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三十七話 新たなる旅路、そして障壁

簡単なあらすじ『キジカは、ログマの事が……』




二人の旅路は順調そのものだった。


あと幾つかの山と谷を越えれば、目的地である魔王の根城に辿り着くであろうというくらいには。




「お、このプニレロってヤツ。

ただの変なサンドイッチかと侮ってたが、なかなかイケるな」


「あら、本当?安かったからてっきり味もそれなりだと思ってたわ」


「ああ、俺もそうだとばかり思ってたんだがな……これは良い買い物をしたぜ。


お嬢ちゃんも一口食うか?」


「え……え!?わ、私にくれるの!?

アナタが!?本当に!?」


「……何をそんなに驚いてるんだよ?」


「い、いや別に!?

って、そんなのは良いから、くれるなら早く頂戴!!」


「……ま、良いけどよ。ほれ、口開けな」


「え……えぇ!?

いや、それはちょっと……!!」


「……お嬢ちゃん、さっきから様子がおかしいぞ?

一体どうしちまったんだよ?」


「そ、それはこっちの台詞よ!!」


そんな二人は今。


昨晩拠り所とした小さな町、イギールにて。


付近にあるという、魔物達の棲まう『へーレのいわや』へと向かう前の準備として。


心には余裕を、キジカは顔に赤面を。

そして、ログマは胃に食料を備え入れている真っ最中であった。


その理由はただ一つ。

再び旅の資金と、今以上に強力な武具を手に入れるべく……




「とうとうこんな所にまで来たね、王女様。

残念な人だって聞いてたけどやるじゃん。


……双葉、どうする?」


「どうするも何も無いよ、若葉。


ベスカ様から命令を受けているんだし、私達で王女様の旅を終わらせるんだ。


でも、人気のない場所でしか技を使っちゃダメとも言われてるから、もう少し後でね」


町の片隅より伸びる。

二つの影に気付かぬまま。




そうしてキジカ、ログマの二人がやって来た、ヘーレの窟は。


何処か不気味に……いや。

最早、不自然とすら言える程に静まり返っており。


洞穴を我が物として調子を良くしているのか、大きく響く四つの靴音と呼応するかのように。


キジカの中にあった不安も、不審もまた。

より一層、肥大してゆくのであった。


とはいえ、そうだとしても行かねばならぬ。


そこで、ログマはただ淡々と。

反対に、空元気のキジカはその少し前を。


そのような形で窟の中を歩き進めていた。


だが、それからまた暫く前進した後。

不意にログマが動きを止めた。


「……ん?」


彼の視線は自身の足元、地面の上にあった。


そこにはまるで轍のように続く。

痕跡という名の、魔物達が過去に残していったのであろう導引が存在している。


しかし、ログマの目はその上にではなく。

また別の、あるものに注がれていた。


他生物の記した足や尾の型。

それ以外……つまりは人間の足跡、全てにだ。


夥しい量のそれ。

足跡それはまだ新しく、また画一的なものばかりが刻まれている。


だが……何故だろう?


何故そんなものが幾つもあるのか?

何故それ程までの人間が、しかも短期間にこの場を訪れたのか?


そして、それは何故。


入り口を目指すものが、まだ一つとして存在していないのだろうか?


そこまで考えてすぐに、ログマは弾かれたように顔を上げキジカに叫んだ。


「待てキジカ!!これは罠……」


しかし、遅かった。


次の瞬間、二人は今まで身を隠していた沢山の兵士達によって取り囲まれてしまったのだ。


……どうやら、待ち伏せされていたらしい。




そんな彼等の目的はやはりと言うべきか、キジカとログマであったようだ。


「お前達、両手を上げて降伏しろ!!

抵抗すれば命は無いと思え!!」


がちゃがちゃと鎧を鳴らし、二人へと兵達が詰め寄る。


「きゃあ!!何、何なのよ一体!?」


それに驚き、狼狽え騒ぎ。

後方に飛び退いたキジカは、すぐさまログマにしがみ付いた。


「ふん……抵抗すれば……か。

なら、今はまだ殺す気はない、と……」


一方、ログマは考え込んでいるのか顎に手を当て、 何事かを呟く。


冷静でこそあるようだが、少なくとも。

今はまだ、彼が動く気配は無さそうである。


すると、そんなログマに痺れを切らしたのか。

今も尚慌てた様子で彼に縋り付く、キジカがこう囁いた。


「ねえログマ……

ねえ、ログマったら!聞いてるの?


ねえ、こう言う時こそアナタの毒で……」


しかし、ログマにはきちんとその声が届いていたらしく、彼はすぐに返事を、もっと言えば反論を投げて寄越す。


「無理だ。これだけの数を相手にするとなると、毒の及ぶ範囲をより広くしなくちゃあならない。


それは不可能じゃねえが、いかんせん魔力の調整が難しくてな……まあ、要するに加減が出来ねえんだ」


そして、それを聞いたキジカは再び口を開くも。


「そうなの?でも今は緊急事態だし、そんな事気にしてる場合じゃ無いと思うわ。


むしろ思いっ切りぶっ放しちゃえば良いのよ!!

それとも、他に何か良い案があるの?何か考え込んでたみたいだけど……?」


「思い切りぶっ放す、か……ま、それも良いだろうな。

ただし、さっきも言ったが調整が効かねえから。


もしも数秒以内にこの場から逃げ出せなかった場合、その時は俺達も巻き添えになるだろうがな」


「あ…………」


とうとう、その口は開いたまま、塞がらないままとなってしまった。


「分かったか?お嬢ちゃん。

色々と考えた結果、無理だと言ってるんだよ。


ま、そう言うワケだ。

ここは大人しくしておこうぜ」


そうして、ログマは。


彼も言ったように、それが考えた末に出た結論なのであろう……


兵士達の指示通り素直に両手を上げ。

つまりは、降参を選択したのだった。

・イギールの町

平地にポツリと存在する小さな町。

起伏の無いその地形は野盗、魔物等の接近が容易に察知出来るためか意外にも守りは堅く、獣害等問題は少ないのだという。

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