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一話 外套を着た男

『スキル』

サモンズの儀にて一人につき一つのみ授かる事の出来るという特殊能力。人々はこれをスキルと呼ぶ。


『サモンズ・セレモニー』

・『サモンズの儀』とも呼ばれるスキル授与の儀式。

・二十歳になった者が王都にある慰霊碑の前で行う事が出来るという。

・またその儀式の際、それを受けている者は少しばかりのちくりとした痛みを感じるらしく、それは特殊能力を受け取る瞬間肉体に変化が起こるからだと言われているそうだ。

・ただし、それを受ける事が出来る者は優秀な冒険者、貴族、王族等に限られている。


※(ただ、口外はされていないが……ある程度良い身分の者が金を積みさえすれば、その限りでは無いようだ)

簡単なあらすじ『王女森の中、目の前にはトロール』




陽をも通さぬ深い深い森の奥底にて。

周囲の木々よりもより濃い色をした巨顔が逸れ子の方へと引き寄せられるように近付いてゆく。


(このトロールは、そのまま私を喰い殺すつもりなんだろうか)


それを目の当たりにし、死を覚悟したキジカは青眼の瞳を瞑る事で。


暗澹あんたんたる暗闇を最期の場所と選び、その中で人生の閉幕をじっと待ち続けていた。



と、その時だった。


トロールの動きが止まり、同時に何かがこちらへと近付いて来るような物音が聞こえたのは。


「おいデカいの、見つけたか?」


木々の間をって現れたそれは人語を話した。


キジカはその声を聞き薄目を開ける。


すると、そこにいたのは。

この国では珍しい黒髪と、同色で切れ長の目を持ち、全身を黒い外套がいとうに包んだ人間の男であった。


その様相から察するに魔法を扱う職業の者ではないだろうか?だがしかし、それではこの魔物を止められないはず、ならばこの男は魔物使いなのか?


いや、それよりも。

この男は……私を助けに来てくれたのだろうか?


そう考えを巡らすキジカをよそに。

外套を着た男は彼女を一瞥した後またすぐに口を開いた。


ただし、今度は不満そうに眉根を寄せて。


「……あ〜違ぇ、ターゲットじゃねえな。


おいデカいの!こいつは襲っちゃダメだ!

さ、行った行った!」


そしてそのまま、男はさも当たり前のようにキジカと緑の巨人との間に入り込むと。


何と魔物の腕を軽く叩き、トロールに移動するよう促したのだ。



何を思ったかは知る由もないが。

とにかく、それが自死同然の行為である事には変わりない。


「あ、危な……」


それに驚き、思わず声を上げようとしたキジカだったが。


「……!?」


彼女は、今度は声も出せぬ程に吃驚きっきょうする事となる。


何故ならば。

トロールが指示を素直に聞き入れ、ゆっくりと何処かに姿を消して行ってしまったのだから。




「…………」


魔物使い、には見えぬ男の命令を受け入れた魔物という、訳の分からないものを目にしたせいで暫く唖然としていたキジカだったが。


段々と冷静さを取り戻すうちに。

外套を着た男のとある発言に違和感を覚え始めていた。


〝おいデカいの!こいつは襲っちゃダメだ!〟


……いや、違和感も何もない。

その言葉、どう捉えてもコイツが黒幕という事になるのだけれど?


という結論に辿り着いたキジカは。


自身を石ころか何かとでも思っているのか。

事が終わるとまた一瞥をくれただけで、一言も発さずこの場を立ち去ろうとする男の服の端を掴み言った。


「ちょ!ちょっと待ちなさい!


ねえ、さっきのはどういうこと?

まさかとは思うけれど、あの魔物は貴方が操っていたの?」


すると、外套を着た男は。


「あ?


…………ああ。

ま〜、違うと言っちゃあ嘘になるかもな」


全く悪びれる様子もなくそう答えるのだった。




「そんな……それなら、どうして……」


(このアホはそんな態度でいられるの?)


男のふざけているとも取れるような返答に言い淀むキジカ。


だが段々と怒りが込み上げてきたのか。

彼女はすぐに立ち直ると身体を震わせながら、目の前の常識知らずに向けてこう言い放った。


「貴方ねえ!

だったらせめて申し訳なさそうにする努力くらいはしなさいよ!


というか一体全体、何故そんな傍迷惑な事してるのよ!?」


「まーまー、落ち着けよお嬢ちゃん」


しかしやはりと言うべきか男は気後れするような気配も見せずに。


「これには深ーいワケがあってだな……」


当然のように胡座あぐらをかいて座り込むと、その理由を語り出した。



「これはついこの間の事だ。


俺は王都の酒場で夕飯を食ってたんだがな。

そこである男に酒を引っ掛けられたんだ。


だがソイツ、女の前だったからか謝りもしないで連れの方に戻って行っちまってよ。


それで頭にきた俺はずっとソイツの事を調べてたんだが、どうもこの森を抜けた所にある町に住んでるらしくてな。


だからこうやって魔物達をどうにか手懐けて、いつかまたこの辺りを通るだろうソイツをシバき倒して……


ま、要は仕返しをしてやろうってワケよ。


だがな、結構大変だったんだぜ?

何度も何度も餌をやって、最近漸く魔物達が言う事を聞くようになってきてな…………」



まだ男は何かぶつぶつと愚痴らしきものを吐き出していたが、そこでキジカは耳を傾けるのをやめた。


今の話が、想像していたものよりも随分と浅い……

というか『浅い深い以前に問題があり過ぎる』ものであったからだ。


ちなみに、今も尚喋り続けている男には。

相変わらず過ちを犯したという意識の欠片どころか、その粒子すら見当たらない。


それが決定打となり。

とうとうキジカの堪忍袋の緒が切れた。


「だからよぉ……ん?

どうしたお嬢ちゃん?」


「どうした?ですって……?


どうしたも何もないわよ!!

アンタの身勝手な行動のせいで護衛にも逃げられるし、死にかけるしで散々な目に遭ったのよ!?


謝りなさいよ!!今すぐ!!

アンタがその男に対して思っているように、私だってアンタに怒っているのよ!?」


「嫌だね、今回に関しちゃ俺は何もやっちゃいねえからな。恨むならトロールか……それか、自分の運の悪さにしといてくれ」


しかし、そんなキジカを物ともせず。


男は何と即答で謝罪を拒否し。

それどころか責任転嫁を始めたのだ。


「はぁ!?

アンタこの期に及んで……ハァ。


分かった。

ひとまず今は諦めるわ」


そのあまりな態度に、話し途中で感情が怒りや驚きを越え呆れに変わってしまったキジカ。


そうして再び冷静さを取り戻した彼女は続けてこう言い。


「だからその代わり、私がこの森を抜けるまでで良いから側にいてくれないかしら?


さっきも言ったけれど、護衛がいなくなっちゃって私困ってるのよ」


つまりは謝罪と引き換えに、男に同行を要求したのだ。



すると男は。


「えぇ、ダルいな……」


大方予想出来た通りに、やはりそれを嫌がる様子でいた……のだが。


「まあでも、そうだな。

流石に野垂れ死にでもされちまったら寝覚めが悪いし、良いぜ。


謝る代わりについて行ってやるよ」


何と、キジカの要求を受け入れたのだ……


……ただし、渋々といった様子ではあったが。



とにかく。

そのようなやり取りを終え。


「よし、それじゃあ行こうぜお嬢ちゃん」


キジカとの同行を決めた男は立ち上がり。


「ええ、そうね……


ボソリ(しかしコイツ、酒を引っ掛けた男には謝らないだけで執着してるクセに自分はここまでしても謝罪しないだなんて、随分と捻くれた性格をしているのね)」


男に聞こえぬよう小言をいいつつもキジカも頷き。


こうして今、二人の短い旅路は幕を開けるのだった。



「ところで、アンタ名前は?」


「どうせ短い付き合いだ。

好きに決めて好きに呼んでくれ」


「…………なら、『アンタ』のままにしておくわ」

キジカが道中に得た『外套を着た男』の情報

・名前は教えてもらえなかった。

・職業も教えてもらえなかった。

・普段の暮らしぶりも教えてもらえなかった。

・何処に住んでいるのかも教えてもらえなかった。

・年齢も教えてもらえなかった。ただ、キジカより年上なのは確実と思われる。

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