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九話 研究者の〝タイヨー〟

簡単なあらすじ『悪い趣味(?)を終えた二人はある場所へと辿り着いた』


店ならば何故、看板も何も出さぬのか。

私宅ならば何故、主の許可も得ぬうちに踏み入る事が出来るのか。


それすらも一切分からぬまま。

困惑するキジカは扉を開けてずかずかと中に入り込んで行くログマを見。


仕方無しに目的地だと言う、その小さな煉瓦造りの建物内部へと、性悪の背にならい自身も進み入るのだった。


「ちょ……勝手に入って良いの?」


「ああ、問題無いぜ。

ここにいるのは俺の昔馴染みだからな」



小さな煉瓦造りの建物。

その内部には十畳程の空間しか無く。


またそこには、様々な書物や薬品にも似た臭いのする液体に漬けられたマンドラゴラ、その他魔物らしき生物の肉体の一部、もしくは全部の瓶詰め。


そして、それをいじくるためと思われる多種多様な工具、器具のような物達がひしめき合い存在していた。


ひとまず、ここが道具屋でない事はまず間違い無いだろう……何かの研究を行う施設だろうか?


キジカはログマにそれを尋ねようとする。


「博士、いるか?」


だが、それよりも先にログマが言った。


それが何者かは知る所ではないがとにかく、ここにいる人物は『博士』であるらしい……


だとすれば、自身の読みは当たっているのだろう。

そう思い、キジカは開きかけていた口を閉じた。


……すると、その直後。


ログマの声を聞いたある者が、部屋の奥から現れる……


「え……ま、魔物っ!?」


その姿を目にしたキジカは思わず声を上げてしまった。


だが、それも無理は無い。

そうして現れた人物が、全身が岩で出来た魔物、ゴーレムのような姿形をしていたのならば。



ログマが博士と呼んだ、何処からどう見ても魔物……


もっと言えば肉体が岩で構成された魔物、ゴーレムにしか見えぬ人型の何か。


とは言え、ただの魔物それとは違い、目の前にいるこの博士という人物(?)は。


名前の通り白衣を羽織り。

そして、胸の辺りには掠れた文字のようなものが刻まれている。


また、それに加えて人語をも聞き取れていたのだから。まあ一応は、キジカにもこれが知性ある存在だと言う事は理解出来た。


……だが。


むしろそのせいで、『人に紛れるため、変装をしたがそれが下手クソだった魔物』にしか見えず。


なのでやはり、彼女にとっては目の前にいるモノが魔物としか思えなかったために、身構えずにはいられなかった。


だが、そんな彼女をログマが制して言う。


「落ち着けお嬢ちゃん。


コイツは『タイヨー博士』だ。

こう見えて何でも作れる、結構凄い奴なんだぜ?」


「ほ、本当に……?」


「ああ勿論。何せコイツは元々、国お抱えのエリート研究員だったんだからな。


まあでも、首にされちまったんだけどな。

今はここに引き篭もって研究ばかりしてる、ただの変人みたいなもんさ……


ボソリ(ちなみにその研究ってのはな、口には出せないようなもんばかりだ。


ま、それは国の研究機関にいた頃からなんだが……


とにかく、お嬢ちゃんもコイツだけは怒らせちゃあダメだぜ?


実験対象モルモットにされたくなかったらな)」


最後の方は声を潜め囁くように伝え。

それを聞いたキジカは顔を青くしてこくこくと頷いた。


「おいおい、聞こえてるぞ?

全く、好き勝手言ってくれちゃって……


大体、やつらだって大概なんだよ?

それなのにアタシだけまるで狂人扱いでさ……ブツブツ」


すると、その外見からは想像出来ないような。

女性程の領域の声でゴーレム……もといタイヨー博士は愚痴愚痴と呟き始める。


そして、そこから察するに。

どうやら先程のログマの話は本当だったようだ。


……この人を怒らせないよう、気を付けなければ。


キジカはより一層、気を引き締めそう決意した。



「しかし、連れがいるとは珍しいな……いや、お前の事だ。


とうとう気に入らない奴を実験対象として引き渡しに来たのかい?」


博士は本の山に腰掛け、そう言った。

その身体はなかなか重みがあるのか床は軋み、本は表紙を食い縛るようにして身を縮こめる。


また、そんな博士から『お前の事だ』と言われている事からも分かるように、ログマはやはり何処にいようと、誰に対してであろうと、変わらずにいつも通りの態度でいるらしい。


「んな訳ないだろ?

このお嬢ちゃんは今だけとは言え俺の相棒なんだ。


だから例えアンタに引き渡すとしても、それはもう少し後になるだろうな」


「えっ」


「このお嬢ちゃんはキジカって言うんだ。

何と、この国の王女様なんだぜ?すげーだろ?


まだでも、ケチなんだけどな。


この間なんて仕事の報酬……酒だけだぜ?

酷い話だろ?」


「い、いやそう言うわけじゃ!!

本っ当にコイツは……!!」


そうしてキジカが驚こうが、怒ろうが全て無視し。

ログマは博士に自身の相棒となった王女を紹介した。



「なるほど、君があの王女様か。

それなら丁度良い物があったはずだ。


少し待っておくれ……」


「おいおい博士、こっちは用があって来たんだ。

こんなゴミ山から何か探し出そうだなんて無駄な事はやめてくれ、時間がいくらあっても足りねえよ。


……って、聞いてねーし」


互いの自己紹介を終えるとすぐにごそごそと何かを探し始めた博士と、それを少し苛々とした様子で待つログマ。


一方でキジカは暫く、身を低くして足の踏み場も無い床から何某かを探し出すべく、動き回るゴーレムもどきの尻を眺めていた……が。


(……!!


あんまりジロジロ見てこの人が気分を害したら、実験対象にされちゃうわね!!)


不意にそのような考えが頭に浮かび上がると。

急いで視線を移し、それとなく部屋を見回し始めた。


そうして壁を這い、伝うようにして目を動かし。

鋲で止められた沢山の資料を見るともなく見つめる。


その次にキジカの目に止まったのは、机上にてまるで群生するかのような乱雑さで置かれた本の山であった。


また、その本はどれもが似たような項目で開かれている。


そしてそれは、どうやら男女間の病。

この国で言う所の『夜遊病やゆうびょう』についての事柄が記されているようだ。


だとすると、今はそれに関する研究を博士はしているのだろうが……


だがそれにしても、この人は一体それを研究してどうするつもりなのだろうか?


(それは分からないけれど、とにかく……


ちょっと怖いわね……)


そう思い、キジカは早くもここから逃げ出したくなるのだった。

『夜遊病』

男女間の病、夜の病等とも言われており、発症すると全身に魔法陣にも似た模様が浮かび上がる。

しかしそれ以外の症状は殆ど無く、強いて挙げるとするならば『ただし社会的ダメージは深刻』というくらいであろうか。


『タイヨー博士』

ログマの昔馴染みだという、ゴーレムのような姿をした研究者……だったのは昔の話であり、今はただ研究に没頭するだけの変人。


ちなみに、博士のその名は胸に刻まれた『対………用…… 』という、掠れた文字からヒントを得たログマが名付けたそうだ。

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