月涼、目覚める
「キャーーーーーー。なんで!どうして!ここどこ?」
黄色く甲高い声が響いた。その声に、神女と呼ばれる者たちが慌てて集まってきた。
「どうなされましたか?」
「貴方たち、誰?」
「リァンリー様、私たちは、神殿の神女でございます。」
「ちょっちょっと待って、私・・・私・・・。」
月涼は、記憶をフル回転させようとしたが真っ白である。そんな、月涼に神女が心配そうに言った。
「大丈夫ですか?意識がはっきりとなされて、驚いているようですが・・・。」
そんなやり取りの中、凛とした面持ちの銀糸の長い髪に、青華蝶の額飾りをした女性が入ってきた。
「しっかり、目覚めたようじゃな、リァンリー。」
神女たちは、『王后陛下にご挨拶申し上げます。』と言って、慌てて頭を垂れて壁まで下がった。
その女性は、青華国王后ソニア・フレイル・バラハンであった。
「其方の事を心配して、あの、リュートがオロオロとしていて面白かったぞ。ふふふ。」
キョトンとしたままソニアを見つめて、わけが分からないと途方に暮れる月涼だった。
「どこまで、記憶が戻った?」
「えーっとですね。それが・・・。自分の名前とかは分かるんですけど・・・。ここって?どこですか?」
「ふふふ。其方、面白いのう。ここは、青華国神殿奥の間じゃ。其方の病を治す為に連れてきた。どうじゃ?体は軽いか?」
そう言われて、我に返り、体を見て今度は、真っ青になった。下半身に違和感を感じて、めくってみたら血の海だったからだ・・・。その様子を見てソニアは、笑いながら神女を呼んだ。
「湯あみと着替えの用意をしなさい・・・兆しが来た様じゃ。良かったのリァンリー。」
何の事かも分からず、ただ、自分が血だらけなのに驚いているのに、皆が平然としていることで更に慌てる月涼。
「大丈夫です。大丈夫です。自分で処理しますーーー!!」
「何を言うておる。初めての経験であろう?月のものは・・・。とりあえず、湯あみをして清潔にならねばのう。」
ぱたぱたと神女が用意して迎えにやって来た。
「リァンリー様、こちらへどうぞ。」
促されたので、仕方なくついていき湯あみをする月涼は、今だ事態がつかめていなかった。
身体を清潔にし、月のものの処理をしてもらいながら・・・なんて、不便な体になったのかとさえ思っていた。そして、ふっと目をやると、なんだか、丘になっている・・・なだらかだった箇所が・・・。思わずつかんでしまった。
「何これ?」
また、叫びそうになるのをこらえて、まじまじと自分のものを見る月涼に、側にいた神女が笑いをこらえていた。
「豊満で実にお美しい、乳でございますね。ふふ。」
「あーーー。・・・・・・そうですね。」
ぎこちなく返事をする月涼。どうなってるんだ?寝ていた間に?何が起こったんだーーー。頭の中では雄たけび状態である。
「わかった。まだ、夢の中だな・・・。それにしても実感の高い夢だな。」
「何を言うておる。」
後ろから来たソニアに一喝された。
「我々がどれほど、方術を施したと思うておるのだ。本来の体に戻したまでだ。」
「へっ。」
変な声が出ると共に月涼は、急に気が抜けて、今度は、ハラハラと泣き始めた。
ソニアは、月涼をそっと抱き寄せて、頭を撫でながら言った。
「今まで苦労してきたようだな。安心しなさい。いつも気を張って生きてきたのであろう?」
何故か、涙が止まらず泣き続ける月涼だった。
「涙が・・・涙が止まりません・・・ごめんなさい。」
「よいよい・・・。初めての経験は、そのようなものじゃ・・・。体の変化と心がついていかぬのじゃ。本来はのう、もっと早う経験するもの。母に教えてもらうのじゃ。此方は、其方の義母になるのだから甘えても良い。」
「ん?義母?やっぱり、誰?ここどこ?」
はて?と王后の胸の中で・・・我に返る月涼は、妙な記憶がすこーしずつ戻ってきた。
あれは、確か・・・海南国で・・・超怖い顔の美しい殿方に拉致された気が。
ん?ん・・・・・なんかした気がする・・・・・。なんだったけ?
その頃、藍は、ペンドラムに連れられて、月涼に会う準備をしていたが神殿奥間までは、入れてもらえなかった。その域に入れるのは、神女と王族のみである。稀に方術の強い力を持つものが修行の為に、入ることを許可されるぐらいである。
「ペンドラムさん、ここで待っていれば、本当に会えるんですか?」
「えー、ここから先は、入れませんから待ちましょう。」
「あのー」
と言って、藍はもじもじとして見せた。
「藍、手洗いですか?そうなら、行ってきなさい。リァンリー様は、まだ、ご準備で湯あみをなされているらしいので時間がかかりそうです。」
「はい。行ってきます。」
藍は、入れないと分かると、一芝居打って、その場を離れることに成功した。神女に変装して入室を試みようとしたのだ。




