二十七話 ログマを追え 2
簡単なあらすじ『尾行中のログマ、カイリの通う学校へと到着する』
自身を尾行するキジカとカイリ。
そんな彼女等に、意図せずとは言え。
ロク・ログマは普段とは全く異なる様相を見せた。
暫くの間、学校の周辺をうろうろとしていた彼は突如、何事かを思い付いたようにして不意に建物へと近付いて行くと。
次の瞬間には、まるで背中に羽があるかのような軽い身のこなしで、ひょいと壁を蹴り、縁を掴み。
そして、二人が驚きのあまり声を上げるその頃には。
建物の天辺へと躍り上がり、そこに靴音を響かせていたのだ。
「!?……キ、キジカさん、これは……」
「……ごめんなさい、分からないとしか言えないわ。
私も、アイツのあんな姿は初めて見たんだもの……」
それを見、口をぽかんと開けたままでいる二人。
そんな彼女等を置き去りに、その遥か頭上にてログマは再び周囲をキョロキョロと見回す。
「おや、あれは…………」
すると、すぐに何かしら目当てのものを見つけ出したらしく、性悪は。
次は落下するかのような勢いで天辺を降って行き、今度こそ二人の前から姿を消した。
そんな三人……いや。
今は一人と二人、と言った方が正しいだろうか。
とにかく、皆のいる学校の裏手には。
風を切り音を鳴らす、もう一つの人影があった。
また、そこはどうやら校内に作られた訓練場のような施設であるらしく、木や藁で作られた人型の人形や、木製の武具が数多く並べ揃えられている……
その中央に人影はいた。
まるで岩のように大きな体格をした大男が今、闘技訓練を行う場なのであろう柵で囲まれた広場にて、淡々と木刀を振り続けているのだ。
表情は岩のように険しく、厳しく。
だが同時に、短く刈り込まれた黒髪と剃り残しの無い口元からは実直さが垣間見えた。
推察するに、居残って鍛錬を続けている教師……でなくとも、学校の関係者である事は確実だろう。
彼が不審者だとは到底、思えないのだから。
……と、その時。
「よう。
職権の濫用中に悪いが、少しものを尋ねても良いかい?」
突然にも背後より、彼に声が掛かった。
「誰だ!?ここで何をしている!!」
それを聞き、驚きと共に大男が振り返ると。
そこには……
「それはこっちの台詞だ。
情報収集くらいの軽い気持ちで出向いてみたんだが……まさかそこに、ターゲットがいるとは夢にも思わなかったぜ」
体格の勝る相手の前にも関わらず飄々とし。
それどころか奇妙な言動で、いきなりにもその大男の身に不快感を拭い付けようとしている。
命知らずな、今し方現れたのだろう人物……
もとい、ロク・ログマの姿があった。
自分以外あるはずのない人影と、相対する事となった大男はすぐに木刀を構えた。
一方でログマは、まるでそれに気付いていないかのように、表情一つ変えずに整理された武具を眺めている。
「それにしても、こんな時間まで鍛錬とはご苦労なこったな……アンタ、ジアロムだろ?」
すると、視線をそのままにしてログマがまた口を開いた。
その言葉を聞いた、ジアロムと呼ばれた大男は。
例え正解なのだとしても、目の前の不審者にそれを知る権利は無いと考えたのだろう。
「……誰だと聞いている!質問に答えろ!」
数瞬の後、叫ぶようにそう言った。
彼もまた、木刀を構えたまま……
いや、それを降ろそうとする素振りすら見せずに。
しかし、それでもログマは何一つ動じる事無く。
「あ?めんどくせーな……まあ良いや、教えてやるよ。
つっても、そうだなぁ……
じゃあ、保護者とでも言っておくか。
アンタのせいで潰されたガキのな」
やはりと言うか飄々と。
ただし、存分に棘を含んだ言葉を投げ。
対する大男も険しい表情を崩さず。
しかし一度だけ眉をぴくりと動かした後、静かにこう答え出した。
「……保護者が本当かどうかは知らんが、一応伝えておこう。
そうなってしまった生徒は確かに幾人かはいるが、それは故意では無い。
私は彼等がより強く、立派な冒険者となれるようただ全力で指導してきただけだ。それに耐えられなかったというのは私自身も残念に思っている」
「心配すんな、故意かどうかは疑ってねえよ。
アンタがクソ真面目で、その言葉に嘘が無いって事は、今の姿を一目見りゃあ誰にだって分かるからな。
……なあジアロム先生、話は変わるが。
俺にもその指導ってもんをやってみてくれよ。
勿論、実戦の方で頼むぜ」
そこで初めて、ログマはジアロムを見つめ返し。
二人の間に漂う空気はとうとう剣呑なものと化した。
「部外者に指導などするつもりはない。
何の理由も無しに一般人を攻撃するつもりもな。
分かったら今すぐこの場から立ち去れ。でないと憲兵を呼ぶぞ」
「そうか……だったら、こういうのはどうだい?
実の所、俺は保護者でも何でもない、不審者だ。
いや、暴漢の方が良いか?
まあ何でもいい。とにかく俺はそういう奴なんだ。
そんな俺は、今アンタを襲おうとしている……そうだ、丁度良い。コレ借りるぜ」
するとログマはおもむろに、側にあった木刀を一つ手に取り……
「ほれ、これならやるしかないだろ?」
その先端をジアロムへと向け、口元だけを笑みの形に歪めると。
「……最後の忠告だ。
今すぐ、木刀を置いて立ち去るのならば見逃してやる」
「いいや、悪いが遠慮しておく。
俺がアンタを見逃すつもりが無いからな!!」
それが戦いの合図となった。
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