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二十一話 鈴の音は響く

簡単なあらすじ『ドラゴンは既に死んでいた』




三人の背丈を合わせたとて、尚高く巨大なそれは。


紅蓮の鱗に身を包み。

剣より鋭い角や牙を有し。


そして、その巨体を空へと持ち上げるのだろう、殊更に大きな翼を持つ強力な魔物、ドラゴン。


…………それが今、地に伏している。


心臓どころか鱗一枚ぴくりとも動く気配は無く。

これはやはり、既に死んでしまっているようだ。


「キジカさん、これは……?」


「一体どう言う事なんだ?」


「さあ……私にもさっぱりよ……」


キジカは恐る恐る近づいて行くと、屍となったそれに手を置く。


「……!?

このドラゴン、まだ暖かいわ……!!」


すると、亡骸には温もりが残されていた事を知り。


それがより深く彼女を混乱へと陥れた。



竜は確か、人間よりも遥かに長寿であったはずだ。


だが見受けた所、このドラゴンはそこまで老年の個体という訳でも無いようだし、それがこうして突然寿命を迎えるとは考え難い。


とは言え、自死などもっとあり得ないだろうし。

それなら、どうして……


そこでふと顔を上げたキジカは。

魔物の腹に大きな傷がある事に気付いた。


「あら、漸くいらっしゃったのね」


それと同時に響いた。

一つの鈴の音にも。



その音を聞き、一斉に視線を移した三人の目には。


白金プラチナの鎧に身を包み。

赤色の頭髪は過度な装飾によって虹色に輝き。


ただその中心には、何処か不釣り合いにも見える童顔を付けた、尊大に構える小柄な女がいた。


だがそれに、皆は声を掛ける事が出来なかった。


近寄る事すらもだ。そればかりかこちらにやおらゆっくりと迫る女を目にしたキジカとカイリは後退りを始める。


女のその手にある。

こちらもまた彼女とは酷く不釣り合いで、悪趣味な。


金色に輝く巨大な三叉槍さえなければ、そうする事もなかったのだろうが……



三人はその時にはもう、確信していた。


この女こそがドラゴンを倒した張本人であり。

またその見た目の中にも、凄まじい程の戦力を備えていて。


尚且つ、それが。

自分達にとって脅威になり得るとも。


しかし、そのような状況でキジカただ一人だけは。


ログマ、カイリの二人とは違い。

もう一つ、また異なる感情を胸に抱いていた。


そして、それは『どうして彼女がここにいるのか?』という、単純な疑問だ。


何故ならばキジカは、この女と……


「キジカ王女、お久し振りですわね」


「ええ、そうね……イフリャ……」


そう、面識があるのだから。


「あら、覚えていて下さって光栄ですわ。


でも他の方々もいらっしゃる事ですし、ここは一応、名乗っておきましょうか。


そう、私こそはベスカ様の側近。


またの名を『四剣』が一人、豪槍ごうそうのイフリャ!!今ここに見参致しましたわ!!


……ずうっと、待っていましたのよ?」


だが、そうでありながらも。


自己紹介の最中も。

それを終えた後でさえも。


このイフリャと呼ばれた女の殺気が消える事は無かった。



話し終え、ゆったりとした動作で三人に頭を下げるイフリャ。


そこでも一つ、ちりんと鳴った鈴の音はどうやら彼女の耳飾りから発せられているようだ。


だが、そんなイフリャとは裏腹に。


カイリとキジカの表情は未だ険しく。

また、そのせいかこの場の空気も何処かぴりぴりとしている。


「でも、お兄様の側近であるはずの貴女が何故ここに?それに、待っていたって言うのは……?」


とは言え、そうしなければ何も進まないと思い立ち。

キジカはイフリャへと疑問をぶつけた。


すると、イフリャは屍となったドラゴンを尻目にこう答える。


「言葉通りの意味ですわ。

私は先回りしてあなた方をずっとお待ちしてましたの。


ドラゴン(これ)は、まあ……

試し切りと、暇潰しを兼ねて、私が……ふふふ」


「え?私達を?」


話を聞き、再び疑問を浮かべるキジカに。

イフリャもまたそれを晴らすためと言葉を続ける。


ただし、先程とは違い彼女の視線は今。

ログマへと向けられていた。


「ええ。

だって、私は……


ベスカ様に頼まれて、そこにいる男の事を調べていたんですもの」


そう言い終えるとイフリャは口を閉じ。

今一度、ログマを舐め回すように見つめた。


だが、そうされた所でキジカの抱く疑問それが晴れる事は無く。


それどころか新しい疑問ものを抱え込んでしまうのだった。



イフリャから寄越された意外な答え。


「……あ?」


それを聞いたログマは目付きを鋭くさせ。


「ログマ、を……?」


予想外の返答それにキジカはただただ、カイヤと共にログマを見つめているばかりだった。


そして、そんなキジカ達を前に。


イフリャは……


「ええ。


ロク・ログマ。

国に仕える身であるにも関わらず、数年前に他の者と共謀してとある資料を持ち出そうとし、首を切られた大罪人……


その男の事を、ですわ」


そう、言い放った。



それを聞いた途端、ログマの目が大きく見開かれた。


「お前、何処でそれを!?」


その中には驚きと、怒りのような感情が垣間見える。


……なら、少なくとも。

この男も例の一件について知っているのだろう。


そう考えるキジカ自身もまた。

その事件には薄らとだが聞き覚えがあった。


確か、騎士を加えた二名の者達が。

国家機密の資料を持ち出そうとしている所を発見され、それで解雇されたのだとか……


本来ならば、極刑となっていても何らおかしくはないはずなのに、だ。


……という妙な点と。

それが母の亡くなった時期と殆ど同じような頃に起きた出来事だったので記憶していたのだ。


とは言えあの頃は喪失感に包まれていたため、むしろそれくらいしかキジカも覚えてはいないのだが。


(でも、その犯人がログマだなんて……まさかね?


……だけど、それなら何故コイツは。


その事について知っているの?


自称とは言え、一般市民であるはずのコイツがどうして?あれは確か、臣下から犯罪者を出す事を嫌った王族達が内密に処理したはずよね?


それに。

何故コイツは怒っているの?


もしかして、憤怒それは。

イフリャの話が真実って言う裏付けなんじゃ……?)


数瞬、様々な憶測がキジカの脳裏を飛び交う。


だが今はそんなものに惑わされている場合では無いと思い直し、彼女はすぐに頭を振って余計な考えを振り払った。


「それで、キジカ王女。

私からも一つお聞きしたいのですけど。


貴女は何故そんな男と一緒にいるのかしら?」


しかし、イフリャはキジカが落ち着くのを待ってはくれず。畳み掛けるようにして彼女の心を揺さぶる。


そしてキジカが何も言えずにいると、イフリャは。


「……いえ、やっぱり、何も仰る必要はありませんわ。


ただでさえ、〝お荷物〟の王女様がそんな男を連れてるだなんて、世間にバレたら大変ですものね。


だからさっさと殺して差し上げますわ。

せっかく自ら、こんな人目のない場所へとやって来てくれた事だし。


全員まとめて、ね」


身に纏う殺気それを現し。槍を振り上げ。


遂に、その矛先をキジカへと向けた……

『四剣』ベスカの側近の中でも、特に実力のある者達四人を人々はそう呼ぶ。またそれはただの二つ名に非ず、四剣と呼ばれし者達は伯爵にも相当する権限をも与えられているのだという。

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