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二十九話 別離

簡単なあらすじ『ログマ、ジアロムに圧勝』




ジアロムとの戦闘に勝利したばかりか、無慈悲にもその心を完全に打ち砕いたログマは。


その後、先程の出来事を丸切り失念でもしてしまったかのような……もう少し言えば、散歩でもしているかのような……とにかく、そのような歩調で。


その場を立ち去り。校外に出。

そしてまた、何処かへと向けてふらふらと歩き出した。


「んじゃ、そろそろテキトーな飯屋にでも入るか。

嘘を本当にしなくちゃならないからな……」


……失礼。


どうやら最低でも、目的地の種類くらいは決まっているらしい。


……だがしかし、本当にこの男は。


いつものように悪事を行った訳ではないが。

だが、それでも……何と言うか、その……


彼は『自責の念……のようなもの』を、持ち合わせてはいないのだろうか……??


ジアロムの()を手に掛けたのは、自分自身であるというのに……よくもまあ、すぐにけろりとしていられるものだ。


確かにこれで救われる生徒もいるだろうが、それでもだ。


……と、その時だった。


不意にログマが、自身の背中に小さな衝撃を感じたのは。


「……ん?」


それに気が付いた性悪が振り返ると、そこには。


「珍しい、アンタが説教する立場になるだなんてね」


建物の隅で呆れたような表情をしているキジカと。


「ログマさん……本当にありがとうございました!!『借りを返す』って言うのはこの事だったんですね!!」


背中側から強くログマに抱き付いたままそう言う、カイリの姿があった。


……そこから推察するに。


恐らくだが彼女達は、一度は性悪を見失いこそしたものの、その後何とか追い付き一部始終を見物……


ではなく。

その目でしっかりと見つめていたのだろう。


「な……!?

お、お前達ここで何やってんだ!?」


だが、当然ながらそれはログマの知る所では無く。


彼はここにいるはずもない二人の存在に目を見開いて驚き、また困惑もしていた。


「跡をつけさせてもらったのよ。

アンタが私に謝るだなんて、何かおかしいと思ってね」


「何……?そう言われると確かに言ったような、言ってないような……?


まあでもお前等がここにいるって事は、そうなんだろうな……クソ、俺とした事が……」


そこで漸く事の次第を理解したログマは。


二人に尾行されていたという事実と、尚且つそれに今の今まで全く気付く事の無かった自身に腹を立てたのか、随分と不機嫌そうな顔を見せる。


だが、そんなログマが側にいるというのに。


反対に珍しく微笑みを浮かべているキジカは、顔をしかめた性悪へとこう言った。


「それより……お夕飯、まだなんでしょう?

さ、一緒に食べに行きましょう」


「…………じゃ、そうするか」


「でしたら、私が案内しましょうか?

お二人はまだこの町の事をあまり知らないでしょうし」


そうしてまた、ログマは歩き出した。


ただし今からは足並みを揃え、三人で共に。



日の落ちた町中というものは、実に素直である。


光を辿れば自然と足は盛り場へと至り。匂いを、人を辿れば容易に望んだものの場所へと行き着くのだから。


そして、そんな町中を行く三人もまた。

当ても無く彷徨う風でいながらも、町にある有相無相にまるで誘われるかのようにして。


着々と、求めるもののある場所へと近付きつつあった。


……ちなみに、仰々しく言いはしたが。

勿論、飲食の可能な店に向かっているだけである。


「……ログマさん、キジカさん」


するとその時、カイリが突然にも立ち止まって二人の名を呼んだ。


しかし、二人にはそれが分かっていたのか。

ログマとキジカはすぐさま振り返り、目の前にいる少女を見つめる。


「ええ、分かっているわカイリ……

ありがとう、ここまで来たらもう私達だけで大丈夫よ」


「カイリ、お陰で助かったぜ。

俺達だけだったら、またこのお嬢ちゃんに住宅街巡りをさせられただろうからな」


「……だから!!そんな事言ったって仕方ないじゃないの!!というか、そんなに言うんだったら自分で」


「……じゃあな、カイリ。今度こそさよならだ。

さっさと家に帰ってやりな、弟が待ってるんだろう?」


「無視!?」


「……そう、ですね。分かりました。

ではログマさん、キジカさん。お元気で……」


「ああ、お前もな」


「…………また何処かで会いましょう!カイリ!

弟君、良くなると良いわね!!」


「はい!!お二人とも、本当にありがとうございました!!それでは…………」


キジカは一瞬、不満そうにしていたが……とにかく。


そうして今度こそ、二人の背中をカイリが見送り。


キジカとログマは、少女とは別々の道を歩いて行く……かと思えば、またすぐに。


先程まで胸に手を当て、少し寂しげな顔をしていたカイリが。


何か決意したように表情をきりと引き締めると、大きなその声である者を呼び止めた。



「ログマさん!!」



「ん?どうしたカイリ、まだ何かあるのか?」


「私、私!!もっと強くなります!!

ログマさんみたいになりたいから!!


……ただし、〝性格以外〟ですけど!!」


「え…………」


「フ……フフ……アハハハハハ!!

ええカイリ!!そうするのが賢明よ!!貴女ならきっと出来るわ!!」


それを聞き絶句するログマと、真逆にもけたけたと笑い出したキジカは。


一人が何とも言えぬ顔で再び背を向け。

もう一人は最後に思い切り少女へと手を振り。


そして遂に、夜の町中へと消えて行ったのだ。


そんな二人の背中を最後まで見届けた。

何処か、満足そうな表情と変わった少女を残して。



最後に、これは余談ではあるが。


「……ねえ」


「ん?」


「確かにあれは、決して善行とは言えないかもしれないけれど。でも、アンタにしては良くやった方だと思うわ。


だから今日は、私が奢ってあげる!

好きなものを食べて頂戴!……フフフ」


片割れの男に向け、『自分が奢る』等と言いながら微笑んだ美しい娘と。


「そうか…………いや、待て。

お嬢ちゃん確か、前に『金は共有財産だ』とか何とか言ってたよな?


だったら奢るも何も、無いと思うんだが?」


そんな娘を前にしていると言うにも関わらず。

何かしら不満を述べ、その顔に指差す性格の悪そうな男が。


「…………んー、もう!!

本当にアンタは、余計な事だけはしっかり覚えてるのね!!」


「余計も何も、お嬢ちゃんが言い始めたんじゃ」


「うるさいうるさいうるさい!!

もう今日という今日は許さないんだから!!」


「おいお嬢ちゃん、ちょっと落ち着……

分かった分かった!!俺が悪かったから!!だから落ち着けって!!」


娘の方が突然にも暴れ出した事で。

昨夜、ハベラの町でちょっとした騒ぎを起こしたらしいが……


カイリがそれを知るのは、もっともっと後の話である。




二章 完

『三章 〝アイツ〟のElegy』に続く

「……ま、待って!!

待ってお願い!!殺さないで!!


しくじった事は認めますわ……でも!!

でも、私はまだ戦える!!戦えますの!!


だから……」


「……す…訳…ゃない……さ……

……が……検体に……や……い……のさ……」


「……わ、私を殺して、ベスカ様やお父様が黙っているとでも!?


私は四剣なのよ!?四剣の、豪槍の……」


「……夫……前は……として永遠に……」


「や、やめて……お願い、やめて……

やめてぇええええええ!!!」

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