月涼を追いかけて 2
藍が船上で、青華国の言葉をルーランに付きっきりで教わっている最中、仁軌と仲達は、なるだけ早く落ち合える様にと約束してそれぞれの国へ戻っていた。
仲達は、国内に着いてから、忙しく立ち回った。
海南国から持ち帰った親書を太師に提出したり、お詫びにと持たされた積み荷の整理の指示を出し、次の出国のために部下が困らないように指導もしなくてはならなかった。
部下の指導と代わりの補佐官を任命するために軍機処にいると宦官の歩内侍がやって来た。
「仲達様、陛下がお呼びです。乾元殿まで来るようにとの事です。」
「うむ。分かった。すぐに向かう。」
乾元殿まで来ると、伝達の使者も来ていた。
「陛下、お呼びでございますか?」
「そうだ。北光国からの返事が来た。劉将軍を快く貸し出してくれるようだ。だが、このようなことは今回だけにせよ。涼麗の事は個人の問題であり、朕も皇后も青華国へ嫁ぐ事は了承済みだ。向こうから正式な書面も来ておる故、あまり大事にならぬようにせよ。其方の話した状況を信じて、今回の任務を任せる。」
「はっご信頼下さりありがたく存じます。」
「それからな仲達、涼麗を皇籍として送り出す為の正式な手続きをした。その書簡と祝辞を送る準備を丁度している。それをあちらに持っていくように。本来なら国を挙げて送り出すがそれもできぬ。だが、我が娘にあることは変わりない。婚儀が終わり次第、祝いの荷を送ることも伝えるようにしてくれ。あくまで、涼麗を連れ戻すとかではなく使者としていくのだ。そして、できるならば、説得をしてきてくれ。冷たいようだが・・・・・・あれの為でもある。それともう一つ東宮は、この件を一切知らない。婚儀が無事に終わってから話す。分かったな。」
仲達は、陛下の言葉を聞きながら、ぐっと握りこぶしに力を込めてしまっていた。皇族や高位貴族に生まれた以上、恋愛で結婚などほとんどないのは分かっているが、月涼たちと過ごした事でなんとなく納得いかない自分がそこにいたからだった。
「しかと承りました。では、明朝、出立致します。陛下の心使いありがたく存じます。」
仲達の準備が整い出立したころ、仁軌も許可が下りた為、範安に向かう準備をしていた。
「すまんな。度々、家を空けてしまって。」
仁軌は孫をあやしながら安里と珠礼に申し訳なさそうに言っていた。
「いいえ父上。父上のお陰で、この子も平穏に暮らせています。権力争いの中にいるよりもここに居られることの幸せを考えたら・・・・・・ねぇ珠礼。」(安里は、ここで過ごすようになってから仁軌の事を父と呼んでいる。)
「はい。安里様。あの時は、もうだめかと思いましたが、こうして仁軌様と過ごせる幸せを大切に思っております。仁軌様、どうかお体に気を付けてくださいませ。家の事は私がきちんと安里様と差配致します。」
「ささ、父上。珠礼と別れるのは惜しいでしょうが・・・出立せねば。」
安里の言葉に珠礼と仁軌の顔が赤くなった。
「知っていたのか?安里。」
「まぁ父上、見ていればすぐにわかりますよ。ふふ。」
袖の袂を口に当て、安里は笑いをこらえながら話す。
「いってらっしゃいませ。どうかご無事で。」
二人の見送りに少しの寂しさを感じながら家を出た。
馬を走らせ、範安まで2刻ほどかかる。仲達と範安で合流してから青華国と北光国の国境にある都市の阿寒まで一気に行く予定だ。
先に、範安についた仁軌は、あの斉明公女が騒いでいた酒店にいた。
そう言えば、ここから、おかしくなったんだよな・・・ふっと思い出し笑いする仁軌。
そして、藍は無事に青華国に着いたんだろうか?と思いを馳せた。
「仁軌さん!!お待たせしました。」
仲達がやって来た。
「おう。来たか。さ、腹ごしらえしてから出発しよう。」
饅頭を口にほおばりながら仁軌が答えた。
「そうですね。腹ごしらえは、大事ですね。」
「仲達、藍から何か連絡は来たか?」
「いいえ。到着したんでしょうかね?」
うーんとうなりながら更に仲達が言った。
「藍は、あっちの言葉話せないし・・・伝書鳥を扱うところへも行けてないかもしれませんね。」
「そこだよな。あっさり、行ってこいって感じであの馬車に乗せてしまったからな。だが、ジアン公のつけた使用人たちがいるだろうから生活は不自由していないかと思うけどな。」
「ですね。陛下からは、正式な使者として出向けと書簡を渡されました・・・。あくまで、縁談を成立させるための使者として行けと・・・。東宮殿下も一切知らされていないようです。」
「そうか、今回の件は、あらかた分かっていたって感じだな。東宮殿下は、月涼の事を后にっておもってたんだっけか?」
「そうです。東宮殿下の為、国として親としても今回の縁談は、願ってもない事だと言うことです。荒立てるなとくぎを刺されましたよ。すべてにおいてこの縁談は西蘭国のための様です。」
「厄介だな、月涼の気持ちがそれでよければいいんだが。多分違うだろうしな。皇室の秘密処理の仕事を散々してきて、今度は自分が秘密処理されてしまうんだから堪ったもんじゃないな。・・・だが、それで、よくお前を使いにしてくれたな。」
食べ進めながら話を続ける仁軌と仲達。
「まぁ、宴の時の状況と連絡もなく出立したことなどを話したから・・・心配されているのもありますが説得させよってことの方が強いと思いますがね。」
二人とも話せば話すほど・・・月涼に同情しかできないという感じだった。




