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六話 ロク・ログマ

前回のあらすじ『キジカのスキルはオブジェクト召喚』




「ええそうよ、私の名前はキジカ。


『オブジェクト召喚』


そんなスキルしか扱えないせいで魔王討伐を命じられてしまったオルストランド王国の第一王女。


キジカよ」


酒の力を借りたキジカは外套を着た男に自身のスキルと。そして、その素性を曝け出すのだった。




魔王。


オルスランド王国と他国の境界付近にある、無人となった城に突如棲みついたという魔物達の大将。


キジカはその討伐をも命じられていたのだ。



本来ならばキジカ程の者では到底出来るはずもないそのような無理難題を、彼女が押し付けられてしまったのには理由がある。


それは彼女も言うように、その『スキル』が原因だった。


ごく普通のスキルをごく普通に扱う。


それだけならばまだ、事実上の追放だけで済んでいたであろう。


だが、キジカは折角授けられたそのスキルを、『オブジェクト召喚』という形でしか扱う事が出来なかったため、見放されるだけでなくとうとう疎まれ始めてしまったらしく、つい数日ほど前に魔王討伐を命じられてしまったのである。


先にも言ったように。

キジカではどう足掻いたとしても不可能だというにも関わらずだ。


しかし、それが大間違いの人選である事はキジカ自身が最も良く理解している。


また、『王と、その周囲にとってはそれでも良い』のだという事も、彼女は既に気付いていた。


何故ならばキジカは謂わば捨て駒であり。


成功すればそれはそれで良し。


駄目ならそれでも構わない。

一族の恥がこの世から消え去るだけなのだから……


そう、だからこそ。

奴等にとってはどちらに転ぼうが全く問題は無かったのだ。


……あまり大きな声では言えないが。

もしかすると、オルトノルト家もキジカを〝お荷物〟だと思っていたからこそ。


結婚が決まっているはずのキジカにそんな命令が下されても尚、静観していたのかもしれない……



ちなみに言うと、キジカが宿屋を拠点としているのもそのせいである。


実質追い出されたようなものである事には変わり無く。それに、自身を虐げた者達などと顔を合わせたくはなかったからだ。



「そうかそうか、お嬢ちゃんが〝あの〟お姫様だったのか……」


「ええ、そうなの。


それで一か八か、ラネディ様に助けてもらおうと思ったんだけど、ね……正直、まだ信じられないわ」


「ま、仕方ねえよ。

あれには流石の俺も驚いちまったからな。


王族でもない野郎が王女と結婚するってのは、〝相手から見れば〟信じられないような名誉だってのに、まさかそいつが浮気してるとはよぉ……


本当に面の皮が厚いというか、何と言うか……」


「ま、それは私が国の〝お荷物〟だからっていうのもあるんだろうけど……


あー!!

なんか自分で話してたらまたイライラしてきた!!」


魔王討伐を任された理由。

そして、理由それにある表と裏までも。


酔いのせいか、素性だけで無くそれら全てを、男に打ち明けたキジカは段々と嫌な記憶が蘇ってきたらしく。


叫ぶようにそう言いながら、不愉快な気分を紛らわすべく酒を一気に飲み干そうとする……


が、今回男は気怠げな顔でそんなキジカを見つめているばかりであり、彼女の鯨飲を止める事は無かった。


『スキルを聞き出す』という目的を達成した今、男は目の前の王女がどうなろうが興味は無い……のかもしれない。


「おいおい、せめて自分の足で歩けるくらいにはしておいてくれよ、酔っ払いの介抱(荷運び)は別料金だぜ」


「五月蝿いわね!!

こうでもしないとやってられない……」


その時、不意にキジカが視線を店の奥へと移して黙り込んだ。釣られて男もそちらに目を向ける。


そこには席に座って酒を呑む男の四人組がいた。


ゲラゲラと笑いながら会話し、煙管きせるの灰を当たり前のようにして床に落とす彼等のその様子から、品性を感じ取る事が出来る者は酔狂と見て間違いは無いであろう。


「アイツは本当にバカな女だよ。


俺が遊びで付き合ってやってるってのも知らずに、結婚だの何だのとうるさくてさあ……」


どうやら、品が無いのは振る舞いだけではなかったようだ。一人の男がそのような話をすると、皆はまた下卑た笑みを浮かべ大声で笑い始める。


外套を着た男はそれを暫く汚物でも見るかのような視線で眺めていたが、いつしか自分のいる卓が小刻みに揺れているのに気が付き、キジカの方に視線を戻した。


すると、哀れな王女は四人組の中にいた一人の不義な男とラネディを重ね合わせたのか。


まるで先程の話が自身の事であるかのように怒り。

顔を顰め、憤怒を握り締めた拳で卓をがたがたと震わせていたのだった。



「……丁度良いわ。

私のスキルがどんなものか見せてあげる」


次にキジカは声までも震わせてそう言った。


「え?」


「さっきの男をよく見てなさい」


訳も分からずにいる男に対してキジカは店の奥を指差して続け、再び男達の方へと視線を向けるよう促す。


それを聞いた男が言う通りにすると。

数秒後、不義な男の持つジョッキの底には、小さな魔法陣のようなものが浮かび上がる。


かと思えば次の瞬間。


「うわっ!?何だ!?」


突然、ジョッキは跡形も無く消え去り。

器を失った液体は男へと豪雨の如く降り掛かった。


「……!

今のはアンタが……」


そして、それを見た外套の男がキジカの方に向き直ると。


「……やったってのは間違いなさそうだな」


左手は卓の上に水滴で描かれた魔法陣の先に。

右手には底に白い灰の付いたジョッキを持つ、彼女の姿を見たのだった。


「そう、あれを手元に召喚したの。

これが私のスキルよ。


私の目の届く範囲くらいの場所にならば何でも、何処にでも召喚する事ができるわ。


……物限定、だけどね。


どう?これでよく分かったかしら?」


「ああ、よく分かったぜ。


熱い珈琲を飲んでいる最中に、お嬢ちゃんを怒らせない方が良いって事もな」



呆然と座り込む不義な男。

消えたジョッキに騒然とする男達、そして酒場。


それを作り出したのは自らだと言うにも関わらず、まるで気にする様子も無く、普段と同じような口調でキジカは言った。


「そう言えばアンタの名前、まだ聞いてなかったわね。


教えなさいよ、私の事も話したんだから。

お互い隠し事は無しよ」


すると、こちらもまた周囲の喧騒を他人事とでも思っているかのような風でいる、外套を着た男はこう言い。


「ん?


……ああ、そうだな。

あまり自分の事は話したくねーんだが、仕方ねーか」


両手で何かをねるような仕草をした後。

出し抜けに掌の中に隠し持っていたそれを、未だ呆然としている不義な男へと向けて放り投げた。


「痛っ!!今度は何だ!?


…………うっ!?」


そして、それに当たった不義な男は突然。

白目を剥き、泡を吹いて倒れる。


……次の瞬間には、悲鳴が幾つも上がり。

他三人の男は更に慌て、酒場は大混乱となった。


が、やはりと言うべきか。


これにも一切動揺せず、それどころかそんな周囲の様子を肴に酒を呑みつつ外套を着た男は口を開く。



「俺はロク。


ロク・ログマだ。


『毒属性』の魔法が得意な、ただの一般市民さ」











序曲 完


『一章Capriccioに復讐を 』に続く


『ロク・ログマ』

外套を着た男。名前と、『毒属性の魔法が得意である』というのが今回判明した。しかし、相変わらずそれ以外の情報は一切キジカに教えるつもりはないようだ。


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