私の私による私のための宴
季節は太陽照りつける夏
私はベッドの上で目覚めてゆっくりと起き上がる。
「ん〜〜〜 やっぱり飲まないで寝ると目覚めがいいね~」
大きく伸びをして呟く。
私は個人事業主として飲食店を経営している。
そのため、営業が終了して片付けや掃除などを終わらせると
日付が変わることも多いため、定休日の前日以外は
お酒を飲まないと自分ルールを定めている。
「まぁ、店の2階が自宅だから特に困ってないけどね」
もちろん、新メニューの試作試食のときは、
どんなお酒に合うのかといくつか試飲することはあるが、
それは仕事の範囲であって、飲んだことにはならないから
自分ルールには違反していない。
私はカーテンを開けて太陽の光を取り込みながら、
活動のためのプランを頭の中で構築していく。
「まずは朝の内に家の事と買い物を終わらせて……」
「今日飲むための常備菜を作ってっと……」
ある程度固まるとスーパーが開くまでの間、
洗濯や掃除を終わらせるために、
「まずは歯磨き洗顔だな」と洗面所へと足を向けた。
それから数時間後……
私は自宅から近くのスーパーの店内にいた。
買い物かご片手に食材を品定めしていく。
「お! きゅうりの大袋……しかも1本1本が
普段よりも大きくて太い。
これは調理のしがいも食べごたえもあるね~」
大袋のきゅうりをかごに入れる。
「釜揚げしらすのパックが値引きしてる。
これはもらい。私って運がいいね~」
今日作る予定の食材がいいと気分もいい。
「後は梅干し……梅干しは結構悩むんだよね~」
「しそにはちみつ……まぁここはしそにするとして……」
「種無しの梅干しは以前使ってみたけど、
種ありのよりかは味が全然違ってたから、
私は手間はかかるけど種ありにするんだよね~」
種ありのしそ梅干しをかごに入れる。
ちなみに全て心のなかで話している。
「そして、鰹節っと。以前に見つけた個包装タイプが
使いやすくていいんだよね~」
個包装なら保存も楽でその時に必要な分量だけ使えて、
手も汚さないし私のお気に入りである。
「最後はもちろん赤ワイン。
店で使うお酒は仕入れてるけど、
自分が家で飲む時はワンコイン以内でいいんだよね~」
「うんうん、あった。」
「スーパーのワンコイン以内の赤ワインでも、
自分が好きで気に入っていればそれでいいもんね」
赤ワインボトルをかごに入れる。
「よし、買い物終わり!
セルフレジでお会計済ませて帰ろう!」
私はセルフレジでお会計を行い、
ポイントも手に入れて気分良く帰宅した。
帰宅後……
手洗いうがいを済ませた私は早速調理に取り掛かる。
「まずはきゅうりを縦半分に切って〜。
そのあとに横に一口大に切っていく」
普段のサイズならば、両端のへたを切ってから
包丁を押し当てて潰してから切るのだが、
これはサイズ的に潰すのが困難と判断したので、
半分にしたあとに一口大に切ることにした。
「切ったきゅうりをタッパーに入れたら、
釜揚げしらすをそのまま加える。」
パックのラッピングを包丁で切ってからきゅうりに加えていく。
「そして、梅干しを果肉と種に分けたら、
箸で大きさを残しながら切り分けてきゅうりに加える」
包丁で細かく切る方法もあるが、
私はダイレクトに味わいたいので箸で分けていく。
「で、個包装の鰹節をパラパラと加える。」
個包装の容量にもよるが、強く味わいたいなら、
2〜3袋加えても良しである。
「最後に醤油をお好きな分量かけて〜っと」
これはもちろんお好みである。
「全体をよく馴染ませて和えれば完成っと」
私は一口味見してその出来栄えに満足して頷く。
「あとは食べるときまで冷蔵庫で冷やして味を馴染ませる」
まだまだ日は高いが、
早めに作って味を染み込ませて馴染ませておく。
私はベッドに横になり、
購入して読んでいない文庫本を開いて読み始める。
中途半端に読むのは気に入らないので、
一日使える今日のような日に集中して読んでいく。
読破した私は伸びをしてベッドから起き上がる。
「いや〜〜 面白いね~。痛々しい場面も多いけど、
その逆境を糧に自分の道を進んでいく姿は
同じ女性として見習うべきところだよね~」
私の仕事も私が切り開いていかなくちゃね。
「さて、少し家の事をしとかないとね」
ベッドから出ると洗濯物を取り込みに向かう。
読んでいない本はまだ何冊かあるが、それはまた後日。
楽しみは取っておくものだ。
そこから更に数時間後……
シャワーを済ませた私は
しばらく火照った体を休ませた後にキッチンへと向かう。
今日作っておいた常備菜と赤ワインボトル、
ワイングラスをリビングのテーブルに並べる。
小皿に常備菜をよそって、
ワイングラスに赤ワインを注げば宴の準備は完了だ。
私は手を合わせて「いただきます」と呟く。
酒を飲むときにはしない人もいるのかもしれないが、
飲食に関わる者として、生命を頂く者としての
気持ちと感謝と礼儀を忘れればそれはただの獣である。
ワイングラスを持ち、赤ワインを一口口に含む。
「ふぅ〜〜」笑みを浮かべて嘆息をもらす。
「やっぱり飲み慣れた味は落ち着くね~。
一週間に一日となると余計に染み渡るね」
「けど、たまには違う赤ワインを味わうのもいいよね。
刺激になって新鮮だし、世界も広がる」
飲む時はボトルを2本3本と空けるが、
飲まないときは1滴も飲まないのが私のスタイルである。
ワイングラスを眼前に持ち上げて軽く回した後、
作っておいた常備菜に箸を伸ばす。
きゅうりをつまんで口に運ぶ。
「ん〜〜 きゅうりのさっぱりさと
こりこりした食感が夏!って感じするね」
「梅の酸味がきゅうりとの相性抜群だし、
しらすと鰹節の強い旨味がまた次の一口へと誘うね」
「どちらも海のものだし邪魔せずに調和してる」
「味付けは醤油だけだけど、それで充分。
むしろよけいなものはこの黄金律を崩すね」
この組み合わせが自分の中で正解だったと確信し、
赤ワインを一口飲む。
「また一つレシピが増えたから記録しておかなくちゃ」
私はスマートフォンからメモアプリを起動すると、
材料と作り方を入力して保存する。
なお、電子媒体は故障などでデータ消去の危険性があるため、
後から紙の手帳にも書き写しておく。
「これは新メニューとしてお店に出せるかもね。
お酒にあうし、副菜としてもいける」
「そのためにはどんな工夫が必要かな……
けど、それを考えて試作するのは明日」
「せっかく家飲みを楽しんでるんだから、
仕事のことは今日はなし」
「ふふっ 今夜はとことん一人飲みを満喫するんだ。
そうだ、お茶も用意しとかないと。
飲む時は水分補給も必要だしね」
お酒は水分補給にはならないので、
水やお茶を用意して合間合間に飲むようにしましょう。
私だけの宴は今、始まったばかりなのである……