再会
藍は、月涼が目覚めて、慌てている神女の一人にうまく変装し、その場に紛れ込んで奥間に入ることに成功した。奥間では、湯あみの終わった月涼が、着替えをしていた。コッソリ、月涼に近づき側にあった靴を差し出して、月涼に履かせる。その時、顔を上げて、月涼の顔を見て目配せをする。
『月ーーー。気づいてーーー。』
「ん?ん?・・・あっ!らん?」
コクコクと頷いて見せる藍。
「らーーーーーん!!!」
思わず叫んで、藍に抱き着く月涼。
「困っているんだよーーー。何がどうなってるか、分かんなくって!!」
シーっと合図したが時遅しであった。
「何ものじゃ!そなた、神女ではないな!!」
ソニアが周りの神女に藍を捕らえさせようとした。月涼は、慌てて藍を庇い擁護した。
「王后陛下、お許しを・・・。これなるは、私の忠実なるそば仕えでございます。」
ソニアの声に驚き、固まって動けない藍。
そして、ソニアは、その藍の周りを舐めるように一周する。
「ふむ。面白い気を持っておるのう・・・。リァンリーとは、反対に陰の気が強い男の子じゃな。鍛えれば良い素材になりそうじゃ。この部屋に平気でおれるのもまた一興じゃ。名を申せ・・・。」
王后ソニアの迫力は、静かだが凄まじかった。
「格 藍と申します。リァンリー様のそば仕えでございます。そ、その、あまりにも会えず心配で、心配で・・・申し訳ございません・・・。」
完全に、蛇に睨まれた蛙状態である。
「フフ、ハハッハハハ。面白い子犬じゃ。ハハハ。リァンリー其方、面白い者を側においておるのう。この者私にくれぬか?うまく育ててやろう。」
月涼も藍もブンブン首を振っている。
「そうか?だが、いつか、お前は、私の所に来るだろうな。今は、良い。リァンリーの世話をしっかりせよ。」
ソニアは、そう告げると藍をお咎めなしで解放した。
「これより、リァンリーを本城の居室へと移す。まだ、しっかりと歩けぬ故、輿の準備をせよ。」
更に、神女たちに告げる。
ペンドラムは、神殿控え間でいなくなった藍が、騒動を起こしていると知り心配してオロオロしていた。
ソニアは、奥間を出てペンドラムに声を掛けて告げた。
「中に其方が、育てようとしている侍従がおる。クククッ面白いものじゃ。咎めずともよい。あの者、化けるぞ・・・しっかりな。」
「ソニア様、やはり・・・そうですか?まず、気のバランスと開放からでしょうか?」
「うむ。まかせる。類は友を呼ぶものじゃ。リァンリーを追いかけてきた他の二人も気になるものじゃのう?ペンドラム。」
そう言ってソニアは、その場を去っていった。
ソニアが神殿を出た後、月涼と藍は、再会を喜び二人して目を潤ませていた。
「月ーーー心配したんだぞ。」
「藍ーーーごめんな~。」
「ん?月?なんだか・・・・・・ふっくらしたぞ・・・・・・。」
「おっ!よく気が付いたな~さすがだぞ、藍!すごいだろ?乳が・・・。」
「うんうん。」
そんな二人を神女たちは、クスクスと笑いながら見ていた。
「リァンリー様、外でペンドラム様もお待ちでございますので輿までゆっくりと歩きましょう。」
神女たちは、月涼の衣を整えなおして促した。
「藍、ペンドラムって誰の事?」
「リュート様の侍従頭ですよ。」
「リュート???って誰。」
そう言ってから、『やっぱりなんか忘れてる気がする・・・。』と頭の中がモヤモヤし始める月涼。
「えっ月???全く記憶にないの?リュート様の事?俺たちと別れてからずっと・・・。」
神女たちは、心配そうに側に寄ってきて藍に伝えた。
「リァンリー様は、意識が戻ってから、まだ記憶がしっかりしておりませぬ・・・。」
藍は、コクリと頷いてそんな、月涼を支えながらゆっくりと、神殿奥間から出て輿へと向かった。控えの間まで来るとペンドラムが今か今かと待っていた。
「藍!!本当に首が飛ぶところでしたよ!!」
藍を見つけたペンドラムが走ってきて叱り付けた。
「貴方がペンドラム?藍を怒らないでやって。」
月涼がペンドラムに近づいて言うとペンドラムは、ペコリと頭を下げた。
「申し訳ございません。リァンリー様・・・つい心配で。」
月涼は、先ほどまで藍と会えたことで、興奮気味で元気であったが神殿を出ると、『あっ・・・・・・』と言ったかと思うと、途端に力を無くし倒れかけた。
「リァンリー!!」
仲達や仁軌との話が終わったリュートが、駆け付け藍を押しのけて、寸で抱きかかえた。
「輿から落ちるやもしれぬ。私が連れて行く。」
抱きかかえられて、リュートと目を合わせた月涼。
「貴方は?」
「其方は、目覚めるたびに我名を聞くのだな。」
フッと笑ってリュートは月涼を見つめた後、額に口付けをした。
みるみるうちに頬を真っ赤に染める月涼に藍は、『こんな月・・・初めて見た』と思うのだった。
颯爽と月涼を胸に抱き歩くリュート。その腕の中で、いったいどうなっているんだろう?とまた、回帰する月涼は、リュートのなすがままでいた。
後ろを追いかける藍は、複雑だった。今までの月涼とは、雰囲気がかなり変わってきていると思えたからだ。




