第2話
夕暮れの中洲。屋台の灯りが川面に揺れる。
(子供!?)
当初、綴は思わず二度見した。
幼く見える顔だが、注文したのは酒。
装いも妙だった。
身長140センチほどの華奢な身体をスーツで覆っている。自分は社会人であると言うかのように。
保護者の姿はない。
「おぅ、リキちゃん。久しぶり!」
「ど、どうも……」
彼女――リキはちらりと店主の目を見て、小さくお辞儀をする。
後藤がカシス・オレンジを差し出すと、リキはそれを両手で受け取り、小さな口で飲んだ。
「リキちゃん、今日は元気なさげやねぇ?」
「……お、親と喧嘩しちゃって」
後藤とリキのやり取りを聞いて、小山が身を乗り出す。
「喧嘩って、就職関係?」
服装がスーツなのを見、童顔の女性と読んだのだろう。
小山が聞くと、リキは少し警戒心を解いた様子で、
「は、はい……」
「仕事は、何をやりたいの?」
綴が聞くと、リキは頬を赤らめる。
「ほ、本当は、イラストレーター志望なんですけど、親に猛反対されてて、なんというか、適当にいろいろ……」
「どんな絵を描くんですか?」
と、小山。
「ええと、お、女の子とか、男の子描いたりしてます。一応、ネットで依頼を受けたりもしてて……」
リキは頬を赤らめたまま、グラスを口に運ぶ。
「リキちゃん、この人たちもウチの常連さんやけど、絵、見せてもよかね?」
「マスター、この子のファン?」
綴が聞い
た。
「もちろんたい! SNSでもフォローしとーよ?」
後藤は得意げに胸を張る。
「ボクは小説家をやっていて、絵を見るのは大好きなんだ。もし良ければ、ぜひ見たいんだけど……?」
綴が断りを入れると、リキはこくりと頷いた。
後藤は携帯の画面を操作して、綴と小山の前に差し出した。
画面には、花に囲まれた美麗な少女の絵。
「え、すご! めっちゃきれい!」
と小山。
「っ!?」
見覚えのある絵と、【キリマリキ】というペンネームに、綴は思わずリキを見つめた。
「もしかして、あの霧真梨希さん⁉」
綴の言に、霧真ははっとしたように目を見開いた。