十四話 即行
簡単なあらすじ『キジカ、最後の仕上げをする』
「……はいはい、分かったわ。
これを移動させればいいのね?
なら、少し待ってて頂戴…………」
そう言ってすぐ、キジカは卓上に魔法陣を描き始め。
書き終えた後に彼女は小瓶をログマから受け取ると、それに意識を集中させた。
「もう、なるようになれよ…………えい!!」
すると、キジカの手中から小瓶が消え。
次の瞬間には、それがラネディの頭上に移動していた。
そうしてラネディの頭よりも少し上の中空、と言った位置に召喚された小瓶は。
持主を失った事により落下を始め。
そして無事(?)に。
ラネディの頭部に直撃し。割れ。降り掛かる……
そう、今この瞬間。
復讐は完了したのだ。
とは言え、これでどうなるのかは。
やはりと言うべきか、分からないのだが……
小瓶が割れ、中に入っていた液体がラネディに降り掛かった。金色の髪と奇妙な色をした液体の色が混ざり合い、その髪は毒々しい色合いを見せる。
「うわっ!?今度は何だ!?」
……が。
それ以外にはラネディがどうなるという訳でも無いようで、彼は身を濡らした物に対して驚くばかりであった。
予想外にも、ぴんぴんとしたまま。
「……何も起こらないじゃない。
もしかしてその薬品、失敗作だったんじゃないの?」
それを見たキジカはすっかりと興醒めしてしまい。
胸中の不平をログマにぶつける。
……しかし。
直後、ラネディの身体に異変が起きた。
「ん?何だか、身体が…………うわぁああああ!!」
その声と共に始まった周囲の騒めきを聞き、キジカが振り向いた時にはもう。
数瞬前には何事も無かったはずのラネディの顔が、身体が。
突如として無数の魔法陣のようなものに覆われていたのだ。
キジカはそれに対して怖気を感じると共に。
何故だか、僅かばかりの既視感を覚えた。
また、既視感はごく最近のものであったような気がする。
あれは確か、博士の所で見た。
机上の山。本の山の中にあった……
そこまで思考し、キジカは思い出した。
「あれは……夜遊病!?」
そう、ラネディの身体に起きた異変が。
あの場所で見た本に書かれていた、病の症状と非常に良く似たものだと。
「お、当たりだぜお嬢ちゃん」
すると、それを聞いたログマは何処か嬉しそうな様子で言い、キジカの頭をポンポンと撫でた。
「!?」
男の珍しい様にもまた驚き、硬直したまま何も出来ずにいるキジカへとログマはこう続ける……
「ただし、あの薬品の中身は『それっぽく皮膚を変化させる』ってだけのパチもんさ。
数日も経てば皮膚は元に戻る……だが。
その時のアイツは何もかもを失った後だろうさ。
酒場で乱闘騒ぎを起こし。
女好きが祟って病にまで罹り。
しかもそれを隠そうったってもう遅え。
俺達や、客共の目にばっちりと映った。
今のアイツ自身が立派な証拠となるんだからな。
そうなれば評判はガタ落ちだろう。
いくら親父がお偉いさんだからって、庇い切るのは難しいだろうぜ。
な?浮気野郎にはピッタリだろ?」
……そうして。
ログマの目的と復讐の内容。
それら全てを今度こそ完璧に理解したキジカは。
本来ならば喜ぶべき所、なのだが。
何故だか、それを聞いた直後から身体に生じる。
震えを今もまだ、止められずにいるのだった。
(…………間違い無い。
コイツは、コイツは……
コイツは、本物の下衆だわ……)
「…………ま、まあ、そうね。
確かにアイツには良い薬かもね。
これまでずっと教えてくれなかったのも納得だわ。
ただ、その、何と言うか……
やっぱり、ちょっとやり過ぎだと思うのは私だけかしら?」
「んー、そうだな……
即席二人組で言えばアンタだけだろうな」
未だ尚、身体の震えを止められないキジカではあるが。ひとまず、ログマへと無意味な忠告は終えた。
……とは言え。
幾分かは冷静さを取り戻しているキジカはまだ良い方であり。
店の中は普段以上の。
と言うか、それとは比べ物にならない程の喧騒に包まれているのだが……
しかし、それをものともせず。
先程厨房に向かった店主が今、二人の元へと酒の入ったグラスを二つ持ち戻って来た。
欲望とは、このような状況下でも人を突き動かすのか……そう思うキジカであったが。
(いえ。もう何も考えない事にしましょう……)
という結論に至り。
すぐに頭を降ってその内にある全てを放り出すと、ログマと共に店主から酒を受け取った。
そして。
ログマは満足げな顔で。
思考を放棄したキジカもまた、何処かさっぱりとした表情をして。
二人は胸元程の高さにグラスを掲げ、向かい合う。
「良し、乾杯だ……
ただし一気に飲めよ?
そしたらすぐに宿屋まで走るんだ」
「え、何でよ?」
「そろそろ護衛達にかけた魔法が切れる頃だし、憲兵に至ってはいつ来るか分かったもんじゃないからな」
「あ……それもそうね」
「それじゃあ、復讐の成功を祝して……」
「「乾杯!!」」
そんな二人はグラスを交わし。
酒を一気に飲み干すと。
数秒後には一目散に走り出し。
街を包む闇に溶けるようにして。
その場から消え去るのであった……
……とにかく。
こうして、二人の復讐は終わったのである。
「そう言えば、アンタが戦うのは初めて見たけれど……結構良い動きをするじゃない、ちょっと見直したわ。
もしかして、戦術の心得があるのかしら?」
「さあ、どうだろうな……」
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