四十一話 齎す者達 2
簡単なあらすじ『キジカとログマ、二人に謝意を抱く兵士達と出会う』
「あら、この木の実本当に美味しいわね!
ねえログマ、アナタもそう思わない?」
「ああ、この薄気味悪い見た目からは想像出来ないくらいにな……なあアンタ、もう一つくれないか?」
「ハハハ、喜んでもらえたようで何よりだ。
まだまだあるから沢山食べてくれよ」
「よし!じゃあその中で一番デカいヤツを頼む!」
「あ、ちょ、ズルい……私もデッカいのが良い!」
兵士の話を聞き。また、それが敵意でなく謝意を有すと知った、キジカとログマの二人は。
彼等からの餞別……いや、失礼。
贈物を今度こそ有り難く受け取り、会話し。
今は俘虜のような身であるにも関わらず。
敵だったはずの兵士達と段々と打ち解けつつあった。
「ふぅ……もう、お腹いっぱい……」
「大丈夫か?大分苦しそうだぜ?」
「ログマ……ふふ、そんなに心配しなくても大丈夫よ。
ちょっと食べ過ぎちゃっただけだか」
「いいやお嬢ちゃんじゃねえ、服の方だ。
可哀想に、〝中身〟がこんなんなっちまって、流石に窮屈だろうな……」
「…………悪かったわね、こんな中身で」
そうして、腹も膨れた頃。
「ハ、ハハ……あ、兄ちゃんはどうだい?
まだ食べられるならいくらでも持って来るぜ?」
敵とその捕虜という立場。そんなものは最早完全に霧散してしまっているらしく。
ログマの失言を誤魔化すためであろう、側にいた一人の兵が気を利かせすぐにそう言った……が。
「いいや、もう充分だ。
それより、アンタに少し尋ねたい事がある……
アンタ達の上官、あの二人についてだ」
ログマはその提案に頭を振ると、言った。
恐らく、互いが互いに馴染んだ今こそが頃合いだと見てそうしたのだろう。彼等の上に立つ二人の少女、若葉と双葉の情報を得るために。
それを察し、キジカもそのままの姿勢で耳を傾ける。
当然、先程までしていた不満げな表情も奥底へと仕舞い込み。
しかし、それを聞いた兵士は。
口角を下げ、眉根も下げ、つまりは押し黙ってしまった。
警戒心の薄れた今ならばと口に出してみたが。
この質問をするにはまだ早かった、と言う事だろうか。
彼もそう思ったのだろう。
ログマは少し慌てた様子でこう続けた。
「あ……口止めされてるってんなら無理に喋らなくても良いぜ?アンタ達には感謝してる、仇を返すつもりは無いさ」
そうして、彼は珍しくも相手の顔色を窺う。
隣にいるキジカもまた……
すると兵士が漸く、静寂を破りその口を開いた。
「……ああ、いや。
そういう訳じゃないんだ。
むしろ、アンタ達になら話しても良いと思ってる。
ただ、その、何というか……すまないな。
実を言うと、俺達にもよく分からないんだよ」
そこで沈黙の理由は自分可愛さでも、口封じされているという訳でもなく。単なる不知にあると理解した二人は、その瞬間から。
まるで兵士の静寂を受け取ったかのように、今度は彼等の方が重く口を閉ざしてしまった。
何故ならば……そう。
だとすればもう、情報を得る機会は失われたも同義なのだから。
「力になれなくてすまないな……
今の俺達はただ、指示されてアイツらの下で動いているっていうだけなんだ。
ある日突然、国のお偉いさんがあの二人組に直属の上がいなくなった俺達を突き合わせて。
それで、『今日から彼女達が君達の上官となる』とか何とか言われて……って感じでな。
だからさっきも言ったが、俺達にもアイツらの事はよく分からないんだよ……」
「ただ、転生者だっていう噂は本当みたいだぜ。
まあ、そうでなくても滅茶苦茶強いって事だけはまず間違いないだろうな。
何でも、『素性も分からん妙な女達の指示になんて従えるか!!』とか、『あんな骨と皮だけみたいなガキ共に使われて堪るか!!』とか言って、反発してた何人かの奴等が。
前にあの女達を訓練って名目でちょいとまあ、〝可愛がって〟やろうとしたらしいんだけどな……
でもみーんな、やられちまったっていう事があったんだってよ。
それも一瞬、あっという間にな。
ソイツら、今では全員すっかり怯えちまって、あの女達の指示にびくびくしながら従ってるらしいぜ?」
沈黙する二人の前で、兵士達はそう話した。
それ以上は得られないであろう、僅かばかりの。
転生者達の情報、その話を……
しかし、それでもやはり情報は足らず。
二人は黙りこくったまま……では、なかった。
キジカが突然にも何事かぶつぶつと呟き始めたかと思うと、今度はログマの耳元でこう囁いたのだ。
「ねえログマ」
「ん?」
「こうなったらもう、脱出するしかないと思うの。
確かに、今の話であの子達に結構な実力があるっていうのは分かったけど、でもそれだけじゃない?
だから一旦ここを抜け出して、態勢を立て直すのよ。そうすればきっと、あの子達に勝利出来るはずだわ」
「そりゃまあ、準備出来るに越した事は無いが……でもお嬢ちゃん、どうやってここから抜け出すつもりなんだ?
もし俺に檻を壊せって言うならそいつは無理な話だぜ?さっきも言ったが、俺はまだ派手に動くつもりは無いからな」
「大丈夫、もっと平和的な方法を思い付いたの。
それはね……私が王女だって事をこの人達に話して、それで解放してもらうの!
会話していて思ったんだけど……この人達、王女の顔までは知らないみたいだし。それなら事情を説明さえすれば、必ずここから出してくれるはずよ。
どう?良い方法だと……むぐっ!?」
「やめとけ、兵士達の〝上〟は知ってるんだ。そんなもん無意味だろう。
それに、無駄に知り過ぎればコイツらにも危険が及ぶかもしれねえ……今は黙っときな」
ただし、キジカにとっての妙案は愚案として却下され。ログマに直接、その口を手で押さえられ。
そして、それは単なる囁きとして役目を終えたのだが。
いいね、感想等受け付けておりますので頂けたらとても嬉しいです、もし気に入ったら…で全然構いませんので(´ー`)




