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四十二話 抜け殻のような男

簡単なあらすじ『キジカとログマ、兵士達と打ち解ける』




兵士達と打ち解けたは良いものの。

それが希望を生み出すまでには至らず。


打倒転生者の道筋を断たれた二人は途方に暮れる……いや、訂正しよう。


どうやらキジカの困惑それは、自身の口に当てられた隣にいる男の手の温もりから来ているらしく。


また、そうしているログマはと言うと。

彼はまだ希望それを諦めてはおらず、むしろ手繰り寄せようという気でいるようで。


先程、愚策を囁いた娘と代わるかのようにして、今度は彼が声を発した。


「……アンタ達の話は分かった。

だが、俺達はもっともっと転生者達(ヤツら)の情報が欲しい。


それで、さっき思ったんだが……その以前にやられちまったっていう、兵士達はここに来ていないのか?


ソイツらからも話を聞きたい……どうなんだ?」


「う〜ん……まあいる事には、いるんだけどな……」


「でも、アイツらはすっかりあの女達にビビっちまってる。例え拷問したって何も話してはくれないだろうぜ」


しかし、返答をする者達の表情は変わらず暗い……かと、思いきや。


不意に一人の兵士が他の誰とも違う、何事か脳裏に蘇ってきたかのような、そんな顔をしてこう言った。


「……あ、そうだ!

なあ、アイツなら俺達よりも詳しいんじゃないか?


ほら、以前あの転生者達と揉めたって言う、荷物番の……」


その話しを聞き、ログマの耳がぴくりと動く。


それは意図せずなのであろうが、ただ自身にとって有益となるであろう者の存在を知った事が原因なのはまず間違いないだろう。


またいつしか、その顔は僅かに綻び、口元はやや笑みの形にも見えるように歪んでいた。恐らくこれもまた、図らずもの事であるはずだ。


とは言え、それは彼だけであり。

兵士達の反応はと言うと……


「ああ、アイツか……

でも俺、アイツ苦手なんだよな……」


「俺もだ。何言っても無表情だし、ずっと死んだような目してるし。


おまけに喋ってる所なんて見た事ないし……

正直、あんなのがまともに話してくれるとは思えないんだよなぁ……」


等々、どう取り繕ったとしてもあまり良いものとは言えなかった。


「それでも良い、ソイツをここに呼んでくれないか?」


だが、それでも。


ログマはそれを光だと信じ、またそちらへと進み行くつもりのようだ。



それから暫くして。


ログマの要求を聞き入れ去って行った兵士達に代わり、ある男が牢馬車の前へと一人でやって来るのが見えた。


察するに、あの男こそが例の人物なのだろう。


そして、今は二人にとって希望とも言える、その人物とは……


茶の髪と青眼を持つ、精悍な男。


……ではなく。

いや、過去にそうだったであろう事は、何と無しに推察出来るのだが。


今、二人の目前に立つその男は。


目は落ち窪み。野放しの髭と髪に顔は覆われ。

落ち切った贅は頬もその身をも抉り取ったようで。


この男は何故未だに、死神から逃れる事が出来ているのかとでも言いたくなってしまう程の…………とにかく、そのような者であった。


「……ッ!」


キジカが男の死気に当てられたのか身震いを起こし、ログマの腕に貼り付く。


まあ、無理もない。

生きるべく伸ばした手の先にあったものが、まるで死の象徴、それそのもののようであったのだから。


しかし、ログマは動じなかった。


知っていたからだ。

先程までいた兵士達に聞かされ、このギノックという男が……


元々は彼等と同じく兵士であったが、しかし。

ある日を境に突然、生きる気力を失くしたようになってしまい。仕事も満足に出来ず、同僚等にも気味悪がられ。


終いには降格させられてしまい。

そうして、今は荷物番を任されているのだと。


とは言え、彼も感じはしていた。

自身と同じく兵士達の話を聞いたその上で怯える、側の娘のように。


荷物番……それが辛うじて任せられるであろう、最低限の筋肉と、そして精神を残しているのみと言ったような、この男は。


死を思わせる……いや、虚だ。

無ではなく空、まるで抜け殻のようであると。


…………こんな者が、果たして本当に俺達の助けとなるんだろうか?


数瞬、ログマの脳裏にそのような考えが浮かぶ。

だがすぐに頭を振り、彼は目前にてただ立ち尽くすその男へと問い掛けた。


「ようアンタ、ギノックだよな?


話はアイツらから聞いてるだろう?

俺達、あの転生者二人組の事をもっと詳しく知りたいんだ。


良ければアンタの知ってる情報を…………」


しかし、ログマの声は途絶えた。


相も変わらず無表情。しかもその上、生気の無い眼を、視線をこちらへと注ぎ続ける男に。


自身の言の葉が届いていないではないかとの憶測に囚われ。尚且つやや圧倒され。


だがそれでも、今はこの男だけが頼りなのだ。

話してくれなければ困る……ログマは続けた。


「あ……あ、ええと……

も、もしかしてアンタ、上官を裏切るような真似は出来ないとでも考えてるのかい?


だったら安心してくれよ。

俺達、転生者なんざ初めて見たからよ、物珍しくてな……だから何つーか、ただそれについてもう少し聞きたいってだけなんだ。


別にそれを知ったからってどうする事もねえ、本当にただの好奇心なんだよ」


ただし、続け様に彼の口から出たその言葉は。


真実が二割、虚偽が八割と言った所だろうか……そのような内容ではあったが。


とは言え、それは例え九割、いや十割が嘘であったとしても何ら問題は無かったのだ。


比率がどうであろうと、男は無言を貫いていたのだから……


「参った……こいつは予想以上に手強いな……」

いいね、感想等受け付けておりますので頂けたらとても嬉しいです、もし気に入ったら…で全然構いませんので(´ー`)

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