婚儀に向けて 2
婚儀をそっちのけにして、重慶の無血開城に、夢中になりそうな月涼を阻止するため、リュートは王后ソニアを動かした。
「なるほど・・・無血開城か面白そうじゃな。重慶を戻らせて、範安を落とすと見せかけている間に、我艦隊で摂津港をか・・・。だが、これをすれば当分の間、北光国は従属国となるぞ。重慶は、納得するのか?リュート。」
「納得してますよ。なんといっても、あの、北光国の風見鶏な体質を変えるためですから。あのまま、上を挿げ替えても同じです。こちらから、高官を送り込むことも伝えてあります。それも、リァンリーの提案です。」
「面白い義娘よのう~。ほほほほほほ。で?リァンリーが動かない様に、私に力になれとな・・・。ほほほ。」
ソニアは、久しぶりに動き回れる!と満足そうに笑いながら言った。
「母上、出動までしなくて良いですからね・・・。艦隊には、仁軌殿を派遣します。」
苦肉の策で、母を使わなくてはいけないリュートだが、これはこれで、大変なのだった。
「何と?私に力になれと言っておいて、それは、なかろう・・・。まぁよい。それはそうと、リァンリーは、閨事の知識がさっぱりと聞いたが本当なのかえ?」
黙って、頷くリュートに追い打ちをかけるソニア。
「この国に来てから、体調の事もあるが・・・そなた落としきれずか?」
「母上。いい加減にしてくださいね。」
「良いではないか?大事なことぞ・・・。だが・・・調査によるとリァンリーは、妓楼に良く潜伏していたのであろう?其方もたまに、行って居たではないか?その様な場に出入りしていれば、自然に身につく知識ではないのか?例え、経験しなくとものう?むしろ豊富になりそうなものよ・・・。」
リュートは、ため息をつきながら返事する。
「ふー。それは、そうですが・・・実際、彼女の知識は皆無です。妓楼での様子も見ていますが、高官との話し合いに、応じさせるための見せかけでしたし、部屋も彼女だけ別棟になっていましたからね。閨事に、拘わらない様に、周りが配慮していたかと・・・?」
「そうじゃな・・・。仮にも本来の身分は、公女。その配慮はあったであろうな。しかし、面白い。そう言えば、先ほど、其方の別宮が仕上がていると聞いたから、寄ってみたら悲鳴が聞こえてきた。・・・あれは、リァンリーだったのか?フフフ。後で、様子を見に行くとするか・・・。」
ソニアは、上機嫌でリュートに言う。
「母上・・・。余計なことだけは、しないでくださいね。」
ため息しかでないリュートを残してソニアは、無言で手を振って立ち去っていった。
一方、特別学習中のリァンリーは、教本を見ただけで悲鳴を上げて、逃げ回り、話にならない。そこへ、ソニアがやって来た。
「王后陛下にご挨拶申し上げます。」
入ってきたソニアを見て、フルルたちは、一斉に壁に下がった。
「これ、リァンリー、ん?どこじゃ?」
フルルは、無言で月涼のいる場所を指し示した。
つかつかつかと歩いて、月涼のいるであろう場所まで行く。カーテンをめくり、月涼を見つけると月涼は、しゃがんで耳まで真っ赤にして、手を握りしめていた。手を差し伸べるソニア。
「立ちなさい。」
「はい。は、義母上様・・・。」
「何事じゃ?」
知っていてわざと聞くソニア。挙動不審に口をパクパクさせて声にならない月涼。
「これ、そこの女官・・・。どこまで、進んだ。」
フルルが申し訳なさそうに答える。
「それが、教本を開いただけで逃げられて。2日目です。ですので、1日目は、流れのみお伝えして・・・本日、改めて、教本を使おうと・・・。」
「そうか。皆、一度、下がりなさい。私が話そう。」
ソニアに従い、一同、部屋から出た後、ソニアは、月涼と共に長椅子に座り、月涼の頭を撫でながら言った。
「閨事は、其方の国では、合房というので有ったな?そのことは習わなんだのか?」
「は・・・はい。その、月の物もなくて、嫁ぐ事も無いからと・・・先延ばしにしてきました。」
「ふむ。そうか?だが、妓楼に潜伏していたことも有ると聞いておる?」
「それは、化粧とか着付けとかは、娘娘たちに、教えてもらいましたけど・・・そっちの方は、逃げました・・・。別棟でしたし・・・。」
「ふふふ。そうか、そうか、まぁ、リュートは、嬉しいというか・・・ま、無理強いしたくなかったということか・・・。」
ソニアが独り言の様に言う。
「えっ嬉しい?」
「そうじゃな。其方の初めてを全て一身に、受けれるではないか?ほほほほほほ。」
月涼は、収まったはずの顔の赤みがさっきより酷くなり、胸まで熱くなってきた。口をまた、パクパクさせながら声を絞り出す。
「は、は、義母上様・・・。かかか揶揄わないでく、ください。」
静かに、優しく髪を撫で、月涼の目を見ながら、ソニアは言った。
「嫁ぐからには、経験せねばならぬ。・・・リュートの口づけは嫌か?」
月涼は黙って、首だけフルフルと振って否定する。
「口づけが嫌でなければ、大丈夫じゃ・・・。嫌なものにされる、口づけほどの拷問は無いからの。フフフ。最初は、驚くような本であろうが其方の為に、皆、頑張っておる。」
コクコクと頷いて、涙を溜める月涼の頬に手をやり、涙をぬぐった後ソニアは、待機しているフルル達に声を掛けた。
「さあ、再開じゃ!皆、入れ!」
フルル達がホッとして部屋に入り授業を再開し、しばらくは、ソニアが月涼の横についていた。だが、ソニアが居なくなると、やっぱり、悲鳴を上げてしまう月涼だったのは、言うまでもない。




