しき『神』のもう片方の手には、
一振りの剣が握られていた。
――神の剣、「回転する炎の剣」。
――エデンの東に立ち、
アダムとエバを追放した神の封印。
しかし、今――
輝きは、紅蓮の炎は、息絶えるように揺らぐ。
錆びついた、無残な剣が砕けた。
バラバラと粉末がこぼれ落ちた。
目をきょろきょろさせ、少し様子を見て...
「お前は、この狭い空虚に閉じこもって...
人類を追放したことを己の罪として懺悔しているのか?」
一歩前に踏み出して、
新しき『神』は、傲然たる笑みを浮かべながら問いかけた...
しかし、旧き神は、何も答えなかった。
ただ、そこに立っており、静かに立ち尽くしている。
白衣を纏い、その姿は、
まるで墓の奥深くに埋められた陪葬の石像のようだった。
死寂が満ちる雰囲気の下で、
裾の裂け目が無数に刻まれている。
かつての威厳の面影は何一つ残されていない。
それでも――立ち続ける...
長い沈黙が続いた。
新しき『神』は、眉をひそめる。
――死んでいたのか?
だが、その時。
旧き神の瞳には、かすかに揺れる光が宿っていた。
「......へっ。」
唇の端を持ち上げ、鼻で笑った。
まだ死んではいない――そう通じた。
「......もう少し、よく見せてもらおうか?」
新しき『神』は、静かに歩を進めた。
一歩、また一歩――
旧き神の眼前まで迫り、寸分の狂いもなく、
ピタリと足を止めた。じっと旧き神の瞳を見つめた...
視界が、ゆっくりと瞳の深淵へ収束していく。
――そこに映るのは、白き領域に立っている黒衣の新しき『神』だ。
輪郭が、次第にくっきりと浮かび上がる...
黒と白の境界が、不気味に滲んでいく。
まるで、白紙に垂らした墨が、
静かに、しかし確実に広がるように。
すべてが、その闇に呑み込まれていくかのように――。
バサァ――
『神』は、ゆるりと腕を持ち上げる。
手首を返し、手の甲で黒衣の裾を払った。
裾は、波のように緩やかに翻る。
まるで戦士が剣を抜くように。
ただ流麗に。
四つの目の視線が静かに絡み合う。
冷ややかな眼光だけが交錯している。
――永遠のように長い、一瞬の対峙。
裾の黒の輪郭が、伝う雫のように、
どろりと滴りながら、ゆるやかに落ちた。
静寂の中で...
裾の奥―
影が滲み出すように現れて広がっている。
影の中で、たくさんの頭がゆっくりと揺れ、
浮かび上がっている。
首の下に黒き形がぼんやりと浮き彫りにされた。
曖昧な輪郭が揺らぎ、歪み、
形を成そうとするたびに、また崩れる。
「まだ黙っているのか?」
「さて……楽しませてくれるか?」
『神』の顔が笑う。
――だが、また裂ける。
まるで水面に映る影のように、
顔の形が崩れていく...抉れた頬、
剥き出しの歯、剥離した眼球...
さらに、顔のパーツが捻じれた、悶え苦しむ顔。
最終、映し出すのは、絶望と苦痛に歪んだ死者の顔。
――死相だ。
一つ、また一つ
次々と別の死相を映し出す。
そして、数千の死相が、神を見つめる。
声が重なって響いた。
「ワ……タ……シ……タ……チ……ハ……」
悲痛に、呻くように、
一音ごとに違う声が紡がれる。
数千の囁きと叫びが、一つの言葉となる。
「ア……ダ……ム……ト……エ……バ……ノ……」
男の声、女の声、
幼子の声、老人の声、
囁き、叫び、笑い声,嗚咽、息を呑む声。
「コ……ド……モ……ダ……」
それは、死相が語る怨嗟の声。
……どうしてオレなんだ……答えを乞うように、
祈るように、
だが、それでも、救いは訪れなかった。
怒号が空間を裂く。
数千の死相が神を睨みつけ、 黒き闇が膨張し、
『神』は、ふっと笑った。
「さあ……面白い話をしようか。」
「二つの、とても興味深いストーリーを。」
闇の中で、
『神』の顔は、赤ちゃんの死相がゆっくりと浮かび上がる。
「これは、ある少女の物語だ。」
昔、一人の少女がいた。
勉学が全ての世界で育てられた少女。
朝、まだ日も昇らぬ時間に、
鞄を背負い、学校へ向かう。
昼ご飯、十五分。
少女は走る。
食堂までの道を、息を切らしながら。
深夜、一時ぐらいまでの宿題。
「試験に出ないものは必要ないわ」
両親はそう言った。
少女は頷いた。
少女は、新しい服が欲しかった。
「学習に支障をきたしやすい」
両親はそう言った。
少女は、旅行をしてみたかった。
少女の意思など関係なく、両親は少女に代わって、
すべて考えた上で、少女の願いを断った。
「余計なことを気にせず、教科書の内容だけを押さえれば大丈夫。
試験に出るのはそこだけだから。」
両親はそう言った。
少女の生活は、
試験の点数で作られていた。
それでも、彼女は笑った。
頑張った。
期待に応えた。
日々が過ぎ、
そして――高校生になった。
ある日、彼女は恋をした。
少女の人生に「勉強」以外の何かが生まれた瞬間だった。
出会ったの彼は、体育生だった。
二人は惹かれ合い、愛し合うようになった。
しかし、その影響で彼女の成績は徐々に落ちていった。
そのことを知った両親は、
ある日突然、彼と会いたいと言い出した。
「お前のために、ちゃんと見極めないとな」
両親はそう言った。
少女は驚きながらも、とても喜んだ。
人生で一番嬉しい瞬間だった。
最も幸せな微笑み。
しかし、それは罠だった。
両親は彼の脚を折った。
体育生としての道は断たれ、彼は学校を去った。
少女は、心が壊れていった。
ある夜、家を飛び出した。
行くあてもなく、ただ闇の中を歩いた。
そこで出会ったのは、一人の薄汚れた乞食。
その夜、勝手にその男と夜を共にした。
翌朝、家へ帰ると、薄汚れた少女はすべてを両親に話した。
数ヶ月後、彼女は妊娠していた。
そして、完全に狂ってしまった。
......
『神』の、赤ちゃんの死相が微笑む。
「実はね――」
赤子の口が、ぽつりと開く。
「ボクのパパが誰だか、当ててみて?」
「ねえ、神様。」
「――こうすれば、気が楽になった?」
裾の影から頭が弾け、空に止めどなく飛び出し、咆哮して...
嘆きが、狂気が、怨嗟が、
萬千もの声となって渦巻いた。
黒き嵐が巻き起こり、神を取り囲んでいき、飲み込むようだ。
しかし、
神はただ、そこに立っていた。
まるで、 初めからそこに何もなかったかのように...
「なるほど。」
『神』は、ガッカリして、
「ならば、もう一つ、聞かせてやろう。」
闇の中で、
次の死相が、ゆっくりと浮かび上がる。
これは――
「少年のだ。」
少年には、母しかいなかった。
母は毎日働いていた。
朝、母は出かけた。
昼、休憩のうちに、母は帰って、 ご飯を作った。
夜、母は疲れた体を引きずって帰宅した。
昼ご飯を作った。
小さな町で、 小さな賃金で、 少年のために、
日々を削っていた。
ある日、母に男ができた。
少年は、
「これで母は楽になる」
「母が幸せになればいい。」
「自分もこのままでいられる。」
と思った。
だが、男と母は、よく喧嘩をした。
叫び声が響くたびに、少年はイヤホンの音を上げた。
母が泣くたびに、少年は自分の部屋で画面を見つめない。
――その日、
男が部屋に入ってきた。
少年がゲームをしていると、
突然、ドアが開いた。
男は、何も言わず、殴って、
男の手が、少年の首を掴んだ。
指が喉を締め付ける。 呼吸が、奪われる。
少年は、
必死に抵抗した。
男は踏ん張れなくて、外の母を助けさせたくて、呼んだ。
母の足音が入ってくる...
その瞬間、
少年の力が抜けた。
抵抗をやめた。手を下ろした。
喉への圧力を、受け入れた。
少年は、
あきらめた。ただ、 目を閉じた...
『神』の少年の死相が泣いて、
「自殺しても、天国にいけないのか?」
静かに言った。
「お前の教えは、もう意味がない。」
『神』は、鼻で笑った。
頭が飛び、 回転しながら、 『神』の周囲を舞う。
「アハハハハハハ――!!!」
耳をつんざく狂気の笑い声が反響しながら、
白と黒の境界に浸透していく。
「…………」
まるで、そよ風を感じるように。
神は、静かに目を閉じた。
そして――
穏やかに、優しく、 暖かく、ゆっくりと口を開いた。
「人は、環境の産物ではない...」
「...自ら環境を作る存在である。」
まるで、海の波音を聞くように、
すべてを包み込むような響きを持っていた。
「……ついさっきまで狂っていた人頭でさえ、
わずかに静まった……」
『神』は、微笑んだ。
「お前は、個の悲劇を裁かない。」
「人がその中でどう“自由意志”を行使するかは、
お前とは無関心。」
「つまり、
人間が何をしようと、
お前には関係ない、ということか?」
「じゃあ、
お前がここにいる理由は?」
『神』は、せせら笑った。
今まで裾の影に押し込められていた死者の魂が、
一斉に解放された。
哀嚎が、空間の全てを埋め尽くした。
黒が全てを覆い尽くす。
亡者たちは、
もはや単なる影ではなかった。
死者の裂けた口が、開く。
喉を引き裂くような、悲鳴を上げる者。
呪うように、呻く者。
泣き叫ぶ者。
歓喜に震え、狂ったように笑い続ける者。
腹の底から嗄れた声で、嘲笑う者。
楽しげに、嗤う者。
絶叫が、次々とヴォイドを引き裂いた。
空間のすべてを埋め尽くす。
まるで、
何かが始まることを祝うかのように。
だが――
その中心に、
ただ一つ、光があった。
神の姿、
まるで揺るがぬ灯火のように、 周りの闇を照らしていた。
「.......神能!......」
『神』は、傲然たる命令...
「お前が神能を渡さないのなら――」
『神』の裾が翻った。
黒き蹄が、白きヴォイドを踏み砕く
――コツ……コツ……コツ……**
一定のリズムで、
黒馬の蹄がヴォイドを打つ音が響く。
影から現れたのは――
黒き馬に跨る騎士。
その手には、黄金の天秤が、わずかに揺れる。
騎士は、ゆっくりと顔を上げ、
新しき『神』の声を代弁するかのように、静かに言った。
「人は平等であるべきだ。」
「労働は、皆が等しく行う。」
誰もが、誰よりも多くの労働を負うことはない。
「糧は、皆が等しく得る。」
誰もが、誰よりも多くの食を手にすることはない。
「知識は、皆が等しく学ぶ。」
誰もが、誰よりも多くの知を持つことはない。
「思想は、皆が等しく抱く。」
誰もが、誰よりも異なる信念を持つことはない。
「愛は、皆が等しく向ける。」
誰もが、誰よりも異なる者を愛することはない。
「服従は、皆が等しく誓う。」
誰もが、誰よりも異なる意思を持つことはない。
騎士は、ゆっくりと天秤を掲げていた。
「そして――」
「川が干上がる時、」
「大地が枯れる時、」
「空気が淀む時、」
「すべての人間は、等しく死ぬ。」
「それが、
絶対なる平等。」
黒き馬が一歩、前へ踏み出す。
ヴォイドの光が、その蹄の跡から、黒に染まっていった。
亡者の嘆きが響く中、
その光は、揺らぐことはあった。
突然、
『神』は、ふと息を呑んだ。
突然、温かさが、襲いかかるように包み込んだ。
絶対的な、安心感。
満ちるような感覚が湧き上がる。
「……ハハハ……ハハハハハハハッ!」
「世界が導いたのは、このオレだ。」
『神』は、微笑んだ。
それは、 確信に満ちた笑みだった。
「......世界、再造!」
それから、空間にどこを見ても真っ暗。
暗闇の奥へ、深く、深く――瞼が開く。
――光。
柔らかい木漏れ日が、視界に差し込む。
風がそよぎ、木々が優しく揺れ、枝の上では鳥たちが囀り、
花々は鮮やかに咲き誇り、
甘い香りが空気に溶ける草の匂いと湿った土の感触。
――幸せの感覚ね。
視界が定まり、
目の前に映ったのは――
煮えたぎる大鍋。
火が燃え盛り、パチパチと爆ぜる薪。
熱気が立ち昇り、 グツグツ、グツグツ――。
湯気がもくもくと空へ消えていく。
そして、
その鍋の隣には――
赤い大鎧を着るみたいな恐竜。
粗く発達した腕。
ゴツゴツとした鱗。
分厚い尻尾が、無造作に草を押し倒していた。
右手には、長いお玉。
左手には――
上半身は、 白い骨だけがむき出しになっていた。
だが、
下半身にはまだ肉がついている。
骨になった人間。
恐竜は、お玉で鍋をかき混ぜると、ジュワッ……。
湯気が立ち昇る。
恐竜は、お玉を口に運び、
スープを味見する。
「……んん。」
しばし考え、 左手の死体の「穴」に、
ニンジンを突っ込んだ。
「よし。」
そのままガブリと頬張る。
「ムシャムシャ、クチャクチャ……。」
しばらく咀嚼し、
口から出てきたのは――
白骨だけとなった下半身。
それを、何の躊躇もなく、
後ろの小川へ投げ捨てる。
恐竜は、満足そうに口を拭いながら、
「やっぱり、ケツの肉はうめぇなぁ。」
ぼそりと呟いた。
「もっとニンジンを突っ込めたら、
歯ごたえが良くなるのに……。」
そう言いながら、ゆっくりと視線を巡らせる。
次の食材を探すように――
そして、視界のこちら側を見つけた。
恐竜の目が、
カッと大きく見開かれる。
「アハッ!!」
嬉しそうな声が響いた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次の章からは――
恐竜と少女が、新世界を旅する物語が幕を開けます。
新しき『神』は、絶対平等という、
まるで夢幻のような概念をもって新世界を構築した。
その光景は、果たしてどのようなものなのか?
すべての人が等しく生き、
等しく考え、
等しく愛し、
等しく従う。
これは理想なのか? それとも悪夢なのか?
恐竜と少女は、新たな時代の中を駆ける。
彼らの目に映るのは、
かつての文明とは異なる、「新世界」の姿。
そして、旅を続ける中で、
「自滅しないユートピア」とは何なのか――
その問いが、徐々に浮かび上がっていく。
新神が創りし世界は、
果たして、人類が夢見た「楽園」なのか。
さあ、新たな旅の幕が上がる。