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七話 行動開始

簡単なあらすじ『キジカは色々と、外套を着た男は名前を互いに教えた』




夜が去り、王都レブレスは陽光に包まれてゆく。


街もそこに生きる人々も、眠い目を擦り活動を始める時間だ。


そう。

また普段通りの、当たり前の。

だが、それでいて安らかな一日が幕を開けたのだ。



ただ昨夜の、繁華街の。

もっと言えば一つの酒場でだけは。


安らか(その限り)では無かったようだが……




朝日を受け、目覚めたのはキジカも同じだった。


しかしそれは、決して心地良い覚醒ものではなかったようだ。


まあ、それもそのはず。

何とか自身の借りる宿屋の一室には辿り着けたものの、彼女は外出着のまま、その床で眠り込んでしまっていたのだから。


「うぅ〜、ぐぐ……」


惚けたような瞳で暫く虚空を見つめ、また暫くすると頭を抱えて唸る。


キジカが起きてまず最初に始めた行動はそのようなものだった。


また、その合間に何故か正座し、考え込むような仕草も挟んでいる。


そこから察するに、どうやら彼女は昨夜飲み過ぎたあまりに多少の記憶を失い、また二日酔いにも悩まされているらしい。


いや、今度は顔を歪めて肩をぐりぐりと回したり、首を左右に振ったりもし始めた。


……訂正しよう。

彼女は先述した事柄に加え、床で寝たせいで身体を痛めてもいるようだ。


とは言え、そのような状態でもキジカがここで朝を迎えられたという事は、恐らく例の外套を着た男、『ロク・ログマ』は、あの後きちんと王女を介抱してくれたのであろう。


宿酔中のキジカもそれだけは思い出したらしく。

僅かだがログマに感謝しているのか、こんな呟きをして見せた。


「やっぱりアイツ、意外と良い奴なのかも……」



しかし、その発言はすぐに撤回される事となる。


それは数分後、漸く立ち上がれるまでに回復したキジカが、不意に部屋内部にある寝台へと視線を移した時だ。



ここにこうして、部屋の主である自身が眠っていたのだから、本来そこには誰の存在も無いはず。


当然キジカもそのように思っていたのだが。

何と、それは大きな間違いであったのだ。


何故ならば、そこには…………


床で身体を痛めた彼女とは真逆に。

随分と快適そうに、大の字となって眠りこける。


ロク・ログマがいたのだから。


「…………ちょっと!!起きなさいよ!!


何自分だけそっちで寝てるのよ!!

ていうか私の部屋で寝るな!!」


状況を理解したキジカがログマを叩き起こした事は言うまでもない。



それからまた少しして。


目を覚ましたログマとそれを叩き起こした張本人であるキジカは。


「さてお嬢ちゃん、準備は終わったか?」


「ええ、大丈夫よ」


各々服を着替え、顔を洗い。

加えてキジカは青白い顔に化粧を施す事で身支度を整え。


そうして遂に。即席だが相棒となった二人は。

復讐を果たすため、行動を開始するのだった。


「だけど……」



「だけど……まず謝ってくれないかしら?

私、床に寝かされてたせいで身体中が痛いんだけど?」


「よし、それじゃあ行くか」


「ねえ、お願いだから無視しないでもらえる?」



キジカはログマに連れられ、復讐へと向けて動き出した……


かと思いきや。


ログマがまず真っ先に向かったのはラネディの元ではなく、『ラコール』という名のとある店であった。


そこでログマは店内を彷徨うろつき。

そうして幾人かの者達と会話し。


一方でキジカはというと。

テーブルに顔を隠すようにして突っ伏し、縮こまり。

何やらこの場所に居心地の悪さを感じているようだ。


しかし、それは当然。


この店は昨日、二人が多大なる迷惑を掛けたものと同じであるのだから。



(ああ!不安だわ!


昨日の事はあまり覚えてはいないけれど。

多分何かしちゃったのよね、私。


それについて何か言われたりはしないかしら?


……とにかく、早く帰りたいわ!


それなのに。

コイツはどうしてそんなに無遠慮にいられるの?


無遠慮というより無神経だからかしら?


だとしたら本当に、いろんな意味で肝が据わっているというか、鈍いというか……)


キジカは卓に顔を伏せ。

つまりは先程までと全く同じ姿勢のまま、ログマが戻って来るのをじっと待ち続けていた。


だが、なかなか戻らぬ無神経な男に嫌気が差したのか、それともその姿勢でいるのに疲れたのか、はたまた飽きたのか。


それは分からないが、彼女は漸く顔を上げるときょろきょろと視線を動かし、店を見回し始めた。


夜は酒を提供するこの店ラコールは、一応は朝でも営業しているようだ。


しかし、雰囲気からしてそちら寄りのこの店には、朝の軽食や珈琲を飲むために訪れる客の方は稀と言っても良い程であるらしい。


今キジカもいる、この大通りに面したテラス席だけでなく、店内のカウンターやテーブルにも恐らく常連であろう者達だけがまばらにしかいない事がその事実を物語っている……


いや、もしかするとそのような者達のためだけに店主は朝にも客を迎えようと決めたのだろうか?


そして、そんな常連らしき人物の一人とログマは今、カウンターに座り会話していた。


ちなみに言うと、珍しく楽しげにだ。


(……私にもそれくらいの感じで接してくれれば良いのに)


それが視界に入り、キジカは頬をぷくりと膨らませる。



だが、それにしても。

ログマは一体、ここで何をしようと言うのだろうか?


その後姿を見たキジカは、いつしか最初に感じた疑問を思い出していた。


ログマがこの場所へとやって来た目的。

思えば、彼女はそれをまだ聞いてはいなかったのだ。


そこでキジカは、やっと冴えてきた頭をひねり答えを導き出そうとする。


……そこまでせずとも。

普通に考えれば、『情報収集』等ではないだろうか?



「そっか、アイツ。

ここで情報を集めるつもりなんだ。


確かに、ラネディは王都の酒場にも来ていたらしいし……それなら納得ね」


数秒後、どうやらキジカも似たようなものに辿り着いたようだ。

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