婚儀に向けて 3
リュートと月涼は、婚儀に向けて忙しい毎日を過ごしていた。
婚儀の予行も無事に熟し、神殿の儀式も無事に覚え、婚儀3日前まで来た。
最後の予行は、契りの部屋での過ごし方である。
「ねえ・・・。この3日間って何?リュート?」
「これは、君の特別授業を発表する場だよ・・・。」
笑いを堪えながら言うリュートに月涼は、拗ねて怒った。
「もう!!また、揶揄ってるのね!」
「至って、真剣だよ。君が声が枯れるぐらい悲鳴を上げて、覚えたことをする場所だからね。」
『ムカッ』としながらもリュートが、腰に手を絡めて引き寄せてきて、その甘い瞳に負けて仕方ないと思う月涼。
リュートが月涼の背後に回り、頬に自分の頬を合わせて、目録と部屋の配置について一つ一つ指で、指しながら説明した。
「婚儀とお披露目が終わったら、その夜から二人だけで、この部屋で3日間過ごすんだよ。・・・ここに、食事が用意されて、食事しか置けない様になっている。こっちは、着替えで・・・ここが、清め入浴・・・温泉だから湧き出ているよ。とにかく、室内には3日間、二人っきりってことだよ。予行は、その場所を覚えるということ。」
話終えると、リュートは、後ろからグッと月涼を抱きしめて耳元で囁く。
「あと、少し・・・。」
耳まで赤くなる月涼を見て、更に言葉を重ねる。
「これ以上は、待てないからね・・・。」
そう言うと、くるっと月涼を自分の方に向けなおして、口づけようとした時だった。
「月ーーー。仲達さんが戻ってきた~!!」
そんな甘い雰囲気を打ち破る藍の乱入であった。
「ん?ん?・・・。あっ」
やらかしたと感じた藍が、後ずさって、リュートを見ると、リュートは、またかと呆れて藍を見た。
「何度目だ・・・藍?」
「えーっと、5回・・・6回目・・・だったかなーーー?と思います殿下。」
「これで、10回目だ・・・藍!!」
『ひー!!』これは、さすがに怒られるな・・・と思い俯いて目をそらす藍。
そんなやり取りを無視して、月涼が藍に仲達の居所を聞いた。藍は、助け舟が出たと喜んで答える。
「あっ!!今、大広間で、陛下に謁見中です!!」
「そっか。じゃあ、藍は、謁見が終わったら、仲達さんをこっちへ案内して。」
藍は、『はい!』と返事して、リュートに怒られる前に逃げて行った。
「最近、藍とお茶飲む時間もないんですから・・・怒らないであ・げ・て。」
最近覚えた、上目遣いで甘える月涼は、心の中で『よし!』と思っていた。
「今、甘えるのが成功したと思っているだろ?リア?」
『ばれたか・・・フルルには、通じるのにな・・・。』頭でぼやく月涼。
「でもーーー。本当にそうだし・・・。」
最近、藍は、侍従部屋で寝ていない。その為、本当にゆっくり話す時間も無くなっていた。だが、これもみな、月涼が悪いのである。
ぶつぶつと文句を言い始める月涼に、呆れて、リュートが言った。
「だいたい、君が、藍の寝台に潜り込まなければ、藍は、今も侍従部屋にいるはずだ・・・。」
「だって・・・。癖で・・・。」
月涼の体調が回復して、歩き回れるようになってからというもの、夜中目覚めて・・・当然の様に、藍の寝台に潜り込みに行っていたのだ。さすがに、藍は、まずいと思って、毎回、月涼を部屋に戻す毎日が続いていた。月涼は、朝、ゆっくり寝ていられるが藍は、仕事や勉強が有るために、そうもいかない。寝不足が続いて仕方なく、ペンドラムからリュートに、伝えてもらったのだ。
リュートは、驚いて藍に聞き返した。
「何と言った?」
「いえ・・・。だから、月・・・リァンリー様が毎晩、潜り込もうとするので困っております。」
「猫じゃあるまいし・・・その様なこと・・・本当に前からしていたのか‥‥?」
「は・・・はい。前は、男性の身なりでしか接しておりませんし・・・その延長の様な感じで・・・。」
「ふーーー。」
呆れてものも言えないと思うリュートは、藍に、今夜確かめるから、部屋を変われと言った。
「今晩は、私がお前の部屋で寝る。お前は、そうだな。私の侍従部屋で寝なさい。」
そう言われて、今夜はぐっすり寝れると思う藍だった。
その夜、リュートは、半信半疑で藍の寝台で眠りについた。2刻ほどして、深い眠りに入ろうとする辺りで、扉がゆっくり開いた。薄暗くて見えずらかったが、枕を抱えた月涼が本当にやって来て、当然の様に掛布をめくって入ってきた。
「藍・・・。今日、体大きいな~。リュートみたいだ。」
そう言って、丸くなって寝ようとする。
「リア・・・。リア・・・。」
「へ?藍がなんで、その名で呼ぶの?」
寝ぼけながら顔を上げると・・・、そこにあったのは、紛れもなくリュートの顔だった。
キャーーーー!!っと叫んで寝台から飛び出ようとする月涼の腕をしっかり掴んで、引き寄せるリュート。
「藍のいう事が本当だと分かったよ。まったく、君は!!藍が可愛そうだと思わないのかい?」
「だって・・・癖で・・・。」
しゅんとなる月涼に呆れるリュートは、言った。
「はぁ~。添い寝が必要なら、私がする。分かったね。」
「で、でも、リュートの部屋は、遠いし・・・。」
「でも?でもじゃない?私が怒ってないと思っているのか?」
「怒ってる?の?」
「当たり前だ!!他の男の寝台に潜り込むなど!!」
「男?藍だよ?」
「リア・・・。藍も男だ・・・。」
「うっ。そう・・・だった。」
この夜から、藍の部屋は、リュートの侍従部屋に移動となった。初めは、リュートがこの部屋で過ごすと言っていたが、さすがに、侍従部屋で毎日となると皆が反対した。部屋には、フルルが入ることになった。とばっちりがフルルに変更になっただけだが、婚儀後、リュートにバトンタッチするまでの間だと、我慢してくれたのは言うまでもない。




