四十四話 寄生型
簡単なあらすじ『キジカとログマ、ギノックの話を聞く』
ロク・ログマは狼狽しているようで。
冷汗を垂らし、握り締めた拳を震わせ、顔には苦悶の表情を滲ませていた。
まず間違い無く、ギノックの話が原因であろう。
だがしかし、何がそこまで彼を揺さぶったのか。
キジカとは違い、自身の兄の名が話中にあったという訳でもないだろうに……
それを見たキジカはすぐに問い掛けた。
自身の胸中にもあったはずの動揺も忘れ。
今の今まで見た事も無いような彼の表情、そこにある理由を探り出すために。
……いや、もしかすると。
彼女はただ単に、彼の身を案じているだけなのかもしれないが。
「ど、どうしたのログマ!?具合でも悪いの!?」
だが、そうではなかったらしく。
しかし苦悶が事実であるのは確かなようで。
ログマは割にすぐ、返事をした。
ただしゆっくりと、まるで……怒りに打ち震えているかのようなその声で。
そうだ……彼は、怒っているのだ。
この時にはキジカも、そうであると何と無しに気付いていた。
そして……
「ああ、悪いさ……最悪の気分だ。
……なあお嬢ちゃん、知ってるか?
転生者ってのにはな、実は二種類あるんだ」
「え……に、二種類?
ログマ、本当に大丈夫?アナタ急に何を」
「一つは、生身のままこの世界にやって来る奴だ。
『転移転生者』と呼ばれる事もあるな。
コイツの出現はただの運。
出現の人為的な操作も出来ねえし予測もまず不可能だ。
そしてもう一つは。
この世界に元々いた奴。もしくは新しく産まれるはずだった奴なんかの身体を乗っ取って、それを自分の肉体として活動を始める……
寄生型だ。
こっちは単に『人格乗っ取り型』って呼ばれる事もある。
身体の違いがあるからか、コイツは前者ほどの化け物じみた強さはねえ。
しかしコイツはな、俺も細かい理屈は全く分からねえが……
ある程度こっちで出現を操作出来るんだよ。
例えば、死霊術使いが転生者の魂を呼び寄せたり、そこに肉体を用意したりすればな。
とは言え、全ての国がそう出来るだけの技術を持ってる訳じゃねえ。
俺が知っている国はただ一つだけだ……分かったか?
…………この国の奴等はなあ、やりやがったんだよ。
手前を神か何かだと勘違いして……あろう事か民を弄びやがった!!人為的に転生者を呼び出しやがったんだよ!!
パベーナとバベーナの肉体を使ってな!!」
そこで漸く、キジカも憤怒の理由を悟り。
彼女にもまた、怒りという名の炎が飛び火する……
しかし、キジカは激昂するまでには至らなかった。
憤怒との対極にあった、驚愕の方へと彼女の天秤が傾いたからだ。
とは言え、驚愕するのも当然だろう。
そんな真実など……いや、それが事実かすら。
彼女は全のうち一切も、知らないでいたのだから。
「あ……あ、あり得ないわ!!
そもそも転生者に二種類あるだなんて、私今の今まで聞いた事が」
「……お嬢ちゃん」
だが、キジカの言葉はログマによってすぐに遮られた。普段とは異なる、嘘偽りの無いであろうその目。自身を呼ぶ、その一言によって。
……その時にはもう、キジカにも分かっていた。
それは真実であり、私は彼と共に怒るのが筋、本来なのであると。
けれども、信じたくなかったのだ。
ログマの語った祖国の悍ましいやり口を。
一番は、話中に見た兄の影を……彼女は。
だが、それも時期に……
「そいつは当然だ。
何せ俺だって、あの時までは知らなかったんだからな……」
「あ、あの時?
…………!!
まさか、国家機密の文書……?」
「そうだ。捕まる直前、俺は少しでも情報を頭に入れておこうと文書に齧り付いた……そこに書いてあったんだよ」
「…………ならやっぱり、あの話は」
「ああ、あの男の話は全て真実だろう」
「そ、そんな……!
じゃあ国も……二人を連れて来たって言う。
お、お兄様も……」
「……お前には酷な話だろうが、はぐらかすのはもっと酷だ。だからはっきり言わせてもらうがな。
……どちらも黒だろうぜ。
それも、ドス黒く染まってやがる」
段々と外堀は埋まり。いや埋められ。
遂にそれが抗えぬ事実と知り。
「…………そう、なのね」
キジカは深く、項垂れる。
そうして、今度は彼女が身を震わせる事となった。
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