リュートとの対面
次の日、仲達と仁軌は、国王謁見の間に通され、しばらく王が来るのを待っていた。
謁見の間は、あの時と同じ検閲の間によく似た作りで、壁や床は水晶で出来ていた。窓から差し込む光が部屋を輝かせて見せる。案内に従い用意された場所に立つ二人は、辺りを見回しこの部屋の雰囲気に、圧倒されていた。その時、玉座の奥から現れたのは、国王ザンビスでは無かった。
「おはようございます。ようこそ、青華国へ仲達殿、仁軌殿。」
そう言って目の前に立ったのは、紫の瞳を持ち長い群青の髪を結っている、見目麗しい青年だった。
仲達と仁軌は、跪き挨拶をするが、王ではないことに驚きを隠せずにいた。
「申し訳ございません。国王の代理でご挨拶させていただきました。我名は、青華国第2皇子リュート・アルディージャ・バラハンと申します。以後お見知り置きを。」
「リュート殿下、西蘭国使者、東宮近衛 謄 仲達でございます。」
「並びに、北光国使者、劉 仁軌でございます。」
仲達、仁軌は、お互い国から預かった書簡を渡し、リュートの出方を待った。
書簡にさらっと目を通したリュートは、物腰柔らかく2人に話し始めた。
「この度は、お二方とも我が婚儀に関する使者として、来ていただきありがとうございます。書簡は、私から国王に手渡しますのでご安心ください。仲達殿は、婚儀まで滞在と書簡に有りましたので、来賓として、部屋を改めてご用意致します。滞在中は、我が国内を観光なされては、如何かと思います。それと仁軌殿の貿易に関する書簡については、後ほど外交の者が来ますので、その者とお話いただければと思いますが・・・仁軌殿は、ご滞在期間が記載されておりません・・・どのようになさいますか?」
「はっ、出来れば、仲達殿と同じ期間をお願いしたく存じます。」
仁軌の答えにリュートが頷いて伝えた。
「では、仲達殿と同じ様に婚儀列席者として来賓専用の部屋もご用意致しましょう。昨日の部屋から移動していただきます。来賓ですので。それでは、また。」
そう言って、リュートがくるりと背を向けて、去ろうとしたので仲達が引き止めた。
「お待ちを!リュート殿下。我々は、海南国まで、月涼・・・もとい涼麗様と共におりました。そのまま、殿下と共に涼麗様が、こちらの国に来ることは聞いておりませんでした。涼麗様は、体調を崩しているとは聞いておりますが・・・我々と共にいる間、とても元気でお過ごしでしたのに・・・会えないほど体調を崩されているというのは?どういう事なのですか?」
リュートが少し怪訝な面持ちで二人に聞く。
「其方たちは、我が許嫁の何なのだ?ただの侍従や使者ではないのか?簡単な報告だけは受けているが・・・どうもそれ以上の関係の様な話し方だな。」
仲達は少し、躊躇しながらもこれまでのいきさつを語る。
「涼麗様は、月涼という名で皇室の機密処理を任されており、我々は、その際、身分に関係なく仲間として、寝食を共にしてきました。この場にはおりませんが、藍という名の侍従もそうでございます。仁軌殿は、もともと西蘭国の者でしたが、いろいろあり北光国に現在、籍を置いておりますが、涼麗様との縁で西蘭と北光の国交を担うものとして、動くようになりました。我々は、一蓮托生の間柄なのです。どうか!どうか!涼麗様の現在のご様子をお教えていただきたい!!」
仁軌もまたそれに加勢して語った。
「我々は、確かに国の使者でもありますが・・・涼麗様の御身だけを心配して来たと言っても、過言ではないのです。どうか!どうか!お教えいただきたい!」
リュートは、二人の熱量に少し負け・・・現在の月涼について、話すことにした。
「リァンリー・・・月涼と呼んだ方が良さそうだな・・・其方たちは、そう言って呼んでいるのであろう?彼女の病については知っていいるのか?」
「それは、女性としての病でしょうか?殿下?」
「うむ。そうだ。予てより、ジアン公が、彼女の治療をこの国でと望まれていた事は、もう聞いているのであろう?ジアン公は、ずっと西蘭国に、彼女を海南国へ渡すように要請していたらしいが・・・あちらの陛下が首を縦に振らなかったからね。」
「今回に限って、どうして許可したのでしょうか?」
思わず聞いてしまう仲達。
「さぁ、その点は、彼女を憂う気持ちより、国内の事情が大きくなったのでは?少し、内乱があったとか?」
仲達は、頷き・・・考えた。ジアン公の意見は素より、月涼は婚姻の話がある事を知らずに、留学を希望していた・・・陛下は、その気持ちを汲んであげたかったはずだ。だが、青華国への留学を許可すれば、婚姻の話もおのずと進む。それでは、月涼の希望に沿わない。涼麗ではなく月涼として生かしてきた以上、駒にはしたくなかったはず・・・それなのに内乱が続き、国の弱体化が明るみに出始めて、それを防ぐには、北光国との和睦だけでは心もとない。青華国と手を結ぶことは、東宮殿下の為・・・。
「仲達殿、理解できたようだね・・・。私は、彼女を望んでいる。決して国の犠牲者としてでは無く、伴侶としてね。彼では、彼女を幸せには、出来ないよ。」
そう言った後、少し話が長くなると思ったリュートは、部屋を移そうと提案し、仲達と仁軌を自分の部屋へと招いた。




