二十六話 ログマを追え
簡単なあらすじ『キジカ、ログマを尾行しようとする』
だが、それでも。
恩人であるキジカの願いならばと、そう思ったのか。
カイヤはキジカからの頼みを承諾し。
その要望通り、ログマの尾行を開始したのだった。
そして今少女は、当ても無さげにふらりふらりと何処かへと向かってゆく性悪の背中を。
時には建物の隅に隠れ。
時には人混みに紛れ、こっそりと追い続ける。
一方でそのターゲットであるログマは。
何か気になるのか、時折きょろきょろと辺りを見回したり、何故だか背後を振り返ったり等の行動を繰り返していて……
まあ詰まる所、星としてはとても優秀で。
だがしかし追跡者にとっては非常にやり辛い相手なのであった。
とは言え、いくらあの性悪とは言えど地の利ではカイリに敵わず。
だからこそ少女は、時々ひやりとさせられながらも無事に追跡を続けられていた……
と、その時だった。
荷物を全て宿に置き終えたのであろう、キジカが小走りでこちらへとやって来たのは。
「あ、キジカさん!
良かった……ちゃんと〝目印〟に気付けたんですね!」
「ええ、曲がり角が来る度に小石を置いてくれてたアレでしょう?目に付く位置にばかりあったからすぐに分かったわ、ありがとう」
そうして合流した二人は、そんなやり取りを交わす。
どうやらキジカが迷わずに少女の元へと辿り着けたのには、そのようなからくりがあったようだ。
「それじゃあ、ここからは私一人で行くわ。
ここまで付き合わせちゃってごめんなさい、もうお家に帰っても大丈夫よ」
続けてキジカはそう言い、カイリの頭をぽんぽんと撫でた。流石にこれ以上、少女の時間を無駄には出来ぬと考えたからだろう。
「……あの、その事なんですが。
私もついて行って良いでしょうか?」
「……え?」
しかし、カイリがその場を動く事は無かった。
そんな少女は今、いそいそともしていなければ笑いもせずに、無表情でただただじっとキジカを見つめ返している。
……そこから推察するに。
どうやらこの子は、遊戯の延長のような気分や、ただの好奇心等の理由でそう言っている訳では無さそうだ。
それでは何か、思う所でもあるというのだろうか。
そう疑問を抱いたキジカは、自身の提案を拒んだ少女へと再び話し掛ける。
「……ま、まあ、私は良いけど。
でも、本当に来るの?
さっきああは言ったけど、無駄足になる可能性だって充分にあるはずよ?」
「いいえ。多分ですけど、キジカさんの読みは当たってますよ。だから無駄足にはならないと私は思います」
すると、カイリからはすぐにそのような返答が寄越された。
だが、少女がそこまではっきりとそう主張出来る理由がどうにも分からず。今度は頭上にも疑問符を浮かべ始めるキジカ。
しかし、カイリはまたすぐに。
そんな彼女へと続けてこう言うのだった。
「キジカさんが来るまで、あの人の背中を見ながらずっと考えていたんですが……漸く私にも分かったんです。
あの人、確かにちょっと様子がおかしいですね。
何だかよく後ろを振り返ったり、あとしょっちゅうキョロキョロしたりもしてますし……それに。
少し前に、私だけに聞こえるくらいの声で『この借りは必ず返してやる』とも言っていましたし。
だからどうしても、気になってしまって……」
そして、それを聞いたキジカは。
「あら、そうだったのね……
なるほど……なら、やっぱり何かありそうね!!
これは面白くなってきたわ……!!
カイリ!!それじゃあ今からは二人でアイツの跡を追うわよ!!」
「あれ?キジカさん……?
何だかちょっと楽しそうですね……??」
「……まあ、ほら。
こういうのって、何だか無性にわくわくするものじゃない?」
「そ、そうですか……」
疑問を全て放り捨て、興奮だけに身を任せ。
そのままの状態でカイリと共に、ログマの追跡を再開するのだった。
……そう。だからつまり。
尾行に対し、遊戯に近いような感覚で挑んでいたのは。
実際の所は少女ではなく。
淑女であるはずの、キジカ王女自身であったのだ……
まあ、だからどうしたという事は無いのだが。
場面は変わり、ここは夜の学校。
カイリとその弟も通っていた、件のあの学校だ。
キジカとカイリはそこにいた。
特段、用事がある訳でも無く。
しかもそれが、日の落ちた後というのならば殊更にそうであるにも関わらずだ。
とは言え、所用は無いが理由はあった。
そして、それは……
二人が尾けていたあの性悪こと、ロク・ログマが彼女達をここへと導いたからなのである。
しかし、あの男はわざわざこんな場所まで来て一体、何をするつもりなのだろうか?
生徒どころか人影も無いような、この場所で、一体…………まさか。
もしかすると、ログマは……
いやいや、まさかあの男に限ってそんな事をするはずが無いだろう?
だが、そうとなればますます、ログマがここに来た訳が分からなくなってしまう……
などと、二人は一頻り考えるもそれは倦ねるばかりに終わり。
そこで、仕方なく尾行を続け。
つまりは、あの男の背中に正解を探そうと共に決めたのであった。
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