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五話 その娘は王女キジカ

簡単なあらすじ『今日だけは呑まずにゃいられない』




もう一つちなみに言うと、今日はキジカの奢りでもある。


しかし、カンパニヤの町では金欠に喘いでいたはず……なのだが。


キジカは酒場へと向かう直前、拠点としていたこの街の宿から所持金を持ち出していたのだ。なので、今彼女の懐を心配する必要は無いのである。


そして当然、外套を着た男が自宅に戻るでも無く、未だにキジカの背後を歩き、彼女に群がろうとする男共ハエをしきりに払い除けていたのもそれが理由だった。


そう、男はキジカの身を案じていたのではなく。

自身が手間賃代わりとして手に入れる酒の方を案じ、そのような事をしていたのだ。


しかし、今回に限ってはキジカの方が男よりも一枚上手であった。


彼女は確かに、護衛の手間賃代わりにと男を酒場に誘いはしたが。


その実、『ボディーガードをさせるため』という目的でこの性悪を連れて来たのだから。



とは言え、外套を着た男(これ)もまた異性だ。

用心棒であったはずのそれが反対に、キジカを襲うけだものとなる……という可能性も捨て切れないはず。


……それはキジカ自身も理解はしていた。


しかし、男の予想通り。

既にあの時の悲しみが怒りと変わっていた今のキジカには、そのような細かい事を気にしていられる余裕などなかったのだ。


その証拠に、キジカは店を決め席に座った途端に酒を注文し、届いたそれをすぐさま飲み干した。


呑み、呑まれ。

あの時心に付いてしまった、汚れのようなものを全て洗い落とすために。


「ぷはぁー!!最高ね!!」


そうしてキジカは、喧騒飛び交う街の酒場で。


それにも負けぬほどの雄叫び(?)を上げるのだった……



二杯、三杯、四杯と……

飲み進めるうちに大分酔いが回ってきたキジカ。


だがしかし、自分が酒に呑まれかけている事は彼女自身が最も良く分かっていた。


何せ、自らそれを求めたのだから……


「ほら、アンタももっと飲みなさいよ!

これがアンタの欲しがってた手間賃の代わりなんだから!」


そんな彼女は少し不満げな顔で、正面に座る外套を着た男にも酒を勧めた。


「うるせーな酔っ払い、俺には俺のペースってもんがあるんだよ」


そうは言いつつも、ちびり、ちびりと舐めるように呑んでばかりいる男に酔いの気配が見受けられなかったからだ。


というか、まずそもそもとして酒の進みが遅い。


『ほう、ここはなかなか良い場所だな……』


店に入る前、男は確かにそう言っていた。

それに以前酒場で夕食をとっていたとも話していた覚えがある。


だからこの男は酒場にはちょくちょく足を運んでおり、尚且つ酒好きだとばかり思っていたキジカは少し拍子抜けしてしまった。


(コイツ、お酒が嫌いなのかしら……?)


そこでふとそう思い、疑問を口に出そうとしたキジカであったが。


それよりも早く、男が声を発した。



「……なあ、そろそろ教えてくれよ。

アンタは何ができるんだ?」


男はまた随分と真面目な顔でそう言った。


「何よ、藪から棒に」


それにキジカは不機嫌を隠さず答える。


その間も彼女は酒の入ったジョッキを男に向けて突き出すようにして何度か動かし、『いいからアンタも呑みなさいよ』という意思を、身体で示して見せるのだった。


だが、男は黙って彼女からジョッキを奪い取るとそれを自身の脇に置いて、再びキジカの目を見て口を開く。


「棒も何もお嬢ちゃん、それ以上飲んだら話せなくなるだろう?


だからその前に、『お嬢ちゃんの持ってるスキル』について色々と聞いときたいのさ。


いいとこの出だし、『サモンズの儀式(サモンズ・セレモニー)』を受けてないってことはまずないだろう?」


「まあ、その通り、だけど……」


そこで一瞬、キジカの表情が暗いものに変わるのを見た男は、少し不思議そうな顔をしてこう続ける。


「……どうした?言いたくないってのか?

別に何も、それを知ってどうこうしようってつもりはねえよ。


ただ即席インスタントとは言え一応。

俺にとってお嬢ちゃんは今、相棒みたいなものなんだからさ。それだけだよ」



なるほど、コイツが聞きたかったのはそのためか。


キジカは合点がいき、何度も軽く頷く。


確かに、相方の持つ技や技術。

その引き出しが多ければ多い程作戦の幅も広がり、復讐の成功率は上昇する事だろう。


だからこそ、この男がキジカの所持しているスキルを知ろうとしているのも納得出来る。


(でも、それは……


いや、性格はともかく実力……というか。

執着心は物凄いようだし、そういった点で見ればコイツは充分信頼に足る人物と言えるわよね。


ならやっぱり、話しておきましょうか)


そう考えたキジカは、自身の持つスキルの全てを。

この男に話すと決めた。


「分かったわ、教えてあげる」



……だが、他者へとそれを伝える事に抵抗があったキジカはまず。


「でも、その前に……

それ、返してもらえるかしら?


ここからだとちょっと、手が届かなくて……!」


男に奪われたジョッキに手を伸ばした。


……どうやら酒の力を借りる事にしたらしい。


「ん?ああ、ほらよ。


でも、さっきみたいなイッキ飲みはダメだぜ?

そしたらお嬢ちゃん、今度こそ何も話せなくなっちまいそうだからよ……」


「わ、分かってるわよ!

だけど、そうしないと話せないの!」



そうして酒を使い喉を潤し。

また仮初の勇気をも手に入れたキジカは、漸くその重い口を開いた。


「……私の。

私のスキルは『召喚士』よ」


「おっ!召喚士か!

それなら色々と細工が出来そう……」


それを聞いた男は目を輝かす……が。

キジカはすぐに首を左右に振ってその考えを否定し、こう続けた。


「〝普通〟の召喚士ならね。


だけど、私の場合はね。

体質のせいで魔力の保有量が他の人よりも少ないから、召喚獣みたいな生物は呼び出せなくて……


せいぜい、物の召喚くらいしか出来ないの。


だから私のスキルは言うなれば、『オブジェクト召喚』……って所かしらね」


そうして、いつしか切なげに顔を曇らせていたキジカは。


全てを話し終えたのだろう。

今度は俯き、黙り込むのだった。



「ふーん、物の召喚くらいしか出来ない、ねえ……


ん?待てよ……?」


キジカのスキル。

その全容を知った男は暫く考え込んでいるような表情と姿勢を続けていたが。


突然、何かに気付いたのか目を大きく開いて前のめりになり。


「って事はお嬢ちゃん……!?」


口早く、ただし声は抑え。

目の前で項垂れる娘へと向けて言った。


しかし、それ以降は口をぱくぱくとさせるばかりで言の葉が紡がれる気配は無い。話せぬ程に驚いているのだろうか。


だが、キジカはそれを予想していたらしく。

彼女は表情一つ変えずに視線だけを男の方へと向けると、沈黙を破りこう言うのだった。


「……その様子だと知ってるみたいね。


ええそうよ、私の名前はキジカ。


『オブジェクト召喚』


そんなスキルしか扱えないせいで魔王討伐を命じられてしまったオルストランド王国の第一王女。


キジカよ」

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