二十五話 追跡
簡単なあらすじ『ログマ、キジカ、カイリの三人、何とかイフリャに勝利』
三人がハベラの町に戻る頃にはすっかりと日が傾いており、それは青かったはずの空を、町を。今度は赤く、そして何処か懐かしく染めているのだった。
まるで麦畑のような、黄金色に焼けた町の中を子供達が駆けて行くのが見える。
「……元気ね」
あの子達はきっと、夕陽が夕陽と呼ばれるよりも前からずっとそうしていただろうに。
子供の体力は底知らず、という事だろうか……私とは違って。
「……はぁ」
そう思っている事からも、そしてそのため息からも分かるように、小さな冒険を終えたキジカは酷く疲弊していた。
まあ無理もない話だ。
彼女は今日、ミヌェラ廃鉱山の中を縦横無尽に駆け巡り、その次はイフリャに襲われ。
最後にはずっしりと重いドラゴンの亡骸から回収した物品を手に、今の今までひたすらに歩き続けたのだから。
そんなキジカは、不意に背後へと視線を移してそこにいる二人を見遣る。
そのうちの一人である性悪な男の方はというと。こちらはキジカと比べて、まだ体力に余裕はあるようであった。
まあ、彼の持つ品はキジカのものよりも小さく軽い物ばかりなので、それはむしろ当然ではあるのだが。
一方、カイヤは……手当てを終えたとは言え負傷したはずのこちらもまた、キジカよりも大分生き生きとしている。
だがそれもそのはず。
今少女の手には、ドラゴンの火炎袋がとても大事そうに抱えられていて。
そして、それがあると言う事はつまり、少女の目的は達成されたも同然であるのだから。
後は弟の待つ家へと帰りさえすれば、ただそれだけで……
そう思うと自身も幸福な気分になれたキジカは、自分ばかり楽をしているログマを見た後であるというにも関わらず微笑みを浮かべる事が出来た。
そうして、暫く歩き続ける事数分。
三人はとある岐路に差し掛かった。
それはキジカのとった宿と、カイリの家とを分かつ二股道……そう。ここで三人の旅は、本当の意味で終わりを迎えるのだ。
キジカは立ち止まり、今一度振り返って背後にいる少女を見つめる。
「……キジカさん」
視線を受けた少女はぽつりと呟いた。
カイリは二人との別れを目前にし、先程とは打って変わって何とも寂しげな様子である。
とは言え、彼女等が即席の三人組を結成してからそこまで時は経ってはいないはず……ではあるが。
裏を返せば、その僅かな時間でそれ程までに絆を深めらた、という事だろうか。
勿論、そう思ったのはキジカも同じであり。
彼女はカイヤを強く抱きしめ、それを別れの挨拶の代わりとした。
「カイリ……そんな顔してちゃダメよ。
さ、私達とはここでお別れ、早く家に帰りなさい。弟君が待ってるんでしょう?」
「はい……キジカさん、ログマさん。
お二人共、本当にありがとうございました……」
次に、名前を呼ばれたログマもまた、少女へと少し寂しげな様子で別れの言葉を告げる……
「ま、お前も元気でやれよ、カイリ……さて、それじゃあ俺は腹が減ったから、そこいらで適当に飯でも食って来るわ」
かと思いきや、こんな時までいつもの調子を崩さぬログマは挨拶もそこそこに。
「お嬢ちゃん、〝悪いが〟戦利品は任せた。
換金して来るか、一旦宿に置いておくかも好きにしてくれ。
代わりに少しくらいならその金、自由に使っちまっても構わないぜ。例えば……そうだな。それでもっとまともな武具でも買って来るとかな」
「ちょ、ちょっと!?いきなり何するのよ!!
重い重い!!止めて!!止めなさいって!!」
続けてそう言いながらキジカの懐に自身の持っていた品々を全て無理矢理に押し込むと、突然かつ無情にもそのまま歩き出して行ってしまい。
そしてその後には、何もかもを押し付けられたキジカとカイリだけが取り残されるのであった。
「ねえ、ちょっと待ちなさいよ!!
アンタそんな突然…………って。
……あーあ、本当に行っちゃったわ。
ったく、最後まで持ってくれたって良いじゃないの……」
そうして、取り残されたキジカはぶつぶつと不満を垂れ。
「ア、アハハ……何というか、最後まであの人らしいですね………………良かったら、私も手伝いましょうか?
流石にキジカさん一人でその量を運ぶのは大変でしょうし。確かに弟の事は心配ですが、一刻の猶予も無いと言う訳ではないので」
それを見たカイリはそんな彼女を不憫に思ってか、手を貸そうとする。
「あ、ありがとうカイリ……
でもそれは、いくら何でも……だけど……う〜ん…………」
しかし、少女を速やかに帰宅させたいと考えたのだろう。
提案を受けるもキジカは思い悩み、暫し口を閉ざした……が。
すぐに何かを決意したような表情となると、彼女は。
「……決めた。それならカイリ。
悪いんだけどそっちじゃなくて、別件でもう少しだけ私に付き合ってくれないかしら?
私は一旦宿に戻ってこれを全部置いて来るから。
その間、貴女はアイツを見失わないよう尾行していて欲しいのよ」
何を思ったのか突然、 そのような事を言い始めた。
「え、え……!?
キジカさん、急にどうしたんですか?
何を言い出すかと思えば、尾行して欲しいだなんて……」
「アイツの様子がおかしかったからよ!
あれは絶対、何か企んでいるわ!」
「そ、そうは見えませんでしたが……
キジカさんの勘違いじゃないですか?」
「いいえ、絶対にそうよ!
だってアイツ…………『お嬢ちゃん、〝悪いが〟』なんて言ったのよ!?
アイツが人を煽るでも無しに謝るだなんて、普通じゃないわ!!」
一応、後に彼女の口から話された理由としては以上である……のだが。
「…………そ、そうかなぁ??」
それは少女にとっては少々、いや大分。
納得するに足り得ない理由なのであった。
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