二十八話 指導
簡単なあらすじ『ログマとジアロム、戦闘開始』
そうして始まったログマとジアロムとの戦いは。
体格差が大きく、性悪が勝てる見込みは薄いと言えるだろう……と、ばかり思われたが。
一体どうした事だろう。
ログマは攻撃を全て防ぎ、躱し、受け流して見せ。
本来優勢であるはずのジアロムが。
止まり、当たらず、転がされ……つまりは圧倒されているのだった。
「くっ……!!」
当然、今も尚劣勢を覆す事は出来ず。
ログマの一撃を何とか防ぎ止めるも、その反動でジアロムはまた地面を転がった。
だが、性悪の勢いは止められず。
上体を起こしたばかりの大男を再び木刀が襲う。
「……なあ先生。普段もこんな調子でガキ共相手に指導してるのかい?」
すると、鍔迫り合いの最中。
ログマが不意にそう問い掛けた。
「クソッ!一般人の男が私をここまで」
「さっさと答えろ!」
「……そうだ!
生徒の指導は常に全力で行う!」
「……なるほどな。
ガキ共がダメになる理由が分かったぜ」
そこまで言うと、ログマは天を突くようにして木刀を振り上げ。
無理矢理にジアロムを立ち上がらせると。
そこからは畳み掛けるような打撃の連打を大男へと浴びせ掛けた。
「やはり……技術も、威力も、並外れている!!
お前!!それを一体何処で……」
途端に防戦一方となったジアロムだったが。
窮地にも優る程の興味をこの男に強く感じたのか、何とかそれだけの言葉を口から絞り出してそう言う……が。
性悪はまたも素早く反応し。
すぐさま大男のその言葉も。
それを吐く余裕さえも、一瞬にして掻き消してしまうのだった。
「五月蝿ぇ!!黙って戦え!
そうすればアンタもすぐ俺に追い付けるんだろう!?」
「う……!!」
「……これで少しはガキ共の気持ちが分かったか?
アンタやり過ぎなんだよ、クソ真面目にも程があるってもんだ。
こんな事をいきなり始めたって、それで強くなれる奴なんざいてもほんの一握りだろうさ。
分かるか?物事には段階ってものがあるんだよ。
アンタは高度な技術を。キツい訓練を。より早い段階から教えれば教える程そいつの成長も早くなるって勘違いしてるのかも知れねえがな。
相手はガキなんだぞ?技術どころか身体だってまだ未熟だ……そんな奴等にいきなりこんな授業をしたらどうなる?
壊れちまうのはむしろ当然だろう?
なあ先生、アンタもそう思わないか?」
その間も、ログマは降り注ぐ雨のような攻撃を続け……そして遂に。
「…………わ。
私が。私が、間違っていたと言うのか……!?」
ジアロムが自身の行いを省みようとする頃には。
「ああ、その通りだ。今までのアンタはな。
だがこの期に及んでも、まだそれが分からねえってのなら……アンタは教師失格だ!!」
性悪によって大男の木刀は弾き飛ばされ。
その首にはログマの持つ得物が突き付けられ。
まさにその時、二名の者達が白と黒に染められたのであった。
……そう。
「どうだ?
失格ついでに解雇も飛ばしておくか?」
この勝負、ログマの勝利である。
戦いが終わり、途端に訪れた静寂を嫌うかのように。
ログマは今までジアロムへと向けていた木刀をすぐに放り捨て、歩き出した。
「……これに懲りたら、ガキ共に寄り添った指導方法ってヤツを覚える事だな。
アンタなら出来るだろう?
良くも悪くもアンタはクソ真面目なんだからよ。
それじゃあな、先生。
アンタの脳味噌までもが筋肉で出来ていない事を祈るぜ…………」
最後にそのような捨て台詞を残して。
一方でジアロムは、やはりどうしても〝ある事〟が気になるのか、そんなログマを引き止めこう言った。
「ま、待ってくれ!!
最後に君の名前を聞かせてくれ!!
これ程の腕前だ……きっと名のある剣士なんだろう!?」
「いいや、俺は何処の馬の骨とも知れないただの暴漢さ。アンタが、逆立ちしても勝てないってだけのな……」
だが、それでも性悪の足が止まる事は無く。
反対にその言葉を聞いたジアロムは姿勢はそのままに、静かに俯きまるで石像のようにして動かなくなった。
……そうして訪れた再びの静寂。
ただしその中には、小さくではあるが確かに。
ジアロムが両の拳を握り締める、ぎりぎりという音だけが静寂に抗うかの如く鳴り続けていた。
それは、例えるならば。
石像となった彼が……
いや、もっと言えばその誇りが。
みるみるうちに罅割れ、崩れ落ちてゆく……まさにその音のようであった。
そして、そんなジアロムにはもう。
「……先生。
今の言葉は俺からアンタへ送る、最後の罰だ。
アンタはそれを頂戴う権利がある。
何故ならばアンタは、故意では無いとはいえやり過ぎちまったんだからな。
だったら、その罰はしっかりと受けてもらわなくちゃならないだろう?
ガキどもの身体を壊したんだから、アンタは心でな」
ログマが本当の、最後の最後に吐いた台詞など。
耳にも届いてすらいない事だろう。
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