三十六話 紫の君子蘭
簡単なあらすじ『二人はいつまでも、抱き合って涙を流し続けた』
彼とはまた違う温もりを肌に感じ、私は目を覚ました。
気が付けば、朝日が部屋に差し込んでいる。
どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたみたい。
でも、それはログマも同じだったようで。
彼はあの時あのままの姿勢でベットに横になり、私のすぐ側で寝息を立てていた。
私を、強く抱き寄せたまま。
つまりは、斯く言う私もまた。
けれど、私は暫くそのままでいた。
理由は二つある。
身動きして、彼を起こしてしまっては悪いと思ったのが一つ。
それともう一つは、この人の寝顔を近くでもう少し眺めていたかったから。
何しろそれは、とても安らかなものをしていたんだもの……そう。それはまるで、不安から解き放たれたような。
良かった。
例えそれが、僅かなものであったとしても。
私はこの人の傷を、癒してあげる事が出来たみたい。
この人が私に、そうしてくれたように。
……そんな思いを胸に抱いた、まさにその時。
突如として身に起きた異変に、私自身驚きを隠せなかった。
徐々に、頬が赤く染まり始めた。
鼓動が早まった。
この人を見ていればいる程。
そして、それはどんどんと程度を増していった。
熱い、熱かった。
火傷とはまた違う、けれど酷く顔が熱かった。
苦しい、苦しかった。
胸の鼓動が早過ぎて、五月蝿くて、どうにかなりそうな程に苦しかった。
でも、それなのに、なのに。
目を離せなかった。離したくなかった。
私、この人が。
「ログマが、好き。
なの……かしら……?」
そう呟いた途端、今度は顔から火が出たと錯覚する程にまた顔が熱くなるような、恥ずかしいような。
とにかく、そんな感覚を覚えた私は。
堪らず、身を焦がされているかの如くくねらせる。
「…………ん?」
すると、そのせいかログマも目を覚ましたようで。
私はつい、今の表情を見られぬようにと飛び起きた。
「……眠っちまってたか。
お嬢ちゃんは、起きてたんだな。
なんか、その……すまないな。
二度も恥ずかしい所を見せちまって……」
けれど、彼は普段とは少し違い。
そんは私に不満を述べるでもなく、おちょくるでもなく。
ただ、照れ臭そうにしながらそう言った。
「べ、別に、謝らなくても良いわ。
私も似たようなものだったし、お互い様よ……」
「そ、そうか……」
それから暫くして。
私は落ち着きを、ログマは平静を取り戻した頃。
椅子に座り込み、新聞を読む彼に私はこう尋ねてみた。
「ねえログマ……もしかしてだけれど。
アナタが私との旅を決めたのって、私がお母様の娘だったから……とか、だったりするの?」
すると、ログマは新聞から視線を離し。
しっかりと私の目を見てから口を開いた。
「いや違うぜ。それはただの偶然だ。
というか、あの時は色々あったからな。
…………いや。
そういうのも含めて、これは。
もしかしたらお嬢ちゃんの言う通り、運命だったのかもしれないな」
「……だと良いわね。
指名手配されたからって言うのも、あんまりロマンチックじゃないし」
「おいおい、嫌な事思い出させないでくれよ……」
「……フッ、フフフ」
「………笑うなよ」
そうは言いつつも。
彼も私に釣られて笑っているのが見えた。
でも、そこでまた。
微笑むこの人を見ていたら、不意に。
自身の頬が赤く染まり始めようとしている事を知った私は、咄嗟に彼の肩に顔を埋める。
そして、それを、そんな私を。
彼は、ロク・ログマは。
暫くの間何もせずに、そのままにしておいてくれた。
……それなのに。
私は結局、顔を真っ赤にしてしまっていたのだけれど。
でもそれは、この人には内緒にしておこうと思う。
三章 完
『四章 Duetを打ち破れ』に続く
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