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四十七話 逆襲

簡単なあらすじ『ログマとキジカ、ギノックの手を借りて牢馬車から脱出する』




牢馬車よりやや遠方に存在する、幾つも並んだ天幕テントの群れ。


だが、画一的に並んだそれらよりもまた少し離れた位置に唯一。質が良く、かつ真新しく見える一つの天幕があった。


そしてその中には転生者の姉妹、双葉と若葉がそこにいた。



双子は仮寓かぐうの床に寝転がり、幕越しに頭上に広がる闇夜を見つめていた。


またその様、その仕草さえも瓜二つであり。彼女達は器こそ偽りの代物であるとは言え、なかみは本物の双子であると言う事は明白だった。


「ねえ、双葉……」


「なに?若葉」


不意にぽつりと片割れが呟き。

それを聞いたもう一つの断片は彼女へと目を向けた。


「今、私達って幸せだよね?」


だが言の葉が耳に触れた途端、双葉の顔に影が落ちる。


しかし、彼女はすぐさま瞳を閉じて暗中に身を投じるとまたすぐに開目し、闇を潜り抜けた。


そしてその時にはもう、彼女の表情に曇りは無かった。まるで目の奥に広がる漆黒に浸り、心の闇を洗い落としたかのように。


「本当に何なのよ、急に……」


そうして双葉は口を開き、紡ぎ始める。

先程まで若葉に向けていた視線を、再び空へと戻しながら。


「まあ……幸せなんじゃない?


確かにスマホが無いから、動画見たりとか、SNSやったりとか、何にも出来ないのは正直今でも不満だけど……でも。


今の私達はどんな奴だって倒せるし、王子様と契約してるから生活にも全く困らない。〝あっち〟にいた時とは大違いだよ。


むしろ、娯楽と引き換えにこの生活を手に入れたって考えれば充分……


……!!」


だが、言葉それは終わりを待たずして途切れる事となった。


二人のいる天幕の上部。それが突然にも溶け落ち、崩れ始めたからだ。



「やった……かしら?」


崩れゆく天幕。それを背に足を早めつつも、時折振り返っては視線を回し木橋の上のキジカがそう呟く。


そう……やはりと言うべきか、あれはキジカとログマの仕業であったのだ。恐らく、先程使うはずだった毒魔法はこちらへと転用されたのだろう。


「お嬢ちゃん、そんな希望フラグはさっさと折って捨てちまいな。今ので倒せるくらいのタマなら国がわざわざ呼び出すワケないだろう?分かったら早く行くぞ」


しかし一方で、ログマは悲観的であった。


彼はそう言うと背後で起こる崩壊になど見向きもせず、迅速に橋を渡るようキジカを促す。


「でも、あそこまでやったら流石に……」


するとその時、二人の後方よりどんっ、と砲弾の発射されるかのような大きな物音が聞こえた。


「……え?今のは」


「やっぱりな……さあお嬢ちゃん!急げ!」


それによって多少の反発を見せるはずだったキジカの発言は掻き消され、彼女はログマに手を引かれるがままに駆け出して行った。


……数秒後。

ログマの予測は的中したと分かった。


先程宙に飛び出したかのような物音を辺りに響かせた正体である、若葉と双葉の二人が地上へと飛来したのだ。



それからまず真っ先に双子が初めたのは、周囲の確認であった。


二対の顔が、四つの眼が、暗がりの中を灯虫のように舞い踊る。


すると、若葉のものである二頭のそれが、少し離れた場所に架けられた木橋を捉えた後、動きを止めた。


そこに月明かりの中、駆け足で橋を渡る女の後姿を見たような、そんな気がしたからだ。


「……!!双葉、あっち!!王女様だ!!」


いつの間にやら、若葉は微笑んでいた。


そうして彼女は笑みを浮かべたまま若齢の娘とは思えぬ程の速度で大地を蹴り、暗中に見た背中を導べに前進を始める。


「ちょ、ちょっと若葉ダメよ!!そんなの罠に決まって」


対して、双葉は彼女を止めようと声を上げるが。


「〝だから〟行くんだよ!!」


「若葉!!…………はぁ、全くもう」


それも無駄と知り、数瞬の後に王女の影を追う者は二人となった。



若葉と双葉の脚力凄まじく、標的との距離はみるみるうちに縮まっていった。


そうして双子は瞬く間に森を越え橋を越え、その背をはっきりと捉えた後に二人を越え。獲物達の前へと躍り出る。


すると、王女とその護衛らしき男……キジカとログマの二人は。


怯える様子も無ければ逃げ出そうとする訳でも無く。だがしかし双子へと背中を向け。


そこでただ、立ち尽くすのだった。


「……?」


逃走しないのだとすれば、何故わざわざ敵に背を向けるのか。それを見た若葉と双葉は首を傾げる。


……が、すぐにその真意を理解する事となった。


「頼むぜお嬢ちゃん!!」


「ええ、任せて……えいっ!!」


ログマに促され、キジカが声を上げると。


大岩が突如として木橋の真上に出現し。そして降り掛かり……それを瞬く間に破壊してしまったのだ。


「「あ……」」


双子が惚けたような声を出す頃にはもう、それは木橋それとしての形を成してはいなかった。


対岸には駆け付けるも、こちらへとひたすらに視線を送る事しか出来ずにいる兵士達が見える……そう。


だからこそ、二人はそれが退路を断つ事になると知りながらも木橋を壊したのだ。


双子と兵士達を分断するため。

転生者かのじょたちへと真っ向勝負を仕掛けるため。




……だが、しかし。


「フフ、ウフフフフ……」


一部始終を目の当たりにしたはずの若葉は、笑っていた。


いや……目の当たりにしたからこそ、だろうか。

いいね、感想等受け付けておりますので頂けたらとても嬉しいです、もし気に入ったら…で全然構いませんので(´ー`)

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