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四十六話 脱出

簡単なあらすじ『キジカ、新たな〝支え〟を知る』




一頻り笑った後に二人は、途端に真面目な表情で会話を始めた。


そしてそれは、ロク・ログマの発言を呼び水としたものであった。


「さて、それじゃあ決行だ。

さっさとここを抜け出してアイツらぶっ飛ばしに行こうぜ。俺達には魔王を倒すって言う大事な使命があるんだからな。


心配すんな。俺だってただ時間を無駄にしていた訳じゃねえ。


良い考えがあるんだ。だからひとまず、ここを抜け出して俺達の荷物を取り返しに行くぞ」


「で、でも。急に決行だなんて……一体どうしたの?今まではもっと慎重に行きたいとか何とか、アナタ言ってたわよね?」


「ん?そんなの当たり前だろう?


キジカ、お前には一秒でも早く女王様になってもらわないといけないんだからよ。そうだろ?」


そう、だから彼は引鉄ひきがねを引いたのだ。


キジカのした宣誓、それに胸を打たれたのだから。

ならばこちらもまた引鉄を引く(そう)しなければ、引鉄を引か(撃ち返さ)ねばと、性悪の彼は反撃の姿勢を見せたのだろう。


いや……なのかも、しれない。



そんなログマの一言で急遽始まった脱出作戦は。

またもやキジカには詳しく説明が無いようなものであった。


あれから彼女が何度聞こうが、答えを求めようが。


ログマはまるで機械かの如く、『良い考えがあるって言ったろう?』、『まあ落ち着けよキジカ』などと繰り返すばかりであったのだから……


「全く、普段の調子に戻った途端にこれなのね……」


(不安は無いけど、不満ではあるわ。本当に、こればかりは良い加減治してもらいたいものね……)


それから先に続く言葉はログマに聞かれては困ると思い、胸中で吐き捨てるのみに彼女は留める。


「よし、そろそろ良いか」


それと時を同じくして、ログマが先程まで閉ざしていたはずの口を漸く開いた。どうやら自身の得意とする毒魔法によって檻を溶かす準備が完了したらしい。


「それじゃあいくぜ……!!」


そうして彼の両掌の中には闇夜よりも深い、漆黒の塊が現れ……なかった。


「……!?誰か、いる……?

ちょ、ちょっと待ってログマ!」


「あぁ!?いきなり何すんだよ!?」


「あそこよ!あそこに誰かいるの!」


付近に何者かの気配を感じたキジカが、それを無理矢理に押し止めたのだ。


彼女が指し示すのは牢馬車の裏手。そこは錠前のある部分であり、たった今ログマが破壊せんとしていたその場所と同義である。


「んだよ、今から始めようって時に……見張りか?」


二人はそちらへと目を凝らす……すると、その正体を知り驚きの声を上げた。


「…………いや、アンタは!!」


「ギノック!?」


そう、そこにいたのは抜け殻のようなあの男、ギノックであったのだ。




「…………」


正体を知られて尚、ギノックには何一つの動きも無ければ表情にすら微塵の変化も無い。


だがむしろ、それが殊更にただ立ち尽くす彼の不気味さを際立たせるせいか、二人の胸にじわじわと緊張の色を滲ませていった。


……それから三人の間には暫しの沈黙が続き、漸く変動が訪れたのは数分後の事であった。


「……」


それはギノックによって齎された。何を思ったのか、彼が突然牢馬車の鍵を開け放ったのだ。


訳も分からず戸惑うログマとキジカ。

だがそれでもギノックは無言を貫いており、真実が二人の前に訪れる予兆などありはしなかった。


「ギノック、アンタ……これは一体、どう言うつもりなんだ?」


「……もしかして貴方。私達を逃がしてくれるの?」


困惑しながらも、ひとまず二人はそう問い掛ける。


恐る恐るといったその様子は、暗中より希望を手繰り寄せようとする様、そのもののように見えた。


すると、そこで初めてギノックが呟く。


またその目はキジカへと向けられており、尚且つ彼の両手には、二人にとって見覚えのある幾つもの品が握られていた。


そう……あれは奪われたはずの二人の荷物、そのものだ。


「君達の話は……聞こえていた……

行ってくれ……荷物は、ここにある……」


そうしてギノックは二人へと荷物を手渡す。それもごく自然に、当たり前かのように。


しかしそれは当然ではなく、それどころか本来ならば起こり得るはずもない出来事なのだ。


それだけ、ただそれだけとは言え……荷物を取り戻したと言うのにも関わらず、二人の表情が晴れぬのが何よりの証拠である。


と、そんな風でいる事しか出来ない二人であったが、何とか、どうにかと言った様子でログマが口を開いた。


恐らくは戸惑うまま、困惑に身を落としたまま。


「あ…………ああ、そうか。

アンタ確か荷物番だったな。


でも、良いのか?

これがもしバレたりでもしたら、アンタは……」


「構わないさ……だから……

だから、頼む……転生者達を倒してくれ……いや。


妹達を、解放して(助けて)やってくれ」


だが、再び発せられたギノックのその言葉を聞き。

ログマははっとしたような表情となり、押し黙る。


ただし、今度のそれは混乱からでも迷いからでもなく、何か強い想いを宿した……いや、与えられた事による沈黙それであるかのように見えた。


「……ああ、勿論そのつもりだ。任せてくれギノック」


「ええ、そうね……何だかよく分からないけれど、ありがとうギノック!私達行ってくるわ!」


そうしてログマは静かに頷き。

キジカは白い歯を溢すと。


男に背を向けて闇夜へと飛び出し、最後にはその中に消えて行った……


そしてそんな二人を、抜け殻のようなその男は……ギノックは。


いつまでも、いつまでも見つめていた。


自由となった両の手をそのままに。

内に秘めた、誰もよりも強い想いだけを胸に。




「さあお嬢ちゃん。予定通り転生者共をぶっ飛ばしてやろうぜ……アイツの頼みでもあるしな」


「ええ。でも珍しいわね。どの道戦うつもりだったとは言え、アナタが人のために動こうとするだなんて」


「……まあ、そりゃあ逃がしてくれた恩もある訳だしな。


それに……さっきの会話でアイツ、初めてしっかりと俺の目を見て言ったんだ。『妹達を助けてやってくれ』ってよ。


面と向かってああ言われちゃあ、そりゃあ嫌でもやるしかねえだろう?」


「……ふふ、そうね」

いいね、感想等受け付けておりますので頂けたらとても嬉しいです、もし気に入ったら…で全然構いませんので(´ー`)

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