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四話 協力

簡単なあらすじ『ラネディの側には見知らぬ女が』




外套を着た男と共に森を抜け、どうにかラネディの元へとやって来る事が出来たキジカであったが。


許婚である彼の側にいた、誰とも知らぬ女の存在を知り膝から崩れ落ちる……



まさか、そんな。


必死の思いでここまで辿り着いたって言うのに。

これでやっと、救われると思ったのに。


まさか、そんな。

ラネディ様が他の女と一緒にいるだなんて。


そんな……私は……

私はどうしたら良いの?


誰か、教えてよ……



キジカは両の手で顔を覆った。


だが、すぐに隠されたはずの瞳からは涙が零れ。

直に溢れ、指の隙間より絶え間なく流れ落ちる。


閉じた掌の中から見る流水それはまるで。


キジカを海中にいるかのように錯覚させるのだった。


そう、涙の雨が作り上げた。

暗く悲しく、冷たい海の底にいるかのような……



いつまで経っても頬を伝う涙が止まらない。


それならばいっそ。

この悲しみも共に洗い流してくれれば良いのに。



傷心に暮れる王女は静かに、静かに泣き続けていた。


しかし、とうとう堪え切れなくなったのか。


「やっぱり、私なんて誰からも必要とされていないのね……!


私だって、私だって好きでこうなったわけじゃないのに……!」


キジカは弱音を吐き、その場に蹲ってしまった。


……直後、頭部に温もりを感じる。


「おいおいケチなお嬢ちゃん、泣きごと言ってる場合じゃないぜ?」


それは自身の頭をぽんぽんと軽く叩く、男の掌のそれであった。


キジカは何も言えぬまま顔を上げ。

その目にぼんやりと映る男を見つめる。


「察するに、あの女は何処の馬の骨とも知れない奴で、アンタはあのラネディって野郎に浮気されたって所なんだろう?


……だったらやり返すのさ。

やられたらやり返すんだ。


泣いてたって何も始まらねえよ。

そう、復讐してやるのさ。


それに、このままじゃアンタも収まりがつかないだろう?」


男は続けて言った。


確かに、自分の胸中は今悲しみに満ち満ちているが。


そのうちに悲哀これが怒りと変わり、報復を求めるであろう事はキジカ自身にも容易に想像は出来た。


だからこそ、正直に言えばではあるが。

男の意見には、キジカはおおむね賛成であった。


しかし問題があった。


キジカは復讐それを可能とするだけの力も何も、持ち合わせてはいないのだ。


「……でも。

私には、どうする事も出来ないわ」


彼女は声を喉奥から絞り出すようにして発し、男へとそれを素直に打ち明けた。


すると。


「心配すんな。

今回だけは俺が手を貸してやるよ」


……頭でも打ったのだろうか?


あの性格の悪い男が何と。

驚くべき事にキジカへの協力を買って出たのだ。



(……私、夢でも見ているのかしら?)


勿論、それにはキジカも驚愕する事となった。

絶え間なく流れ出るかと思われていた涙も、直後にはぴたりと止まっていた程にだ。


今の今まで絶対に謝ろうとはせず。

口を開けば腹の立つような発言ばかりし。


つい数分前に至っては手間賃の事しか考えていなかったようなこの性悪カスが、まさかそんな事を言うとは想像もしていなかったのだから。


「え?でも……どうして?

アンタってそんなタイプじゃないでしょう?」


そのあまりの衝撃のためかキジカは。

思わず、胸中にあった『オブラートに包む前の言葉』をそのまま男に投げてしまっていた。


「ターゲットが同じだからさ」


だが男は不快そうにするでもなく。

ただ一言、キジカの目を見てそう言った。


「……???」


「分からねえか?


……あの野郎。

俺にこの間酒を引っ掛けやがった張本人やつだ」


そこで初めて男は顔を歪め。

不愉快な気分である事を表情で示して見せるのだった。




舞台は移り、ここは王都レブレスの大通り。


日が沈むと共に幾つもの店が光立ち客を誘い、またそれに誘われる人々の群れは。


さながら、陽を嫌う夜行虫の祭典のようにも見えた。


「ほらほら!もうちょっと早く歩いてよね!

何処の酒場もすぐ一杯になっちゃうんだから!」


「んなもん分かってるっつーの」


そんな大通りをキジカは先程の事が嘘であるかのような軽快な足取りで。


反対に外套を着た男は上玉キジカを見、どうにか御近付になるべく声を掛けようとする男達を睨め付け、そして跳ね除けながら、気怠げに歩いていた。


そう、二人は王都へと戻って来ていたのだ。

約束通り行われた、男の護衛により何事も無くセルバ大森林を抜けて。



「とは言ったものの、何処に入ろうかしらねぇ」


「んだよ、さっさと歩けとか言うからもう決まってるもんだと思ったが、そうじゃなかったのかよ……」


キジカは文句を垂らす男を無視して人混みの中、きょろきょろと周囲を見回し手頃な店を探し続ける……




ちなみに、何故二人はそうしているのかと言うと。


復讐を決めたとは言え、腹立たしい気分を抑えられない今日この日だけは呑まずにはいられなかったからだ。


特にキジカが。


またそこからも分かるように、今の楽しげな様子は空元気なのである……


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