十五話 続行
簡単なあらすじ『復讐完了』
翌朝。
キジカはログマと共に、自身の取った宿の一室にて。
先程街で購入したばかりの新聞を、互いに顔を寄せ合い読み進めていた。
昨夜の復讐の成果。
それを確認するためにだ。
記事《成果》はすぐに見つかった。
ある見出しにラネディの名を発見した二人は、新聞を捲る手を止め更に顔を寄せる。
「お、あったあった。
『サルディ・オストノルト辺境伯の公子、婚約解消。夜遊病が原因か。酒場で乱闘も……』だってよ」
「こっちには大衆の酒場にまでやってきて女漁りをする程の女好きだっていうのもちゃんと書いてあるわ……見事に全部バレてるみたいね」
「つまり、復讐は完璧に成功したってワケだな。
新聞に洗いざらい書かれちまったからには、アイツも本当にお終いだ」
「ええ、そうね……」
結果は勿論大成功。
ログマの言う通りラネディは全てを失ったようだ。
……そして、それはつまり。
二人の関係が終わる事を意味する。
まあ、コイツは随分と性格の悪い男であったのだし、むしろせいせいする……はずなのに。
何処か寂しいと感じてしまうのはどうしてだろうか?
二人で行った復讐が少しだけ楽しいと思えたから?
それともこの数日間が刺激的だったから?
色々と考えてみるが、どうにも決定的な理由は見つからない……
そうキジカが思い悩んでいた時、不意にログマが立ち上った。
「それじゃ、お嬢ちゃんとはこれでお別れだな。
この後は予定通り魔王とやらを討伐しに行くのか?
……ま、俺にはもう関係無い話か。
じゃあ、その、何だ。
…………頑張ってな」
ログマはそう言って背中を見せ。
部屋を出て行こうとする。
「あ……ちょ、ちょっと待って!」
そこで咄嗟に呼び止めたが、その訳はキジカ自身にもはっきりとは分からなかった。
当然、次に続く言葉も見つからない……
と、その時。
キジカが勢い良く立ち上がったせいで新聞が辺りに散らばってしまう。
「なっ!?」
「こ、これは……!!」
すると、それを見たログマは目を丸くし。
キジカは思わず、声を出してしまうのであった。
二人の視線は床に散乱した新聞の。
その一つに書かれていた、小さな記事にあった。
そして、そこには。
昨夜起きた事件の、犯人の一人だと言う男の人相書きと……
その男、ロク・ログマを。
指名手配にすると記されていた。
「な、何で……何でだ!?
どうしてだよ!?変装までしてたんだぞ俺は!?」
途端に焦り始め、青い顔をしてその記事を食い入るように見つめるログマ。
この男がここまで狼狽しているのは初めて見る……まあ、それはともかくとして。
確かに何故、コイツは指名手配されてしまったのだろうか?
当時はログマの言うように変装までしていたのだし。
護衛達にもそこまでじっくりと顔を見られた訳ではないはずだ。
勿論、正面から挑んだとは言えラネディにも……
…………あ!
そこでキジカはある事を思い出し、ログマにこう告げる。
「ねえ、そう言えばアンタ。
あの時自分から名乗ってなかった?」
「…………ああ。
確かにそう言われると、そうだったかもな……」
そう呟いてから暫くの間。
ログマは頭を抱えたまま、銅像のように固まってしまうのだった。
銅像が口を開いたのは、それから数分後の事であった。
「……なあ、お嬢ちゃん」
「え、何?」
「お嬢ちゃんは王女様なんだろう?
どうにかして、指名手配を取り消す事とか出来ないのか?」
しかし、漸く声を発したかと思えば。
口から出て来たのは無茶な要求……
「うーん、そうねぇ……」
流石のキジカでもそればかりは難しく。
顎に手を当て熟考に熟考を重ねるも、彼女の頭に妙案が浮かぶ事は無かった。
……かと思われたが。
そこでキジカは一筋の光を見つける。
「……あ。
だったら私と一緒に魔王討伐へ行ってみる?
魔王を倒して手柄を立てれば、指名手配も取り消されるかもしれないわよ。
まあ、倒せればの話だけど……」
とは言え、それはキジカ本人も言っているように茨の道であり。また指名手配の取り消しも可能性の話で、確実なわけではない。
それはキジカもよく分かっていた。
だが自身に出来る事、そしてコイツに残されている選択肢として考えれば、むしろそれくらいしかないのではないだろうか。
そう考えた上で提案したのだ。
「うーん……」
だが、その案を聞いたログマは難しい顔をする。
やはり、常識的に考えれば難しい事柄であるからだろうか。それとも、単に面倒事が嫌いなのだろうか。
それか、コイツの性格から考えるに……
結果的にとは言えそれが、キジカの助けになってしまうからこそ難色を示しているのだろうか……?
キジカはどうしても。
付き合いが長いようで短い、この男の腹を探らずにはいられなかった。
それからまた、数分が経った後。
遂にログマはある決断を下した。
「ま、これも運命か。
分かった。俺もお嬢ちゃんについて行く事にするぜ」
そう、ログマはキジカに同行する事を決めたのである。
「それじゃあ改めて、よろしくね」
「ああ、よろしくな。ケチなお嬢ちゃん」
「その呼び方はやめなさいってば!!」
……とにかく。
こうして、二人の新たな物語が始まった。
舞台は移り。
ここはオルストランド王国に存在する唯一の城。
それは国王の住まいでもある、この国の頂点に立つ者達の居場所だ。
だが、彼等もまた人であるように。
月明かり差す今となっては、城と共に息を潜め、朝を待つため夢を見る……
ただ一人。
キジカの兄である、王子ベスカを除いて。
今宵ベスカは、皆が寝静まった後も一人。
自室の椅子に深く身を沈め、あるものを耽読していた。
彼の赤眼が這うようにして文字を追うのが見える。
それはどうやら、今朝のものであろう新聞だったようだ。
だが、すぐにその瞳は動きを止める。
そうさせたのは新聞に書かれていた、とある一文だ……
それから少しして。
その一文へと目を向けたまま。
ベスカは肩に掛かる程の金髪を掻き上げ、こう言った。
「……まだ起きているか、イフリャ」
すると暫くした後、彼の自室の扉を開ける者があった。
「は〜いベスカ様、何か御用かしら?」
「今朝の新聞に覚えのある名があってな。
その者について調査を頼みたいんだ」
そうして、ベスカは立ち上がると。
手にしていた新聞を放り出し、扉へと近付く……
投げ置かれたその新聞は。
ロク・ログマの記事が開かれたままであった。
一章 完
『二章 Passionを乗り越えて』に続く
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