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三十八話 現れた二人

・ヘーレの窟

魔物達の巣窟となっている窟。ただしここの魔物達は皆大人しく、無闇に立ち入りでもしなければ自ら襲って来るものは少ないそうだ。恐らくこれは、イギールの町の攻略が困難であるのと、付近に彼等の餌となるものが殆ど無く、窟に引き篭もってばかりいるのが要因とされている。


簡単なあらすじ『ログマ、待ち伏せていた兵士達に降伏する』




妙案見つからず、降伏した二人は。


すぐさま兵士達に取り押さえられた後。

自由だけでなく荷物までもを奪われ、ヘーレのいわやから追い立てられ。


そして、いつの間にやら外で客人を待ち構えていた。

がたくりと音を鳴らす、馬に小柄で粗末な檻のようなものを引かせた馬車。


ガタ馬車。

いや、今は牢馬車と言った方が正しいだろうか。


それへと放り込まれてしまった……




「はぁ……一体、何処に向かってるのかしら?」


「そいつをご丁寧に教えてくれるんなら、はなから俺達をこんなモンになんて放り込みはしないと思うぜ?」


それから、数十分は経過しただろうか。


だがそれでも、爪音つまおとを響かせながら二頭の馬達が揺らす、二人を乗せた牢馬車は。


未だ静寂へと辿り着く気配は無かった。


役目を与えられ張り切っているのか、何処か軽快にも聞こえる八つの蹄とは裏腹に。


キジカは自然に、ログマは軽口を叩きながらも。

二人の思考は、その間の空気は、より鈍重になりつつある……と、その時。


漸く目的の地へと到着したのか、牢馬車が動きを止めた。


「いたっ!!」「いてえっ!!」


突然身に訪れた惰性の終わりに、無防備であった二人は耐え切れずごちんと頭をぶつけ。


そうして、今度は鈍痛という名の惰性それが始まる……


すると、痛みに悶える二人の前に。


年はキジカと同じか、少し下くらいであろうか。

しかし、面にやや幼さを残す二人組の女が突如として現れ、牢馬車の前に立った。


茶の長髪で青眼をしたその女達は上背もまたキジカと同程度であり。双子なのか殆ど瓜二つと言っても良い程の風貌をしている。


そしてその身は、何処か不釣り合いにも厳格な、無個性な、そんなような風にも見える鎧で包まれていた。


それは恐らく、キジカ、ログマを捕えた兵達と同様のものだからであろう。


だがしかし、異質である。


兵となるにはか細過ぎるだろうし、それに。


彼女達には……

彼女達から二人へと向けられている、その余裕げな様子は、表情は。


ログマ、キジカが現状、抵抗は一切出来ないという事もあるのだろうが、それだけでなく。


何処か危なげな、急拵えのような。

とにかく、熟練のそれでは決してないような印象を受ける……そんな気がするのだ。


「初めてまして、王女様」


「それと、その…………用心棒、さん?」


彼女達は数秒、まるで下等な生物を眺めているかのような視線を二人へと送った後、漸く話し始める。


「私達はベスカ様の側近。

またの名を、四剣が……


いや、今は三剣になるのかな……??」


「どっちでも良いでしょ、若葉」


「まあ、それもそうだね。

それじゃあ、王女様と用心棒さん。


改めて……私は四剣が一人、『阿』の若葉」


「私は同じく四剣の一人、『吽』の双葉。

短い間になると思うけど、よろしくね」


そして彼女達は、自らが四剣と。


また悠長な様子でいる方が若葉と、彼女よりも幾分か慎重に見える方が双葉と名乗った。


「えっ、四剣!?」


「…………」


(こんなにも華奢な彼女達が四剣。そんな、まさか……)


等とでも考えていたのだろうか。

それを聞いたキジカは呆れたような表情をし、ログマは彼女達にきっと射抜くような視線を送り付ける。


「……じゃ、自己紹介も済んだ事だし。

ここで少し休憩を取ったら、またヌティアサン荒野に向けて出発しよう」


「そうだね、双葉。


それじゃあ王女様、用心棒さん。

アナタ達を人目につかないその場所で始末しろって、私達命令を受けてるからさ……それまで、大人しくしててね?」


「ちょっと若葉……」


だが、若葉と双葉はそんな二人を軽く受け流すかのように。


その声を無視し、その視線に反応せず。

ただそれだけ、ただ当たり前のように言い放ち。


二人へと背を向け、歩き出す……


「ちょっと、待ちなさい!!

命令ってどういうこと!?一体誰の命令よ!?」


「それは知らない方が良いと思うよ?」


「王女様は特にね」


「え……?

わ、私は、って……??」


背中越しに漸く返事を寄越されるも、その意味が分からず戸惑いを見せるキジカ。


その時、それと代わるかのようにして今度はログマが口を開いた。


「しかし妙な話だな。

どの道、殺すつもりなら今すぐにだって出来るじゃねえか。


それをわざわざ、移動してまで人気の無い場所でやろうだなんて……この作戦を指示した奴はよっぽど頭が悪いと見た。


それに付き合わされてる兵士達は気の毒だな。

四剣……いや、指揮官殿と言った方が良いか?


とにかく、そんな名前をした。

とんだ空籤からくじを引いちまったんだからよ」


……情報を引き出そうとでもしているのだろうか。


ログマは開口直後から、挑発という名の言の葉を彼女達へと次々に投げ付ける。


すると……

どうやら、それは成功のようだ。


若葉と名乗った少女が二人へと向き直り。

不愉快げに顔を歪ませたまま、再び話し始めた。


兵士達アイツらには無理そうだったから私達が出て来たの。


アナタなら本気を出せば、あの状況でもどうにか出来たんでしょ?ねえ、用心棒のお兄さん?


……それで、私達が表に出て来なくちゃならなくなったから、ここまでしてるってだけ。やりたくてやってるんじゃないの。


私達だって面倒臭いとは思ってるんだよ?

でも仕方ないんだ、こっちも色々と訳ありだからね」


だがそう言うも、ログマの表情は変わらず。


また、今のそれは口よりも遥かに饒舌で。

未だ相手が浅知恵だと、思慮が足らぬとでも言いたげに歪み、少女達を音も無しに嘲笑っている。


それを見、とうとう堪らぬと思ってか舌打ちした若葉は。


「ねえ、止めなって若葉……」


双葉の制止も聞かず、苛立ちのままに。


「良いじゃん何言ってもさ。

コイツらどうせ死ぬんだよ?


それに、例え脱走して私達を襲撃したとしても。

私達の全てを知ったとしても。


どうせ、コイツらには何も出来ないだろうからね。


〝転生者〟の、私達には……」


そう言った。言い放った。


それはまず間違い無く、性悪の嘲笑を止めるべく放った発言ものであったのだろう。


そして、それを聞いたログマは。

何を聞かされようと、表情を変えずにいると決めていたのだが……


「何!?転生者だと!?」


今回ばかりは、そうも出来なかったようだ。


反対に、若葉は勝ち誇ったような表情となる。


まるで、彼等の立場が逆転……いや。


今までもずっと。

彼女達が上であったという事を、証明するかのように。

・「プニレロ〜!プニレロ〜!

美味しいサンドイッチ、プニレロは如何ですか〜!!

今なら大盛りにしちゃいますよ〜!!」


「ねえ、ちょっと……嘘はいけないわよ。

だって貴女が作るそのゲテモノサンドイッチ、マズ」


「ちょっとやめて下さいよ!

お客さん来なくなっちゃうじゃないですか!


旅の資金が集まらなくても良いんですか!?

……っていうか、美味しいじゃないですか!!」


「少なくとも私は、一度たりともそう思った事はないわね。そもそも、食材がそこら辺のスライムってのがもうマズそ」


「ちょ、ちょっと!やめて下さいよ!

それは企業秘密なんですから!!」


『イギールの町にいたサンドイッチ売り二人組の会話』


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