三十話 アイツの話
簡単なあらすじ『ログマとキジカ、カイリと別れて夜の町へ』
……一悶着あったのだけれど。
とにかく、夕食を終えた私ことキジカは。
その後でまあ何と言うか、今日は色々と問題を解決したから、お祝い(?)としてアイツを酒場に誘ってみたの……でも。
「いいや、今日は宿に戻ろう。
お嬢ちゃんに話しておきたい事があるんだ」
あの男が、そう言って妙に真面目そうな表情をするから。
仕方なくアイツの言う通り、大人しく宿屋へと戻る事にしたの。
宿屋に帰り着くと、すぐにアイツは私をベッドに座らせた。
それから自分の方は、部屋の隅にあった椅子を持って来て、それに座して私と対面する……その話とやらを、コイツはもう始めるつもりでいるみたいね。
でも、そこまでして行われる『その話』って言うのは、一体どんなものなのかしら?
そう考えれば考えるほど……何故だか。
私は珍しくも緊張してしまっていた。
「さて、お嬢ちゃん。
約束……は、してねーが。
『後で話す』とは言っちまったからな、きちんと伝えておくよ。
少し長くなるだろうが我慢してくれ」
そう私に告げる、この男の随分と神妙な面持ちを見た途端に、私の中にあった記憶が蘇ってきた。
(そうか。コイツは、あの話をするつもりなんだ。
イフリャの言っていた、『過去に自身が法を犯した』と言う話を……)
「ええと、何処から話したもんかな…」
「ちょ、ちょっと待って!!」
「……ん?」
でも、もし本当にそうするのならば。
そうしなければいけないのであれば。
私はそれを聞く前に、どうしてもコイツに伝えておきたい事があった……
だから私は、コイツが話すのを遮って止めた。
「どうかしたのか?」
「……あの、私ね。
ええと、なんて言うか。
アンタの事はどっちかって言うと好…………そんなに嫌いじゃないわよ。
何度か助けられたりもしたし、意外と良い奴だって事も分かったし……」
「……急に何を言い出すかと思えば。
お嬢ちゃん大丈夫か?頭でも打ったのか?」
「だから待ってって言ったでしょ!
今考えを整理してる所なのよ!
…………その、だからね。
私、アンタが過去に何をしただとか、そう言うのは別に気にしてないの。多分だけどその罪も、ちゃんと償ってるみたいだしね。
まあその、だから……あのね。
その話は、アンタがしたくないなら無理にする必要は無いのよ?
私も、無理矢理聞き出すつもりなんて無いから……」
……そうして私が思っていた事、全てを打ち明けると。
アイツは少し意外そうな顔をした後、口元に微笑みを浮かべて言った。
「……気遣ってくれてるのか。
お嬢ちゃん、意外と優しいんだな」
「な!?何よ『意外と』って!!」
「だが、そういうワケでもなくてな。
俺はどっちかって言うと、むしろ話しておきたいと思ってるんだ。
……お嬢ちゃんだからこそ、な」
「…………え?」
でも、アイツはその答えを私にくれるでも無く。
その代わりに、語り出した。
「……まず最初に言っておくが。
俺が過去に法を犯し、法の下に裁かれたって言うのは紛れもない事実だ。そこはどうせ調べれば分かるだろうから取り繕うつもりは無い。
それで、こっからなんだが……ん?
今ので結論は出たんだから、もう話は終わりじゃないのかって?
まあ、俺の過ちについてはそうだな。
だが、むしろここからの方がお嬢ちゃんには知っておいてもらいたいんだよ……だから、もう少しだけ大人しくしといてくれ。
……ここから話すのは。
『俺がどうしてそんな事をしたのか』についてだ」
「でもその前に、俺の事を話しておくとするか。
いきなり本題からでも良いんだが、それだとワケが分からなくてお嬢ちゃんが話に集中出来ないかもしれないからな。
俺の生まれは、王族でも貴族でもなければ平民でも無い……孤児だ。
しかもその上、俺のいた孤児院のある村は貧しくてな。当時は例え働けるようになったとしても仕事が無いもんだから、それでも飢えて死んじまう奴もいるような状況だったんだ。
だから俺は、死に物狂いで剣の腕を磨いた。
いつか王都に行って、入団試験を受けて騎士になろうっていうつもりでな。
……だが、それよりも早く俺は将来騎士になる事が決まった。
たまたま視察に来ていた、あの人に出会えたからだ……聞けばあの人も孤児だったらしくてな。
孤児院の中でただ一人狂ったように、我流で下手クソな修行を続けている俺に過去の自分を重ね合わせたんだそうだ……その人の名前はな。
女騎士…………ユア。
俺の師匠であり、恩人だ」
コイツの師匠であり恩人。
その人の名前は、女騎士ユア。
「……!!」
その名を聞いた私は反射的に立ち上がり、思わずアイツの両肩を掴んでしまっていた。
だって、それは……
その名前は……
「ねえアンタ。
今、なんて言った……?」
「……女騎士ユア。
そう、お嬢ちゃんの母親だよ」
「……!?
ど、どうしてアンタがそれを……!?」
私は驚きのあまり身動きがとれなくなってしまった。
王族でも何でもないはずのこの男が、それを……いいえ、それだけじゃない。
お母様の過去までもを知っているとは、夢にも思わなかったのだから……
でも私とは真逆に、アイツは酷く冷静で。
そんなアイツは私の両手を引き剥がすと、元のようにベッドに座らせて静かにこう言った。
「……続けるぞ」
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