十六話 新たなる旅路
簡単なあらすじ『ログマ、キジカと共に行く事を決める』
キジカとログマ。
二人は復讐のためだけに仮初の相棒となったが。
ロク・ログマの指名手配を受け。
一人は功績を得るため。
一人は使命のため。
今度は『打倒、魔王』を目的とする同盟を、再び結ぶと決めた。
こうして、二人の新たな旅路は幕を開けたのである。
目指すは魔王の根城。
そこは王都より遥か東に存在するのだと言う。
だからこそ、二人がまず真っ先に行ったのは。
やはりと言うべきか、そこへと向けてひた歩く事であった。
街道……の、はずなのだが。
まるで山道のように険しいそれを。
歩き、前進し、突き進んだ。
そんなキジカとログマが、疲労に押し潰されようかとしている時。
漸く、町の形影が二人の目に映り込んだ。
それを見た二人はと言うと。
「……あ!
ねえ、アレ見て!やっと町が……」
「お、助かったぜ!!
それじゃあお嬢ちゃん、俺は先行ってるからな!!」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!!
ていうか水筒!せめて水筒は返しなさいよ!
私の分の水、まだ飲んでないんだけど!?」
瞬く間に活力を取り戻したかと思うと。
まるで、先程までの疲弊した表情が嘘であったかのように。
ログマは全速力で走り出し。
キジカはまあ、どちらかと言えば強制的に走らされ。
その原動力は違えど共に。
遂に見つけたオアシスへと向けて、一直線に駆けて行くのだった。
二人の辿り着いた、慰安の地。
それは周囲を山々に囲まれた、『ハベラ』と言う町であった。
だが、山岳地帯でいて人々は窮乏していると言う事も無く。
むしろ、山のあるお陰でこの町は豊かになっている、と言っても過言では無いのである。
事実、山からの湧水により人々は乾きとは無縁であり。また、鉱石等の採掘が盛んに行われているここハベラでは、仕事に困る者も少ない。
だからそう、この町は。
二人だけでなく、ここに住まう全ての者にとっても。
心に安らぎを与えてくれる。
オアシスのような場所であるのだ。
ハベラの町に足を踏み入れたキジカとログマは今し方食事を終え。
現在は裏路地にあった石造りの外階段に揃って座り込み。そこから大通りの方を何をするとも無しに眺めていた。
大通りには人の往来が激しく、まるで川の流れるようであり。
それをどうにか堰き止めようとする露天の店々。
かつかつと小君良い音を鳴らしながら、石畳を歩く人やその他にも様々な物を載せた馬達。
それと、二人と同じくこの町に初めて訪れたのであろう。
意外にも豊かなこの町を。並ぶ煉瓦造りの家屋を。
そしてこの活気溢れる街並みの全てを。舐めるように見、眺めている旅客。
等々、そこには単に視線を投じていても飽きぬ程の。
大きく、沢山の〝流れ〟があった。
「……ふぅ」
それを見、何を思ったのか。
不意にログマがため息を一つ吐き出す。
……いや。
よくよく見てみれば、それはログマでは無かった。
一体、何者なのだろうか?
キジカの隣には性悪ではなく、安物のローブを着、頭には麻布のような物を巻いた一人の男がいた。
「ねえアンタ、そこまでしなくても大丈夫なんじゃない?」
「あのなぁ、俺は指名手配されちまってんだぞ?
むしろこれだけじゃ足りないくらいだ」
……失礼、その会話から察するに。
この男はロク・ログマ本人に間違い無いようだ。
どうやら彼は指名手配により割れた面を、そのような変装で覆い隠しているらしい。
そんなログマは普段とは違う服装のせいか。
休息していると言うにも関わらず未だ草臥れたような表情をし、またため息も多かった。
それを見たキジカは、珍しくもログマを気遣っているのか。
もしくは、単に『歩き疲れたから休みたい』だけなのかもしれないが……とにかく、こう言った。
「……今日はこの町で宿をとりましょうか」
その言葉を耳にしたログマは、こちらもまた珍しく。
キジカの提案に嫌味一つ述べる事も無く、彼女へと頷いて見せる。
「ああ、そうするか……
それで、この町で一泊した後はどうするんだ?
そのまま魔王とやらの根城に直行か?」
「それなんだけど、まずはこの近くのミヌェラ廃鉱山って言う所にいる。
〝ドラゴンを討伐しに行こうと思ってるの〟」
「そうか、それはまた……
…………はぁ!?ドラゴン!?」
当たり前のようにそう言い放つ、キジカの言葉を理解すると共に。
ログマはまるで、叫ぶかのようにして声を発するのであった。
どうやら、疲労は吹き飛んでしまったらしい。
ただし回復したからではなく、吃驚がそうさせたのだが……
「お嬢ちゃん……ドラゴンを討伐するって正気か?
一体、何でまたそんな事をしようって言うんだよ?」
キジカの言葉が理解出来たとは言え納得は出来ず。
と言うか同盟を結んでいる以上、賛成するに値する理由が無ければどうにも認められず。
ログマはキジカを問い質した。
でなければ自分も、彼女と共に戦わなければならなくなるであろう事は確実なのだから……
とは言え、この男が物臭だからそうしたのではなく。
それはむしろ当然とも言える反応だった。
何故ならば、ドラゴンというものは。
人がそれと戦うには、並外れた戦闘能力が必要であるのは言うまでもなく。
翼を有する為、この魔物との戦いで地の利……いや、『空の利』を得る事人には叶わず。
更には知能まで高い……と。
上記した事柄からも分かるように。
大変に恐ろしい存在なのだから。
おいそれと近付いて良い生物ではないのである。
経験の浅いキジカなどは、特に……
対する、彼女の意見はこのようなものであった。
「確かに、無謀が過ぎるかもしれないとは自分でも思っているわ。
でも、ドラゴンの皮や牙は高く売れるし。
その中でも『ドラゴンの火炎袋』は特に、とても良い薬になるからって、高値で取引されているらしくて。
それに、そう言った素材は強力な武具の原料にもなるから、何としてでも今のうちに手に入れておきたいのよ……特に武具はね。
アンタはもしかしたら普通に戦えるかもしれないけど、私はほら……」
「あ〜、お嬢ちゃんほぼ丸腰だもんな……
でも、武具なんざ普通に買えば良いんじゃねえか?」
「勿論、最低限必要な物はここで買ってから行くわよ。
でもほら、それ以上のものを仕入れるってなると、ね……」
「……なるほど。
それ以上の額を家出同然娘の懐から出すにはちと厳しい。
しかもそれでいて、お嬢ちゃんはそこまでのんびりしているわけにもいかない。
だからドラゴンを倒して、手っ取り早く金と装備をどうにかしようってワケか」
「ええ、その通りよ……
それにしてもアンタ、なかなか鋭いわね」
「いや、そうでもないぜ?
だってよお。
お嬢ちゃん、ここまでの道中で一度も馬車に乗ろうとはしなかったじゃねえか。
乗る機会は何度もあったのに。
休憩は無しも同然ってくらいに急いでたのに。
……だぜ?
それなら『あ、コイツ金ねえんだ』って事くらい誰にだって分かるだろ」
「………………」
どうやら彼女は、資金不足と装備の不安。
二つの問題を同時に、かつ即座に解決するための苦肉の策として、竜の討伐を決意したようだ。
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