十一話 決行 その2
簡単なあらすじ『復讐決行の日がやって来た』
「……!!
来たようだぜお嬢ちゃん。
間違いない、アイツだ。」
途端に目を色を変え、そう囁くログマ。
それを聞いたキジカはすぐさま。
だがそれでいて悟られるよう、なるだけゆっくりと振り向く……が。
「…………えっ!?」
相手に気付かれてはいけない状況にあるにも関わらず。彼女は愕然とし、つい声を上げてしまうのだった。
確かに情報通り、この店の二件東隣にある酒場へと歩み入ろうとするラネディらしき人物は確認出来。
しかもそれは、ログマの言うように本人だと見て間違いは無さそうであった。
しかしラネディは。
その背後に、護衛であろう者達を二人従えていたのだ……
だからこそ、キジカは驚かずにはいられなかったのである。
「そ、そんな……」
思わずそう呟くキジカに気付かぬまま。
標的であるラネディは酒場に入って行く。
一方で彼の後に続く、武装した二人組の男は店には入らず。
店を背にして立ち、まるでそこの用心棒であるかのようにして鎮座するのだった。
そして、それに阻まれるのは。
(私達だ……)
キジカは項垂れた。
それもそうだ。
ラネディ程の人物が、たった一人で夜の街を彷徨くはずもないだろうに。
側には護衛が一人や二人。
いや、もっといても何らおかしくはない。
どうしてこんな当たり前の事が頭から抜け落ちていたんだ……これではどう足掻いても、作戦は失敗に終わってしまう。
キジカの脳内はそのような事柄で一杯だった。
そう、だから項垂れていたのだ。
まるで悲観に押し潰されるかのようにして……
「ねえ、アンタはこんな時どうしたら良いか分かる……?」
それから少ししてキジカは顔を上げるも。
どの道、ログマにそう問い掛ける事くらいしか出来ずにいた。
まあ、それはこの男も同じ……とばかり思っていたのだが。
「ん?どうもしねーよ。
ちょっとばかり予定は狂っちまったが、続行だ続行。
別に、これはこれで良いだろ。
まあ最も、俺はこうなる事を予想してたしな」
ログマはあっけらかんとした表情でそう言うとすぐに立ち上がり。
「え?」
「ほら、さっさと行こうぜ」
ぽかんとするキジカをよそに。
白いローブを靡かせ、ラネディの入った店へと向けて歩き出すのだった。
そこまで言うからには、完璧な作戦がコイツの頭の中にはあるのだろうか……?
とは思いつつも置いていかれぬよう、キジカもすぐさま席を立ってログマを追う。
「ちょ、ちょっと待って!
せめて、あの護衛をどうするのかくらいは教えなさいよ!」
「護衛ってかアクセサリーだろ?あれは。
ああやって女に自分が〝使う側の人間〟だってことをアピールしたいのさ」
「そんな事が聞きたいんじゃなくて……もう!
本当に、大丈夫なのかしら……?」
ログマの返事を聞き、ほんの少しではあるが。
キジカは全てを放り出し、ここから立ち去りたいような気分になってしまった。
不安しか無いやり口にて行われようとしている復讐からも。そして勿論、この男からもだ。
不安がるキジカを背後に従え、ずかずかと歩き目的の店に近付いて行くログマ。
それを見た護衛の二人はやや厳しい視線をこの性悪に向ける……いや。
キジカにだけ向けられているようだ。
だが、暫くすると視線もまたすぐに店内の女へと移されてしまう。
もしかすると、護衛はラネディの恩恵に与る事を常としているのかもしれない。
キジカはそう感じ、彼等に些かの嫌悪を覚えた。
「おいおい、主人よりも女が大事なのか?
護衛としちゃ失格だな。
……違うな。そういや、コイツらは護衛だったか。
なら仕方ねえか。
そんなもんに主人を守る力も、役目も何も無いしな」
するとログマも同様の感情を抱いたのか。
彼女に向け嫌味たらしくそう言う。
キジカもそれには同感だった。
……が、まだ護衛という名の腰巾着共とは距離が離れておらず、聞こえる可能性も充分にあると考えた上で沈黙を返事と選んだ。
それを掻い摘んで言うと。
つまりは、怖気づいた挙句に黙り込んでしまうのであった。
「なんだお嬢ちゃん、ビビってんのか?
これからコイツらの親玉とやり合うんだぜ?
聞かれようが何しようが構いやしないだろ?」
「ち、違うわよ!びびってなんかないし!」
そうして難どころか何も無く。
無事店内に入り込む事が出来た二人は、揃ってきょろきょろと視線を動かし星を探す。
すると二人と同様に周囲を見回す……ただし、こちらの目的は〝品定め〟であろう、金髪の美男にしてキジカを涙させた張本人。
ラネディの姿はすぐに見つかった。
「……いたわね。
じゃあとにかく作戦通り、今からこっそりと」
キジカは言い、ラネディの背後から忍び寄……
「……って。
ちょ、ちょっと!!何してるの!?」
るつもりでいたのだが。
何と、ログマは慌てるキジカを無視し。
一人でラネディの方へと向かって行ってしまったのだ。
「おや……?
何処かで見覚えのあるようなお嬢さんだ。
ところで、君達は一体……?」
そのせいでラネディにも発見されてしまい。
二人はもう、後戻りが出来なくなる……
「ねえ、ねえ!
ねえってば!本当にどうするのよ!
わざわざ変装までしたって言うのに、堂々と姿を晒すだなんて……聞いてないわよ!」
そこでキジカは最後の頼みの綱である、ログマの腕を掴みしきりにそう問い掛けるも。
どうやら、それは縋るべきものでは無かったらしく。
ラネディの前にまでやって来たログマはと言うと……
「ラネディだな?
俺はロク・ログマってんだ。
……さて。
自己紹介も済んだ事だし。
突然で悪いが、肩にかかった酒の礼をさせてもらうぜ。
それと、アンタに傷付けられた一人の女の復讐もな」
それだけ言うと懐からおもむろに杖を取り出し。
何を血迷ったのか。
作戦を台無しにしてまで。
しかも、外には護衛もいると言うのに。
真正面からラネディと接敵するのだった。
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