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十九話 彼女達の蛮勇

簡単なあらすじ『少女カイヤは二人に全てを話した』




二人の金を狙った理由。

ドラゴンと戦おうとしている訳。


全てを打ち明けた少女は再びぽろぽろと涙を溢した。


水滴それによって湿りを帯びるかのように、重苦しい沈黙が宿の一室をじめじめと陰気に覆い尽くしてゆく。


「それで弟を治してやったら、次は二人でもっともっと強くなって……あいつに、あいつに復讐してやるんだ……」


数秒後、浸潤する部屋の中で、カイリがぽつぽつとそう呟いた。


声色それはか細く、実に弱々しいものをしていたが、同時に燃えたぎるような覚悟も垣間見える。


(復讐……)


つい最近、自身もそれを成し遂げたキジカは。

自分と彼女とが重なり、そして。


「泣かないでカイリ!私が付いてるわ!」


「……え?」


「私も一緒にドラゴンの討伐に行くって事よ!」


すぐさま、カイリに手を貸す事を決めた。


そんなキジカは顔の前で両拳を握りながら、ログマにも協力を促す。


「アンタも手伝ってくれるわよね?

まあどの道、私達もドラゴンとは戦わなきゃならないんだし、流石に断ったりはしないと思」


「嫌だね」


だが、ログマは彼女の言葉を遮り。

そして拒絶した。



視線の端ではカイリが短剣を奪われた(あの)時よりも更に目を丸くし、まさしく驚愕と言った表情で寝台の中心を見つめている。


まあ、だとしても無理はない。


何かの縁で巡り合った少女が涙を流している。

にも関わらず、それを拭いはしないと言い切った者がそこにはいるのだから。


……正直、疑問でしかない。


何故こんな時にまで、コイツは性悪(コイツ)であろうとするのか。


止めたとて死ぬ事も無いだろうに。

掛け替えの無いものでもないだろうに。


そう思うとキジカは激怒せずにはいられなくなり。

先程まで顔の前にあった両拳を振り下ろし、声を上げた。


「はぁ!?なんでよ!?

理由を言ってみなさいよ理由を!!


断るからにはちゃんとした理由があるんでしょ!?」


すると、ログマはキジカの怒りなど意に介する様子も無く。


「そもそも、老若男女全ての人間が『ガキの御涙頂戴話』とかいう最悪の合体技コンボに弱いと思ってんだったら大間違いだ。


黙って聞いてりゃドラゴンはともかく、復讐が何だのと……そんなもんはコイツのエゴじゃねえか。お嬢ちゃんも簡単に惑わされてるんじゃねえよ。


それに、弟と二人で復讐だの、その資金として俺達の金を狙ったってのも気に入らねえな。本気でやるつもりなら少しは他人に頼らず努力しろっての。


だからもう一度言うが、俺は嫌だね。

百歩譲ってドラゴンは討伐するとしても、ソイツは連れて行かねぇ」


そのような講釈を垂れて見せるのだった。



せめて、もう少しまともな理由でもあればまた違った反応が出来たのだが。


やはり根底にあるのは性悪それか。

いや、それだけなのか。


と、キジカはこの男の性格が酷く悪いものであるという事を再確認すると共に。


「違う……私は……そんな……つもりじゃ…………」


本日三度目となるカイリの泣き顔を見た、まさにその時。


少女の涙に呼応するかのようにして、彼女の中にあった怒りは怒髪天を衝く程に昂まり。


数秒後、感情それはすぐに大爆発を起こした。


「…………バカ!!!!


アンタって奴は本当に……!!

人の心ってものはないの!?」


雷光の如く室内を駆け抜けた怒声それは。

宿全体を震わせ、周囲にいた人々の目をも見張らせる。


そして、それはあのログマでさえも例外では無かった。


ただしその側にいたカイリも、だが。


「……もういい!!


カイリ行きましょう!

私達だけでドラゴンを倒すのよ!」


「……え?


ええと、あの。

協力してもらえるのは嬉しいけど。


今から、ですか……?」


「ええ、今からよ!!


むしろそうしないと、腹が立って腹が立って……

どうにかなりそうだわ!!」


……そうして、先程落ちた雷の衝撃も。

興奮も冷めやらぬうちに、雷神キジカはカイリを連れて部屋を出て行ってしまい。


そこにはただ一人。

ログマだけが取り残されたのだった。



「おいおい。


本当に行っちまったよ。

資金問題は解決したってのに…………ったく。


世話が焼けるぜ……」



ログマの呟き。

それから少しした後に。


誰一人としていなくなった宿屋の一室。

その裏手にあった細道にて、聞き耳を立てていたある者が独りごちる。


「ふーん、ドラゴンねぇ……」


その人物が動き出すと。

首元からはちりんと鈴の音が響いた。



ミヌェラ廃鉱山。

随分と前に打ち捨てられたその場所は、やはりと言うべきか侘しさこそ醸してはいるものの。


新たなる魔物じゅうにんを迎え入れた結果。

その中にも、また以前とは異なる……


活気と言うか、何と言うか……


とにかく、そんなようなものに溢れ。

過去には人の手にあったとは決して思えない程の空間と成り果てていたのだった。


それは例えるならば……そう。


そこに余所者(キジカとカイリ)が一歩でも足を踏み入れれば最後。


活気それは瞬く間に。

殺気となり変わる事などは、容易に想像が出来る。


と、言うような……



だが、それでも二人は廃鉱山へと突撃した。


奥より響く魔物の雄叫び。

奥より感じる魔物の蠢き。


それらを身に受け。

またそれらは必ず身に迫ると分かっていても、それでもだ。


キジカは少女と装備のために。

カイリは弟を救うために。


「さあカイリ!頑張りましょう!

二人でドラゴンを討伐するのよ!!」


「……そ、そうですね」


しかし。


「で、でもキジカさん。


ほ、ほ、本当に私達だけで、大丈夫なんでしょうか……?」


二人の足は生まれたての子鹿さながらに震えていた。



とは言え、この子鹿達は無策でこそあったかもしれないが、無鉄砲では無かった。


「そんなに心配しなくても良いのよ、カイリ。

ほら、準備はしっかりとしてきたんだから!」


「ま、まあそうですけど……あ。


そう言えば伝え忘れてましたね。

コレ、私の分まで買って頂いてありがとうございます」


その証拠にキジカは今。


街で購入した『やや錆びた片手用の短剣』、『小さく、まるで円盤のような盾』、『薄い鎧』等々の装備に身を包んでおり。


また、カイリも武器以外はそれと同様のものを装着していた。ちなみに言うと、そちらもキジカが購入した品である。


だからそう。


先程からずっと身体を震わせているせいで。

かちゃかちゃかちゃかちゃと喧しい、二人のこの装備は。


そう言った楽器などでは無く。

そうして楽しむ舞踊などでも無く。


歴とした、彼女等を守るための大切な命綱であったのだ。


……いくら心許ないとは言え。

そうであるものはそうであるのだから、仕方がないのである。


「気にしないで、これくらいはないと流石にドラゴンは倒せないでしょうからね。


それに、安物だし……


でもこれ以上のものとなると、いくらお金が増えたと言っても流石にちょっと手が出せなくてね……


ま、まあ気合いでカバーすれば良いだけよ!

さあ行きましょう!」


最も、それはキジカ自身が一番良く分かっているのだが。

いいね、感想等受け付けておりますので頂けたらとても嬉しいです、もし気に入ったら…で全然構いませんので(´ー`)

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