第4話
夕暮れの中洲。屋台の灯りが川面に揺れる。
綴は隣に座った霧真梨希を見て、奇妙な縁を感じた。
自分が書いている新作のヒロインも、イラストレーターだった。
「わたし、みんながくれる《いいね》とか《コメント》がうれしくて、絵を描くのが楽しくてたまらないんです。そんなふうに、少しでも誰かが喜んでくれることで食べていきたいんです」
と、霧真は酒をぐいと飲んだ。
綴は冷奴をつつきながら、続きを待つ。
「絵の依頼だって、個人と企業の両方から、毎月もらえるようになったし、食べていけないことはないです。もし厳しくなったらバイトで繋ぐし、親に頼るつもりもないです」
「偉い!」
小山が、串から外した焼き鳥を皿に取り分け、霧真に差し出す。
「あ、ありがとうございます」
両手で皿を受け取る霧真。
「でも、クリエイターとして実際に稼ぐ立場じゃない人からしたら、長い目で見たときに、絵だけじゃ厳しいって言うんです」
「それで親御さんと喧嘩しちゃったんですか?」
小山の問いに、霧真はこくりと頷いた。
「まぁ、小説家も兼業が多かったりするしね」
頷く綴はウイスキーを飲む。あまり長く放っておいては、氷で薄まってしまう。
「感慨深いです。霧真さんにガチで取材したいくらい」
小山が目を輝かせた。
「君の今の立場は作者に寄り添うことで、雑誌の編集じゃないだろ」
綴が小突くと、小山は口を尖らせる。
「まるで私が霧真さんに寄り添ってないみたいな言い方しないでください。何か力になれることがあるかもしれないから、もっと聞きたいんです」
「綴先生から聞いたばってん、今のご時世、クリエイターが増えすぎて飽和状態っちゃろ? 俺みたいなオジサンからすると、仕事が取れんくなって、老後の蓄えとか心配になってしまうばい」
後藤も心配の声を上げた。
霧真はグラスをテーブルに置いて、
「たしかに、老後の生活とかまで考えると、それなりの稼ぎを出し続けて、蓄えておかなくちゃいけないのはわかるし、それができるクリエイターはほんの一握りなのもわかります。でも、だからこそ、二十代のうちはやりたいことを優先してやった方が良いと思うんです」
「どうしてそう思うの?」
綴は聞いた。
「若いうちに挑戦しておけば、まだやり直しが利くって言うじゃないですか」
「でも、三十超えてからの就職は、二十代よりもっと大変だよ?」
と、綴は言ったあとで後悔する。
霧真の表情が曇ったのだ。
自分はもう四十代だが、霧真はまだ二十代。
世界の見え方や価値観はまるで違う。