二十話 絶対絶滅
簡単なあらすじ「キジカとカイリ、ドラゴン討伐に向かう」
ログマへの怒り冷めやらぬままに。
とは言え、そこまで冷静さを欠いている訳でもなく。
今出来る万全の準備を整え、共にドラゴンを討伐すべくミヌェラ廃鉱山へと足を踏み入れたキジカとカイリ。
その道中はまさに順調そのもの。
……で、あるはずも無く。
「「ぎゃあああああああ!!」」
二人はそのどちらもがうら若き乙女であると言うにも関わらず、凄まじい叫びを上げながら。
無数の隧道が寄り集まって出来たかのようなミヌェラ廃鉱山のその中を、必死の形相で駆け回っていた。
だがそれでも、魔物達はキジカとカイリを追い続ける。
しかも、一度も獲物を見失う事無く、正確に、確実に……じわじわと二人を追い詰めていくその様は、まるで狩人のそれと見紛う程だ。
だがそれにしても、一体何故そこまでの動きが魔物達に可能なのであろうか?彼奴等は人間の居場所を完璧に把握出来るとでも言うのだろうか?
……実の所、それにはきちんとした理由がある。
それは…………
彼女達が激しく動けば動く程、その身に付けた武具はかちゃかちゃと音を立ててしまい。
彼女達が叫べば叫ぶ程、反響するそれは二人の位置を魔の者へとすみやかに伝え。
つまりはそのどちらもが、魔物達の良き道標となっているからなのであった……
そうして、命綱であるはずの武具達に裏切られ。
そればかりか自身の声ですらも魔物を呼び寄せ、緩やかに自滅を続ける二人であったが。
いつまでもそうしていられる程、魔物達の追跡は甘くは無かったようで。
とうとう行き止まりに追い詰められてしまい。
今、共に最期を迎えようかとしていた。
「ひえぇぇ……」
キジカは自身最後となるであろう言の葉を。
随分と情け無い声を使い、締め括った。
だが、そのような状況下においても、カイリに覆い被さり必死に彼女を守ろうとしているのは、流石人の上に立つ者と言った所だろうか。
一方でカイリはと言うと。
最早言葉を紡ぐどころか、発する事すらも出来ない程に恐怖しているらしく。
少女はただキジカの胸の中で、ひたすらにぶるぶると震えているばかりだった。
しかし、そうした所で魔物は二人を見逃してはくれず。むしろ挙って彼女達を喰らおうと、押し合いへし合い。
まるで地獄より這い出す亡者のような様を……いや、それ自体が地獄であるかのような様を。二人の眼前に作り出して見せるのであった。
そして、その牙が。腕が。顔が目が荒い息をした口が。
押し並べて醜悪なそれらが遂に、身に触れるかと言う所でキジカは堪らず目を閉じた。
暗闇の中、彼女は思い出した。
(そう言えば、前にも似たような事があったような。
あの時は確か、セルバ大森林でトロールに……いえ。
アイツのせいだったわね。
でも、今回はそうじゃない。
だから、アイツも助けに来てはくれない……)
思い出とも呼べぬような。
古くもなければ新しくもない。
ただ少しばかり、埃を被っていたと言うだけの記憶。
……自身でも、最後にそれが浮かぶ意味は分からなかったが。
だがそれでも、走馬灯の代わりとして。
キジカはそのような記憶に没入していた。
その時だった。
奈落の門が閉じられたのは。
魔物達が途端に狩りを諦めたと思えば。
すぐさま顔を引っ込め、一斉に逃げ出して行ってしまったのだ。
「え……?」
それを見て混乱するキジカの前に残っていたのは。
薄汚れた溜まり水、いや。
強烈な臭気を放つこれは。
……毒だ!毒に違い無い!
恐らく魔物達はこれに生命の危機を感じ、蜘蛛の子を散らすようにして遁走を始めたのだろう。
だがしかし。
魔物達は今の今までキジカ達を喰らおうとしていたのだ。だとすればそれは、つい先程になってから生成された事となる、はず……と、言うか。
生成が可能なのは。
ただ一人だけであろう。
少なくとも、キジカの知る者の中では。
「おい!!……おい!!
おい!!大丈夫か!?」
そう、ロク・ログマだ。
あの性悪が二人を助けにやって来たのだ。
「ア、アンタ……
来てくれたのね……」
ログマのその声が耳に入るとすぐに。
キジカの目は自然と潤み始め、じきにそれは雫となって彼女の頬を伝った。
そんな彼女は、いきなり立ち上がると。
「はぁ、はぁ、良かった……じゃなくて!
はぁ、はぁ、全く……手間かけさせやがって。
あちこち駆け回りやがってよ、探すの大変だったんだぞ……もう少し遅かったらどうなってた事か……」
膝に手を置き、息を切らしてそう言うログマへと駆け出して行き。
「まあ良い、無事ならさっさとここを…………痛っ!!」
そして、その勢いを一切殺す事無く性悪の胸に飛び込むのだった。
「怖かった!!
怖かったんだから!!うわ〜ん!!」
「ちょ、おいやめ……
分かった分かった!!
分かったから早くここを離れるぞ!!
毒は俺達にも有害なんだよ!!」
先の事もあってかカイリはすっかりと性悪を信頼したらしく。
あれからずっと口元だけを僅かに緩めたまま、ログマの服の端を掴んで離そうとしない。
とは言え、キジカも似たようなもので。
この男に覚えたはずの怒の感情は何処へやら、今の彼女はログマの横でただただ生を喜び、実感し、微笑んでいるばかりだった。
……そんな彼女達に纏わりつかれたログマは、最初のうちこそ文句ばかり口にしていたのだが。
最早何も言わず、やや疲れたような顔で機械的に歩を進めていた。
『せっかくここまで来たのだから』
『元々、そう言う話だったのだから』
そう二人にせがまれ。
ドラゴンの棲まう最奥部へと向けてだ。
ちなみに言っておくと。
それも、キジカ達が何処か嬉しげにしている理由の一つである。
だが、最奥部はもう……
「……ドラゴン。
一体どれ程のものかと楽しみにしていたのだけれど……案外、大した事無かったわね」
鈴の音一つさえもが響く程の、虚しい空間と成り果てている事を。
三人はまだ、知らない。
「さあ!あと少しで最奥部よ!
二人共!気を引き締めていきましょう!!
絶対にドラゴンを討伐してみせるのよ!!」
「はい!必ず成功させましょう!
やっとの思いでここまで来たんですから!」
「お前等何もやってないだろ……」
ログマが二人を救出する為にも使用した、強力な毒をこまめに撒き続けた事により道中は魔物の影も形も無く、安全そのものであった。
そうして難無く最奥部へと辿り着いた三人は。
今、ドラゴンと対峙する……
「着いたわね。
それじゃあ…………って、あら?」
ただし、対峙する事となったのは。
その亡骸と、なのだが。
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