三十九話 諦めぬ二人
簡単なあらすじ『キジカとログマ、転生者と出会う』
双子の片割れが確かに言った。
自身が転生者だと言う、その言葉を聞き。
「何!?転生者だと!?」
「……!?」
先程までの表情とは打って変わって、愕然とするログマとキジカ。
すると、二人を驚愕させた張本人である若葉は。
特に性悪の方を打ち負かしたという喜びが抑え切れないのか、勝ち誇ったようなその顔を更に綻ばせ、最早歪め。
そして軽薄にも、軽率にも。
再び饒に動くその舌を使い、話し出した。
「へえ、お兄さんはともかく王女様も知ってるんだ。
なら今の話は理解出来たでしょ?
私達って存在そのものがイレギュラーだからさ、他国の連中には勿論、そこら辺の一般市民にも素性を知られちゃマズいんだよ。だからこんな回りくどい方法で王女様とその用心棒さんを始末しようとしてるってわけ。
それともう一つ。
この世界の人間よりも遥かに高い身体能力を持つ私達には。
この世界の人間なんて、どうやったって敵いっこないって事もさ……ね、これでよく分かったでしょ?
ま、そーゆうわけだから大人しくしてた方が良いよ。〝その時〟はせめて苦しまないように、一撃で殺してあげるからさ……」
だが、そこで若葉の肩を掴んだ双葉が。
細くも鋭い声で彼女を窘めると。
「双葉……喋り過ぎ。ほら、行くよ」
漸く若葉は口を閉ざし。
今度こそ、二人は去って行くのだった。
それから暫しの時が流れた。
だが、二人は牢馬車から脱走するような気配すらも見せぬまま。
互いに身を、肩を寄せ合い。
じっと何かを待ち続けている……ように見える。
「……転生者。
まさか、この目で拝める日が来るとはな……
しかし、この国の奴等は転生者の二人組をどうやって手に入れたんだ……?
もしかすると……いや、考え過ぎか」
そこでログマがぶつぶつと呟く声が聞こえてきた。
すると、それに反応したのか。
キジカも彼に続いて口を開く。
ただし、彼女の方はやや陰鬱な顔をして。
「ログマ……その、ごめんなさい。
私がいなかったら、アナタが捕まる事もなかったのよね……本当にごめんなさい、足を引っ張っちゃって……」
……キジカは先程、若葉のした発言が原因でそのような表情をしていたようだ。
彼女は自分さえいなければ、ログマは兵士達の前から難無く逃走出来たはずだと……つまりは、自身が足枷となってしまった事に負い目を感じていたのだ。
しかし、珍しくもログマは。
そんなキジカを追撃しようとはせず、それどころか顔色一つ変えずに。
すぐに彼女へと、こう言うのだった。
「いいや、転生者に目を付けられちゃあ、何をどうしようが今と同じような結果になってたと思うぜ。お嬢ちゃんが謝る必要はねえよ。
それより、お嬢ちゃんもそんなにくよくよしてねーでアイツら倒す方法を一緒に考えてくれ」
「そう、ありが…………え?た、倒す!?」
『じっと何かを待ち続けている……ように見える』
どうやらあの予感は、正しいものであったようだ。
そして、その待ち人の名は間違い無く、『妙案』であろう。
ログマはそれが自身の脳裏へと姿を現す事を、今の今までずっと待ち構えていたのだ。
だがしかし、その計画は。
どれ程緻密だろうと無茶なのだ。無茶苦茶なのだ。
そんな計画、立てた所ですぐに掻き消えてしまうはず。
これから、少し先の未来の。
転生者の手によってそうされてしまうであろう、自分達二人のように……
「なによ、それ……
まさかアナタ、本気で転生者と戦うつもりなの!?」
そう思い、キジカはログマへと問い掛けた。
自身が聞き違えたか、そうでないかと言う事を確かめるために。
「当たり前だろ?アイツらが俺達を狙ったのはたまたまなんかじゃあないんだ。しかも命令で始末するようにまで言われてるときた。
だったら、例え逃げ出した所で何処までも追って来るだけだろうぜ……だから倒すんだ」
すると、やはり聞き違いではなかったようで、ログマからの答えはすぐに返って来た。
それも、キジカも納得出来るような理由付きでだ。
「……確かに、それもそうね。
と言うか、そうしないと私達殺されちゃうものね……よし!!そうと決まれば私も協力するわ!!」
そうして腹落ちしたキジカは、先程までの弱気が嘘であったかのように、『打倒転生者』への構想を彼と共に練り始める。
「……ねえログマ。
早速、一つ思い付いたんだけれど。
アナタの毒魔法でこの檻を壊して、もう今から不意打ちで一気に仕掛けちゃうってのはどうかしら?
『アイツらが嘘を吐いていて、本当は転生者でも何でもない』って言う可能性に賭けるのよ!!」
「お、お嬢ちゃん……
また随分と大胆な事を言うんだな」
「まあ、似合わない提案だとは自分でも思ってるわ。
けれどあの二人は転生者を自称していただけで、本物だっていう明確な証拠はまだ無いじゃない?
それに、ただでさえ珍しい存在の転生者が二人もいるって言うのもちょっと引っ掛かるわ……だから、その可能性に賭けてみる価値は充分にあると思うの!」
「なるほど……ただの思い付きを口に出したとばかり思ってたが。お嬢ちゃん、今のは意外と考えた上での発言だったんだな」
「それはまあ、自分の命がかかってるんだもの……当然よ!で、どうかしら?今の作戦は?」
「今のを作戦と呼べるかは甚だ疑問だが……まあ、悪くないとは思うぜ。
だが読みが外れた場合、その時点で俺達はお終いだ。
転生者が嘘か本当かはともかく、今は後者だと仮定して作戦を立てようぜ?
派手に動くのはその後………………ん?」
しかし、そこでログマの口が止まる。視線が流れる。
だが、それはむしろ当然だと言えるだろう。
いつしか二人のいる牢馬車の前には。
数名の兵士達が寄り集まって来ていたのだから。
・ヌティアサン荒野
イギールの町北部に存在する荒れた野。草木も碌に生えぬそこには遮る物一つとしてありはしないが、同時に生物も、その視線もまた一つとして見当たらない。




