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十七話 やむを得ぬ理由

『ドラゴン』

この世界では魔鳥類ハネツキクンピラ科というものに分類される、翼を持つ龍のような姿をした魔物。非常に戦闘能力が高く、一般人は愚か下級〜中級程度の冒険者でさえも近付く事はかなりの危険を伴う。

簡単なあらすじ『キジカはドラゴンを討伐するつもりのようだ』



そして、それを聞いたログマは。


「ま、確かにそこら辺で買えるような武具もんで魔王が倒せるとも思えないし。


それに、ドラゴンなんかにやられてちゃあ、それこそ打倒魔王なんざ夢のまた夢だしな。


……面倒臭いけど仕方ねえ。

お嬢ちゃんのワガママに付き合ってやるよ」


キジカの提案を承諾し。

すぐに行動せんと立ち上がる……


「いや、ちょっと待った……」


かと思いきや、考えが変わったのか。


ログマは裏路地の更に奥へと目を向けたまま、動きを止めた。


釣られてキジカも視線を移す。


そちらは大通りとは裏腹に。


ゴミが多く放置されていて。

怪しげな品物が並ぶ、これまた怪しげな露天が幾つもあり。

そこにいる者達も、またその性質も、あまり良いものでは無さそうである……等々。


一目見ればすぐに分かる程。

そこは荒事に巻き込まれる事多かろう、素晴らしい治安をしている場所のように、キジカの目にはそう映った。


「まさしく、『ハベラの裏の顔』って感じね……

どうして人が多いと必ずこういう場所って生まれるのかしら?」


「光ある所には影が生まれる。


そんなもんは比喩たとえなんかじゃなく、ただの自然現象(当たり前)なのにな。


……もしかすると、人間ってのは。

自然現象それと同じくらい、当たり前にどうしようもない存在なのかもしれないぜ。


特に、ああいう奴等とかな」


達観したような表情でそう言う、ログマの視線の先には……


ぴいぴいと泣き喚く見た事もない魔物を無理矢理に連れて行こうとする羽振りも恰幅も良い。

ただし性格は随分と悪そうな商人風の男と。


その様を目の当たりにしても尚、見て見ぬ振りを続ける憲兵の姿があった。



ログマと同じものを目にしたキジカは眉を顰めた。


確かこの国では、魔物は種類によっては売買が禁止されているはずだ。


だがしかし。

違法である可能性の高い取引を。

今ああして、懐いてもいない魔物を連れた、『魔物使いとしては失格の、つまりは魔物使い(そう)でないのだろう』一人の男を。


そのどちらかを間違い無く目にしたはずの憲兵は。

そうであるにも関わらず、確認するどころか微動だにしない……


それが堪らなく不満であるのに加え。

まずそもそもとして、その光景があまり見ていて気分の良いものではなかったからだ。


また、それと同時に。

キジカは何処か、もどかしいような感情をも抱く事となった。


それを戒めようという気持ちはあれど。

あのような者達が、他人から見ればただの若い娘の忠告などに耳を貸すはずも無いと思ったからだ。


だからそう、キジカにはどうする事も……


いや、それならばいっそ。

自身が王女であると打ち明けてしまおうか。


そうすれば、彼等も私の話を聞いてくれるかも……


などと考えていた時、ログマが動いた。


「あ、ちょ、ちょっと!待ちなさいよ!

気持ちは分かるけど、アンタが行ったってどうしようも……」


キジカが止めるのも聞かずにログマはずかずかと歩き、彼等の元へと歩を進めてゆく……


(驚いたわ、コイツにも正義感ってものがあったのね。


まあでも、ちょっと尊敬しちゃうわね。

私は考えるだけで、行動までは出来なかったから……)


その背中を見、思うキジカ。


とは言え。

すぐにそれは間違いであったと気付くのだが……



まずは商人風の男にどんどんと近付いて行くログマ。


その後、どうやって事を収めるのか……

と、思っていたキジカであったが。


ログマは商人風の男へと、恐らくわざとぶつかり。


「おっと、ごめんよ」


そして、それだけしか言わず。

そのまま歩き去るのだった……


……勿論、それで終わらせるキジカではない。


それを見届けるとすぐさま彼女はログマの後を追い、その肩を掴もうとする……が。


ひょいとその手を躱されてしまい。

ログマはそのまま、憲兵の元へと移動して行ってしまった。


それに憤慨し、駆け出そうとするキジカ。

だがしかし、次に性悪のした行動に彼女は驚く事となる。


何故だかログマは憲兵の前で立ち止まると。

内容までは聞き取れなかったが、何やら憲兵それと会話を始めたのだ。


あの商人のような男にはそうしなかったのに、である。キジカはこの男の真意が分からず混乱するばかりだった。


すると、憲兵に動きがあった。


それはログマとの短い会話を終えると漸く動き出し。


何故だか、とても卑俗そうに見える顔をしながら。

商人風の男の方へと近付いて行ったではないか。


その意味もまた分からず、混乱に混乱を重ねたキジカは。


ひとまず裏路地の終わりでニヤニヤとしながら手招きしているログマの元に、とぼとぼと歩み寄って行くのだった。



しかし、そこでもキジカは混迷してしまう。


「さてお嬢ちゃん。

当面の資金も確保した事だし、早速賭けをしようじゃないか。


ただし、場所を移してからな」


やって来たキジカに向け、ログマがそのような訳の分からない事を言い始めたからだ。


何故、今賭けなどしなければならないのか。

その言葉が本当ならば一体いつ、どうやってこの男は金を手に入れたのか。


それすらも知らず、急かすログマにされるがままキジカは裏路地を離れ、今度は物陰から裏路地それを眺める事となった。


……が、勿論その意味も理解出来ず。

キジカはとうとう、ログマへと胸中のもやもやとした思いを全て打ち明けた。


「ねえ、一体全体どうなってるのよ?


今の今まで何もなかった憲兵は、アンタと少し喋っただけですぐに動き始めるし。


アンタはアンタで、いつ手に入れたかも分からない資金を確保したとか言うし……もう訳が分からないんだけど?」


それを聞き、ログマは答える……


いつの間にやら所持していた。

沢山の貨幣が入った革袋の中身を吟味しながら。


「憲兵?ああ、それはこいつのお陰だろうな」


そう言うと、ログマは革袋の中からあるものを取り出す。


それは……この町の通行許可証であった。


だが、それを何故この男が持っているのか?

それは異国の者ならば必須というだけの物で、ログマやキジカには不要……と言うか、まずそもそもとして発行出来ないはずだ。


そう思い、キジカは再び疑問を抱く……


事は無かった。

この男をある程度知った、今の彼女だからこそ。



革袋それを見せられた瞬間に全てを察したキジカは、ログマへとこう言った。


「……それ、さっきの男から奪い取ったのね?」


彼女の視線はみるみるうちに鋭いものへと変わる。


「お、正解だぜ。

お嬢ちゃんも段々と分かってきたな。


まあでも、狙ってやったわけじゃねえぞ?

目当ては革袋サイフだけだったんだが、その中にたまたま通行許可証こいつが入っててな。


それで思い付いたんだよ。

この事を憲兵あいつ告発チクって……


あの成金野郎が不法入国者に勘違いされてお縄となるか。それか予想以上の大物で、小金稼ぎにアイツを逮捕しようとした傭兵が逆に首をはねられるか、賭けてみようってな」


すると、ログマは楽しげな様子でそう答える。


そしてそれを聞いた、キジカはと言うと……

そんな事は既に推察済みであったらしく、呆れたような表情をしていた。


ちなみに言っておくと。

彼女の呆れ(それ)はログマだけで無く。


たった数秒だとしても。

事実として、この男を尊敬してしまった自分自身へも向けられていたのだった……



「……私、てっきりアンタがあの二人に忠告するかと思ってたんだけど、違ったのね」


「はあ?そんな事する訳ないだろ?

俺はただ『資金不足』を解消してやっただけだ。


だから俺のした事でアイツらのうちのどちらかが困るとしても、それはただのおまけ……


……いや、天罰だな!」


「……」


「というかお嬢ちゃん、そんなもんはいいじゃねえか。

さあ、どっちに賭けるんだ?」


「どっちにも賭けないわ、それは共有財産なんだから。

それにしてもアンタって本当に嫌な奴ね……


……まあ良いわ、ほら、行くわよ?

そろそろ今晩の宿を探さないとだし、もし巻き込まれたりしたら面倒な事になりそうだしね」


「おいおい、見ていかないのかよ?

何だよ、つまんねえな……」



やり方が随分と強引……いや。

強引も何も、まずそもそもとして人の道を外しまくってこそいるが。


しかし、キジカも先程の男達が気に入らないと思っていたのは事実であり。


まあ、だからと言うわけではないが……とにかく。

革袋の中身はこちらの懐に入れてしまっても構わないであろうと考え、彼女は。


裏路地から響く怒号や剣呑な雰囲気にまるで気付かぬような振りをしながら。


宿を探すため、ログマと共に歩き出した……



だが。


その一部始終を見つめ。

今度はその視線を二人の背後へと向ける、ある者の存在にだけは。


振りでは無く、本当に気が付いていないようだ。

毎週日曜日に投稿しております!


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