八話 情報収集、それと
簡単なあらすじ『キジカ、ログマ昨日の店に』
二人が昨夜多大なる迷惑を掛けてしまった店、ラコールへとログマがわざわざやって来た理由。
「そっか、アイツ。
ここで情報を集めるつもりなんだ」
それを考えた結果、そのような答えに辿り着いたキジカだったが。
しかしそれは半分正解で、半分間違いであった。
確かにロク・ログマは。
ラコールの店主やその常連達と会話し。
『それらしき人物が毎週決まった日に、この店の二軒東隣にある酒場へとやって来る』
という、二人にとっては非常に耳寄りな情報を土産にキジカの元へと帰って来た。
そして、〝その日〟は今日から数えて三日後なのだと言う。
そこで二人はその日の夜にこの店へと集合し、それがラネディ本人だと確認出来次第、復讐を実行に移すと決めた。
……それは良いのだが。
ログマは何と、キジカのいるテラス席へと戻って来た途端に一杯やり始めたのだ。
昨日はそこまで呑まずにいた癖に。
今日に限って、こんな早朝に。
復讐へと向けて、今日から動き始めようというのにだ。
そして、そんなログマを正面に見据えながら。
驚きの最中にいたキジカはそこで漸く気付いた。
恐らくこれこそが、この男がラコールを訪れた『もう一つの理由』なのであろうと言う事を……
キジカは頭を抱えた。
だが、そうしている自分を尻目に。
これまた随分と楽しげに酒を呑むログマに我慢の限界を迎えたキジカは、ふつふつと沸いてきた怒りを身に纏いこう言った。
「ちょっと!!
アンタ何朝からお酒なんて飲んでるのよ!
これから作戦を立てたりするつもりだったんだけど!?」
だが、心なしかあまり酔ってはいない様子のログマは。
自身に落ち度が一切無いとでも言いたげな。
つまりは、普段と変わらぬ調子と表情でそれを否定する。
……ジョッキ片手に。
「ん?あー、違う違う。
これは酒じゃねえ。
それっぽい色をしたただの果汁だよ」
と、ログマの弁明は以上のようなものであった。
だが……
この男の無神経さ。
謝罪を嫌う謎のこだわり。
性格の悪さ。
金にもがめついその姿勢。
その態度……
等々の理由で、まずそもそもとしてログマを信用出来ていないキジカには、当然今の話も信じる事が出来ず。
「本当?ならちょっとソレ、飲ませてよ」
ログマから酒(仮)を奪い取ると一口ちびりと舐め、それが酒であるのかどうかを確認する……
「…………甘い」
すると、それは舌に甘さが残るというだけの液体である事が分かり、どうやら本当に酒の類などではないようだった。
「だから言っただろ、酒じゃないって」
「そ、そう……ったく紛らわしいわね。
何でそんなの飲んでるのよ」
「こうすると出勤前の酒好き共がな……
ほら、見てみろよ」
ログマはそう言って大通りを指差す。
キジカは有らぬ疑いを掛けた事を責められるかと身構えていたが。
性悪にそのつもりはない様子だったのでほっ、とため息を一つ吐き、そちらの方に目を向ける……
ログマの指し示す、大通りの方へと視線をやる。
そこで初めて気が付いたが。
大通りからは『次々に、しかし別々の意思で』というような形でこちらへと向けられる、幾つかの眼差しがある事を知った。
そしてそれは、何処か羨望や、嫉妬を孕んでいるようにも見える…………いや。
実際にそうなのだ。
『こうすると出勤前の酒好き共がな……』
ログマのした先程の発言をキジカは思い出す。
そうだ。
そう言う事なのだ。
こちらを見遣る者達は皆飲み手であり、早朝から酒を嗜んでいるように〝見せ掛けている〟この性悪を羨んでいるのだ。
と言うか、むしろそうでなければこれ程不特定かつ多数の人々達から、その視線を向けられる事への説明がつかない。
「な?良いもんだろう?
嬢ちゃんには感謝してるぜ。
こんなに良い、『嫌がらせスポット』に俺を連れて来てくれたんだからな」
だが、ログマはそれを心地良く感じているようだ。
……どうやら、コイツの真の目的は『他者への嫌がらせ』であり。
また、飲んだくれという訳でもなく。
ただひたすらに、それよりもタチの悪い存在であったというだけであるようだ。
この男という者は。
「……はぁ。それはどうも。
喜んで頂けて何よりよ……」
そう言った後、キジカはまた頭を抱えため息を吐いた。
決して良いとは言えぬ趣味(?)を終え。
店を後にしたキジカは再びログマに連れられ、王都レブレスの街を移動していた。
『これから行く場所で〝あるモノ〟を手に入れる。
復讐するんだったら、ちゃんと怨恨に合った方法でやりたいからな』
そう告げられるも詳細な説明は無く、少しもやもやとした気分で歩くキジカ。
だが次第に、道標としていた性悪が何処か陰気で人を寄せ付けないような雰囲気のある裏路地へと入り込んで行き始めると、何となしに心細く感じたのかその背中に向けて声を掛けた。
「ねえ、そう言えばアンタってお酒嫌いなの?
昨日もあんまり飲んでないみたいだったし、今だって果汁で終わらせてたじゃない?
まあ、今の場合は早朝だったからかもしれないけれど……それで、どうなの?」
「いや、そう言うわけじゃねえが。
まあ飲み過ぎないように気を付けてはいるな。
そうじゃねえと、突然むかつく奴とかと出っくわしたりした時に素早くやり返せないだろ?」
「……あっ、そう」
「何だよ、自分から聞いといてそれかよ。
まあ良いや……着いたぜ」
不安からか、いつしか自身の服の端を掴んでいたキジカの手を引き剥がしつつそう言い。
そこでログマは立ち止まった。
性悪に手を振り解かれたキジカは一瞬むっとするがすぐに思い直し。
目的地に着いたという言葉を聞いて前方を見遣る。
そこにあったのは、この場所と同じくやはり何処か陰気な……店名の書かれた看板も無ければ表札も何も無い、小さな煉瓦造りの建物であり。
その窓から薄ぼんやりと見える、植物の鉢植えや用途の分からない器具、工具のような物等から推察すると……恐らく、道具屋だろうか?
それかもしくは、ただの一個人の私宅か?
とにかく、そんなような建物であった。
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