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十八話 掏摸の少女

簡単なあらすじ『資金問題、解決』



「なあお嬢ちゃん、住宅街巡りは楽しいか?

俺はそろそろ飽きちまったんだが」


「もう!いちいち五月蝿いわね!

そんなわけないでしょ!


なかなか大通りに出られないだけよ!

アンタはちょっと黙ってて!」


「……迷ったんだな」


物騒な雰囲気を漂わせる辺りは抜けたものの。

裏路地は非常に入り組んでいて、なかなか大通りへと戻る事が出来ない……


と、そのような具合に。

土地勘の無い二人はまだ、路地裏を彷徨い歩いていた。


……すると突然。

そんな二人の背後へと、全身をローブに、顔を頭陀袋で覆い隠した小柄な者が急ぎ足で近付く。


その手指はまるで、緊張を払い除けようとするかのように小刻みに震えていた。


そして、それは間近に迫ると。


「きゃっ!」


「…………」


ログマにぶつかりながらその脇を抜け。


「ご、ごめんよ!」


二人の前を走り去って行くのだった……が。


「いいや小娘、謝る必要はねえよ。

この俺から掏摸スリをしようとはなかなかの度胸だ、むしろ褒めてやりたいくらいだぜ。


ま、結果は俺の勝ちだけどな」


「……え?」


それを聞いた少女はすぐにその足を止め、振り返った。



頭から取れ落ちる頭陀袋の存在も忘れ。

二人にあどけなさの残るその顔を晒した、十と幾つかであろう歳の少女は。


ログマが片手に持ち、頭上でひらひらとさせている。

良く言えば年代物の、悪く言えば使い古された短剣が自分の物である事に気が付くと。


白い肌をより白くし。

くりくりとした薄墨色の目を殊更に丸くさせ。


「それ、私の……!?な、何で!?」


急いで自身の服をあちこちとまさぐり、あるはずの短剣それを必死に探し始めた。


透き通る程に白いその頭髪も両肩の上をひらひらとし、主人と共に狼狽えるように揺れ動いている。


だがログマはそんな少女を放置し、再び歩き出した。


「俺もやり返したからに決まってんだろ。


さあお嬢ちゃん、行こうぜ。

短剣こいつはちとボロいが、晩飯代の足しくらいにはなるはずさ」


「待って!その剣が無いと困るんだ!返してよ!」


「嫌だね。盗られちゃ困るもんなんざ誰にだってある。


にも関わらず、お前は俺達から盗みを働こうとしたんだ。なら相応の代価は支払ってもらわないとな」


「そ、そんなぁ……!!」


そうして、短剣を吟味しながら歩くログマと。

それの足に縋り付く少女を前に、キジカは……


どうにも居た堪れない気持ちとなり、こう言った。


「……確かに泥棒はダメだけど、相手は子供よ?

反省してるみたいだし、返してあげなさいよ」


「反省してる……いや、してます!ごめんなさい!

だからお願い、それを返してよぉ……」


追風を受けた少女もすぐに謝罪する。


だが、それでもログマは首を縦には振らず。


「泥棒はダメ、か……でもお嬢ちゃん。


〝さっきの〟は黙認してくれたよなあ?

それはどうしてなんだ?


俺にも分かるように説明してくれ、それに納得したら返してやるよ」


「うぐっ!」


それどころか追風キジカを逆風によって掻き消し。


次は、有ろう事か。


「それと小娘。

お前、本当に反省してるのか?」


「してますしてます!本当です!」


「そうか……なら許してやろう。

今度からは気を付けろよ」


こくこくと頷く少女に短剣を手渡し。

その顔をぱっと輝かせるも……


「おっと!

許してはやるが返してやるとは言ってないぜ。


いや〜それにしても、俺って優しいなぁ。

見ず知らずの子供ガキ相手でもきちんと叱って。


その上、短剣こいつだけで許してやるんだもんなぁ……」


すぐに短剣それを取り上げ、懐にしまいながらそう言い。


一度崖っ縁から掬い上げたはずの、しかも年端も行かぬ少女を。


今度はより入念に、かつ確実に。

絶望の淵に叩き落とすのであった。



「ちょっと、アンタねえ……

いくら何でも大人気ないわよ」


「そう言うお嬢ちゃんからはまだ答えを聞かせてもらってないな?」


「…………」


最後は仕上げとばかりに、キジカを再び黙らせるログマであったが。


「そ、そんな。

お金も盗れなくて、おまけに剣も無くなっちゃったら……


私はどうやってドラゴンと戦えば良いの……!?」


「……何か事情があるみたいよ。

だから良い加減、それを返してあげなさい」


とうとう泣き出してしまった少女と、すぐに復活したキジカの一言を受け。


「…………ったく。

これだから子供ガキは嫌いなんだ」


漸く、短剣を売り飛ばす事を諦めるのだった。



この町で時を過ごした少女は店にも明るく。

二人をものの数分で、しかも手頃な値段の宿屋へと案内してくれた。


そうして今、三人は揃ってキジカの部屋にいた。


ログマはベッドに鎮座し。

少女はその片隅に腰掛け。

寝台を奪われたキジカは椅子に腰を下ろしている。


先程、『ドラゴンと戦う』と、言うような発言をした少女の話を聞くためにだ。



少女はカイリと言い。

カイヤという名の双子の弟がいた。


二人はこの町の学校で騎士となるため学び。

戦闘、戦術については特に精一杯、技術を磨いてきたのだそうだ。


そんな時、学校にある人物が臨時講師として現れた。


その男はジアロムと言い、表向きは指導者とは思えない程明るく、良き教員に見えたそうだ。


しかし、裏では目をかけた生徒に少々行き過ぎな指導をしているそうで、それで怪我をしたり、不登校になった生徒も多くいるらしく。


それはもしかすると、その快活な性格が空回りした結果なのかもしれないが、だとしてもやり過ぎな事には変わり無く、生徒にとって彼が恐怖の対象である事もまた事実であった。


そしてある日。

とうとうジアロムの目が弟に向けられた。


それからというもの、ジアロムは戦闘技術の指導をカイヤへと直々に行う。彼にだけ他生徒よりも多くの鍛錬を行うよう強要する等。


やはりと言うべきか、過度な指導を始めたそうだ。


カイリはそれを何度も親に相談したが、『あの人がそんな事をするとは考えられない』と、全く聞き入れられなかったのだと言う。


そうして暫くの間は、何とかジアロムの過酷な指導に耐え続けていたカイヤだったが。


遂に限界が来、彼はその途中で倒れてしまった。


以来、彼はその時の過労が祟ったためか動けなくなってしまい、今は自宅にて療養しているとの事。


それでカイリはドラゴンを倒し、その火炎袋を持ち帰って弟を治療しようとしているのだった。


ログマの金を狙ったのもそのためである。

カイリはそれで得た資金を利用して武具を調達し、ドラゴンに挑もうとしていたのだ……


以上が、少女の話した全てである。

いいね、感想等受け付けておりますので頂けたらとても嬉しいです、もし気に入ったら…で全然構いませんので(´ー`)


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― 新着の感想 ―
掏摸未遂から始まる出会いが、意外にも物語を大きく動かす鍵となる一話。序盤の軽妙な掛け合いと、ログマの意地悪ながらも憎めない言動がテンポよく描かれており、読者をぐっと引き込む魅力があります。少女カイリの…
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